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啼声
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なきごえ
ふりがな文庫
“
啼声
(
なきごえ
)” の例文
旧字:
啼聲
暫
(
しば
)
らく、道の上に立って、遠くに響く波音を聞き取ろうとした……何の音も聞えて来ない。人も来なければ、犬の
啼声
(
なきごえ
)
もしないのである。
薔薇と巫女
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
その中へ、
咽喉
(
のど
)
の水を吐きだした途端に、ほら、ちやうど先刻みたいなギギーッと裂くやうな
啼声
(
なきごえ
)
と、けたたましい羽ばたきがしたのさ。
夜の鳥
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
私たちは三人で小舟に乗って、沖合はるかに漕ぎ出して行くと、海は一面に美しく
凪
(
な
)
いで、餌を
漁
(
あさ
)
る海鳥の
啼声
(
なきごえ
)
が
賑々
(
にぎにぎ
)
しかった。
えぞおばけ列伝
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
其の日長左衛門
殿
(
どん
)
が山へ
箱根竹
(
はこねだけ
)
イ
芟
(
き
)
りに行って、
日暮
(
ひくれ
)
に下りて来ると、山の下で孩児の
啼声
(
なきごえ
)
がするから、魂消て行って見ると、沢の岸の
名人長二
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
三河の半島の或る町の祭には、小児が
烏
(
からす
)
の
啼声
(
なきごえ
)
を真似てこの白餅をもらって食う
風
(
ふう
)
があった。それでこの日は彼らをカラスと呼んでいた。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
▼ もっと見る
「気の毒気の毒」と思い
寐
(
ね
)
にうとうととして眼を覚まして見れば、
烏
(
からす
)
の
啼声
(
なきごえ
)
、雨戸を繰る音、裏の井戸で
釣瓶
(
つるべ
)
を
軋
(
きし
)
らせる
響
(
ひびき
)
。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
女猫
(
めねこ
)
を慕う男猫の思い入ったような
啼声
(
なきごえ
)
が時折り聞こえる
外
(
ほか
)
には、クララの部屋の時計の
重子
(
おもり
)
が静かに下りて歯車をきしらせる音ばかりがした。
クララの出家
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
すると、
蛙
(
かえる
)
の
啼声
(
なきごえ
)
が今あたり一めんにきこえて来る。ひっそりとした夜陰のなかを逃げのびてゆく人影はやはり絶えない。
壊滅の序曲
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
ジュ、ジュクと雀の
啼声
(
なきごえ
)
が
樋
(
とゆ
)
にしていた。喬は
朝靄
(
あさもや
)
のなかに明けて行く水みずしい外面を、半分覚めた頭に描いていた。
ある心の風景
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
この頃の
空癖
(
そらくせ
)
で空は低く
鼠色
(
ねずみいろ
)
に曇り、あたりの樹木からは
虫噛
(
むしば
)
んだ青いままの
木葉
(
このは
)
が絶え間なく落ちる。
烏
(
からす
)
や
鶏
(
にわとり
)
の
啼声
(
なきごえ
)
鳩
(
はと
)
の
羽音
(
はおと
)
が
爽
(
さわや
)
かに力強く聞える。
すみだ川
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
巾
(
はば
)
広い、牛の
啼声
(
なきごえ
)
のような汽笛が、水のように濃くこめた霧の中を一時間も二時間もなった。——然しそれでも、うまく帰って来れない川崎船があった。
蟹工船
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
ただ深更に及んでその
啼声
(
なきごえ
)
じゃね、これを聞くと百獣
悉
(
ことごと
)
く声を潜むる。鳥が
塒
(
ねぐら
)
で騒ぐ。昔の
猅々
(
ひひ
)
じゃと云う。
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
何とも
名状
(
めいじょう
)
しがたい、一種の鳥の
啼声
(
なきごえ
)
のような叫び声を出して、その場に
尻餅
(
しりもち
)
をついて倒れてしまった。
誰が何故彼を殺したか
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
庭の柿の幹に
青蛙
(
あおがえる
)
の
啼声
(
なきごえ
)
がきこえて、
銀
(
しろがね
)
のような大粒の雨が
遽
(
にわか
)
に青々とした若葉に降りそそいだりした。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
つい今しがた母胎を出たばかりなのに、
小猫
(
こねこ
)
の様な
啼声
(
なきごえ
)
を出して、
勢
(
いきおい
)
猛
(
もう
)
に母の乳にむしゃぶりつく。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
その時はもう夕方で、
鴉
(
からす
)
の
啼声
(
なきごえ
)
が聞え、
附近
(
まわり
)
が灰色になって来た。子供だちは不安になった。
虎杖採り
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
四明
(
しめい
)
ヶ
岳
(
だけ
)
の壁にはまだ残雪の
襞
(
ひだ
)
が白く描かれているが、この辺りではもう寒いというには足らない春のことである、その証拠にはあちらこちらの沢や谷で
鶯
(
うぐいす
)
の
啼声
(
なきごえ
)
がしぬいている。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
遅くなって戸を閉める音、深夜の人の話声、犬の
啼声
(
なきごえ
)
、楽しそうな農夫の唄。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
怪鳥は、怪塔王が身をなげた岩の割れ目へとびこみましたが、しばらくすると、「けけけけ」と、聞くのもぞっとするような
啼声
(
なきごえ
)
をたてて、また帆村のいる方へ、とびもどってまいりました。
怪塔王
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
「現にその
啼声
(
なきごえ
)
を聞いたという者が幾人もありますからね。」
こま犬
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
折々
聞
(
きこ
)
ゆるは
河鹿
(
かじか
)
の
啼声
(
なきごえ
)
ばかり、只今では
道路
(
みち
)
がこう西の山根から致しまして、
下路
(
したみち
)
の方の
川岸
(
かし
)
へ附きましたから五六町で
往
(
い
)
かれますが
霧陰伊香保湯煙
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
二郎は魂の抜け去ったように
茫
(
ぼう
)
っとして
佇
(
たたず
)
んでいますと、頭の上の大きな杉林に風の音が物凄く、月の光りがちらちらと洩れて
梟
(
ふくろ
)
の
啼声
(
なきごえ
)
が聞えます。
迷い路
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
静かに聴いていると我々の
雀
(
すずめ
)
の声は、毎日のように成長し変化して行く。ある日はけたたましい
啼声
(
なきごえ
)
を立てて、彼等の大事件を報じ合おうとしている。
野草雑記・野鳥雑記:02 野鳥雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
最終
(
しまい
)
には
取捉
(
とッつか
)
まえて
否応
(
いやおう
)
なしに格子戸の内へ入れて置いては出るようにしていたが、然うすると前足で格子を引掻いて、悲しい悲しい血を吐きそうな
啼声
(
なきごえ
)
を立てて
後
(
あと
)
を慕い
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
簡単な
啼声
(
なきごえ
)
で動物と動物とが
互
(
たがい
)
を理解し合うように、妻は仁右衛門のしようとする事が呑み込めたらしく、のっそりと立上ってその跡に
随
(
したが
)
った。そしてめそめそと泣き続けていた。
カインの末裔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
ある日、私が授業を
了
(
お
)
えて、二階から降りて来ると、先生はがらんとした工場の
隅
(
すみ
)
にひとり腰掛けていた。その側で何か
頻
(
しき
)
りに
啼声
(
なきごえ
)
がした。ボール箱を
覗
(
のぞ
)
くと、
雛
(
ひな
)
が一杯
蠢
(
うごめ
)
いていた。
廃墟から
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
羽ばたきもなければ、ギャーッという
啼声
(
なきごえ
)
もしない。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と、鳥の
啼声
(
なきごえ
)
のような声をたてた。
霊魂第十号の秘密
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
これから転じてはバンチクという村もあり、
伏木
(
ふしき
)
の港に行くと普通にはバンチャといっているが、チクとかチャとかは多分
啼声
(
なきごえ
)
に基いたあだ名の
如
(
ごと
)
きものであろう。
野草雑記・野鳥雑記:02 野鳥雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
人も
稀
(
まれ
)
にしか行かない処で、春、夏、秋、冬、鳥の
啼声
(
なきごえ
)
と、白雲の悠々と流れ行く姿を見るばかり。
森の妖姫
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
もっともその昔話にも時代につれて、少しずつの変化はあったようだが、大体に鳥の挙動や
啼声
(
なきごえ
)
の特徴と結び付いたものは古くからあった形と見てもよいようである。
野草雑記・野鳥雑記:02 野鳥雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
福島県石川郡には、虎杖をテテポーポーという例があると報ぜられる。もしそれが誤解でないならば、やはり一方鳩の
啼声
(
なきごえ
)
などがあるために、少しく転訛してこんな名になったのである。
野草雑記・野鳥雑記:01 野草雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
啼
漢検1級
部首:⼝
12画
声
常用漢字
小2
部首:⼠
7画
“啼”で始まる語句
啼
啼音
啼止
啼泣
啼出
啼立
啼聲
啼入
啼鳥
啼狂