団栗どんぐり)” の例文
旧字:團栗
そして今にあれで地球磁気の原因が分るはずなんだと言うと、中には「まさ団栗どんぐりのスタビリティを論じて天体の運動に及ぶたぐいだね」
父親はにがてらしい、家来のなかで黒板権兵衛というのも、ひげなんぞはやして団栗どんぐりまなこで、ちょっとゆだんができないかもしれない。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ワッとおびえて、小児こどもたちの逃散る中を、団栗どんぐりの転がるように杢若は黒くなって、凧の影をどこまでも追掛おっかけた、その時から、行方知れず。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして団栗どんぐりの橋際まで二町程も流されてつと引上げられ、その場は息を吹き返したが、勿論それが基で、二三日病院に居て死んだのだつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
団栗どんぐりのような大きな白眼を、ギョロリと後ろへ送っているので、波越八弥が、はッとその視線を辿ると、先へ行った黒ずくめの服装をした侍が
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
池のほとりで老人は妹と子供たちと、ベンチに腰かけて弁当を食べた。妹と子供たちは団栗どんぐりを拾った。老人はベンチに腰かけて三人の姿を眺めた。
老人と鳩 (新字新仮名) / 小山清(著)
其二は八代目一人がばうを送る文で、「此品いかが敷候へども御霊前へ奉呈上度如斯御座候」と云ひ、末に「廿二日、団栗どんぐり、伊沢様」と書してある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
私の屋敷には、樫の木が数多くあって秋になるとそれから小団栗どんぐりが落ちたからだ。狸はヒョウヒョウと鳴く。
たぬき汁 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
十六にはなったが、知恵の遅い、団栗どんぐりみたいな背の低い不景気な男——朝倉屋の丁稚の定吉は十四だが背も高く、弁舌もうまく、こっちの方が年も上に見える
狐が出ると聞かされていた団栗どんぐり林から、だしぬけに黒犬が飛び出した時には、思わず足がすくんでしまった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「よく人の云う事を疑ぐる男だ。——もっとも問題は団栗どんぐりだか首縊くびくくりの力学だかしかと分らんがね。とにかく寒月の事だから鼻の恐縮するようなものに違いない」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
窓から小高い山の新芽がのびた松や団栗どんぐりや、段々畑の唐黍とうきびの青い葉を見るとそれが恐しく美しく見える。
海賊と遍路 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
小さい大勢の子供たちは尻を突つ立つて、大騒ぎしながらレールの下に団栗どんぐりを埋めにかゝりました。
文化村を襲つた子ども (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
往々又、冬になつても落ちない大きな光沢のある葉をした、黒い卵形の団栗どんぐり位の大きさの実のなる木を、庭に植えてあります。これはチエリイベイ(一種の月桂樹)です。
菓物くだものは凡て熟するものであるから、それをくさるといったのである。大概の菓物はくだものに違いないが、栗、しいの実、胡桃くるみ団栗どんぐりなどいうものは、くだものとはいえないだろう。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
枝折戸しおりどそとに、外道げどうつらのようなかおをして、ずんぐりってっていた藤吉とうきちは、駕籠かごなかからこぼれたおせんのすそみだれに、いましもきょろりと、団栗どんぐりまなこを見張みはったところだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
周囲が団栗どんぐり丈較せいくらべだから、すぐに頭角をあらわす。優良若旦那の好一対、お神酒徳利として認められたのはつとにこの頃からだった。調子に乗って、手張りも熾んにやったが、大きな損はしない。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この頃の空を見ると、団栗どんぐりの実を思い出さずにはいられない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
周平が夢想に耽ってるまに、隆吉は団栗どんぐりを拾って駈けてきた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そこに団栗どんぐりのやうに何かむくむくした男を見た。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
そして今にあれで地球磁気の原因が分かるはずなんだと言うと、中には「正に団栗どんぐりのスタビリティを論じて天体の運動に及ぶ類いだね」
実験室の思い出 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
知らない小父おじさんばかりいるこの本陣の中では、ただ団栗どんぐりのような丸い目をきょろきょろさせているだけだった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
団栗どんぐりのことから狸の身の上に思い及び無用の興を催していたところ、つい最近友人が訪ねてきて、ちかごろに狸の試食会をやろうではないかというのである。
たぬき汁 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
忙しく諸味を汲み上げるあいまあいまに、山で樹液のしたたる団栗どんぐりを伐っていることが思い出された。白い鋸屑のこくずが落葉の上に散って、樹は気持よく伐り倒されて行く。
まかないの棒 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
団栗どんぐりなんぞでも大学校で勉強するものでしょうか」「さあ僕も素人しろうとだからよく分らんが、何しろ、寒月君がやるくらいなんだから、研究する価値があると見えますな」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
別嬪べっぴんが二人、木曾街道を、ふだらくや岸打つ浪と、流れて行く。岨道そばみちの森の上から、杓を持った金釦きんぼたん団栗どんぐりころげに落ちてのめったら、余程よっぽど……妙なものが出来たろうと思います。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小鳥に踏み落されて阪道にこぼれたる団栗どんぐりのふつふつとひづめに砕かれ杖にころがされなどするいと心うくや思いけん端なく草鞋の間にはさまりて踏みつくる足をいためたるも面白し。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「嘘だ嘘だお前は真弓に相違あるまい、それは俺が負けてやろうが、この千代之助を忘れて団栗どんぐりのような醜い良平づれが恋しくなる——ハッハッ、そんなそんな、馬鹿な事があろうか」
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そんな時に、彼がよく思い出すのは村はずれの団栗どんぐり林だった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
団栗どんぐりの木の物干しに、洗濯ものの懸ることもなくなりましたから、この分でゆくと晩秋の月夜には、女狸めだぬきが子を生みに来るかも知れないほどなあき屋敷なのです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白樺や、はんのきや、団栗どんぐりなどは、十月の初めがた既に黄や紅や茶褐に葉色を変じかけていた。露の玉は、そういう葉や、霜枯れ前の皺びた雑草を雨後のようにぬらしていた。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
かたじけなくも学問最高の府を第一位に卒業してごう倦怠けんたいの念なく長州征伐時代の羽織の紐をぶら下げて、日夜団栗どんぐりのスタビリチーを研究し、それでもなお満足する様子もなく
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
えのきの実に団栗どんぐりぐらい拾いますので、ずっと中へ入りますれば、栗もしいもございますが、よくいたしたもので、そこまでは、可恐こわがって、おちいさいのは、おいたが出来ないのでございます。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これにつぐのが伊豆の天城山、丹波の雲ヶ畑、日向の霧島山あたりでれるものであるそうだが、紀州の猪が最も味がよろしいというのは、ここが団栗どんぐり林に富んでいるからであると言う。
たぬき汁 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
結局は団栗どんぐりの背比べで、カルーソーの魅力の十分の一にも及ばず、イタリー歌劇は顛落の運命を辿って、無残レヴューやショーやコミック・オペラに押されるの已むなきに至ったのである。
ゆうべの雨で、道には、団栗どんぐりや萩の花がこぼれている。十五夜をすぎると、秋は急に深まってくる。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西南角の土塁の彼方には、遙かに、草原と、黄土の上の青畑と、団栗どんぐりや、楢や、アカシヤの点々たる林が展開していた。霞んで見える。いつも、ほっついている山羊の群れもなかった。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
これにつぐのが伊豆の天城山、丹波の雲ヶ畑、日向の霧島山あたりで猟れるものであるさうだが、紀州の猪が最も味がよろしいと言ふのは、こゝが団栗どんぐり林に富んでゐるからであると言ふ。
たぬき汁 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
が、秋日の縁側に、ふはりと懸り、背戸せどの草に浮上つて、傍に、其のもみぢに交る樫の枝に、団栗どんぐりの実の転げたのを見た時は、あたかも買つて来た草中から、ぽつと飛出したやうな思ひがした。
玉川の草 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かたちのみ、すがたのみ、いかにも、あららかに、苦行精進いたすようになっても、秋栗の皮ほども、心のはじけぬ者もある。生れながらの団栗どんぐりであればぜひなき儀と思うよりほかはない
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
笹や、団栗どんぐりや、雑草の青い葉は、洗われたように、せい/\としている。
鍬と鎌の五月 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
けばけばしく真赤まっか禅入ぜんにゅうを、木兎引ずくひきの木兎、で三寸ばかりの天目台てんもくだい、すくすくとある上へ、大は小児こども握拳にぎりこぶし、小さいのは団栗どんぐりぐらいな処まで、ずらりと乗せたのを、その俯目ふしめに、トねらいながら
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、真面目まじめで、無口で、からだは図ぬけて大きく、固肥かたぶとりという方で、団栗どんぐりのような眼をもっている。一見豪傑らしいが、その丸っこい眼が、にやっと笑うと、まるで、子どもだ。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山の団栗どんぐりを伐って、それを薪に売ると、相当、金がはいるのであった。
窃む女 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
団栗どんぐりかずとりをした覚えがあります。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
百姓じまの下に、稽古着を着、紺のもんぺをはいているのである。初めは、にやにや笑っていたが、坐ると、大きな口を真面目にむすび、伯父の顔いろを、団栗どんぐりのような眼でじっと見ていた。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
枯れあしと、低い団栗どんぐりの木、猫柳、野梅が二、三本。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)