そゝの)” の例文
……れば御身おみは、わかいものゝ尻圧しりおししていしるまでもはたらけ、とはげますのぢや。で、そゝのかすとはおもふまい。徒労力むだぼねをさせるとはるまい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
出せといふに又一人も同じく侍士さふらひに向ひおう然樣さうだ殘らず渡したとてそんはあるまいコウ侍士さふらひ大方おほかた此女は餘所よそ箱入娘はこいりむすめそゝのかし云合せて親の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
心の闇に迷いまして一通りの間違いではない、原丹治と密通をいたし、現在の娘をそゝのかしておのれ密夫みっぷせがれ丹三郎と密通させ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
乃ち我は父と子とを互に背くにいたらしめしなり、アーキトフェルがアブサロネをよからぬ道にそゝのかしてダヴィーデに背かしめしも 一三六—
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
竹山自身も亦、押へきれぬ若い憧憬に胸をそゝのかされて、十九の秋に東京へ出た。渠が初めて選んだ宿は、かの竹藪の崖に臨んだ駿河臺の下宿であつた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
と、黒ん坊はズボンのポッケットから二十銭銀貨を出しながら、己の耳元へ口をつけてそゝのかすように云った。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
決斷心も、理性に劣らず刺㦸されて、こらへきれない壓迫からのがれる爲めに、思ひもよらぬ手段をそゝのかした。逃げるか、それが出來ないなら、絶食して死なうと決心した。
しくも甘い眼つき、脅かすよりはむしろそゝのかすやうに八の字を寄せるその狭い額、その淡紅な薄い唇、むせ返へるやうなみづ/\しい黒髪のあぶらと、化粧した肌の香ひ、——その女が
「やあ、しばらく」と云つて代助のまへつた。代助も相手にそゝのかされた様に立ちがつた。二人ふたりちながら一寸ちよつとはなしをした。丁度編輯のいそがしいときゆつくりうする事も出来なかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かん/\とこほつてかねしづんだ村落むら空氣くうきひゞわたつた。希望きばう娯樂ごらくとにそゝのかされてつて老人等としよりら悉皆みんなひだりげて撞木しゆもくたゝいてかねひびきおくれるないそげ/\とみゝいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ふみはしば/\われらの目をそゝのかし色を顏よりとりされり、されど我等を從へしはその一節ひとふしにすぎざりき 一三〇—一三二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「香に迷ふ」とか云ふので、もとより端物ではあるけれど、濃艶な唄の文句が醉ふた心をそれとなくそゝのかす。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
わかいものをそゝのかして、徒労力むだぼねらせると何故あぜふのぢや。御坊ごばう飛騨山ひだやま菊松きくまつが、烏帽子えばうしかぶつて、向顱巻むかふはちまき手伝てつだつて、見事みごと仕上しあげさせたらなんとする。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しばらくお待ち下さい、其のお腹立はらだち重々じゅう/″\御尤ごもっともでございますが、お嬢様がわたくしを引きずり込み不義を遊ばしたのではなく、手前が此の二月始めて罷出まかりいでまして、お嬢様をそゝのかしたので
あゝ惡き狂へるめしひの慾よ、苟且かりそめの世にかく我等をそゝのかし、後かぎりなき世にかくさちなく我等をひたすとは 四九—五一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
こんなときそゝのかして、狂人きちがひじみたわざをさせて、これうばはうとするのかもれぬ。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ような事でもいたしますが、拙者は屋敷育ちでとん知己しるべもござらず、前町まえまちに出入町人はございますが、前町の町人どものかたへも参られず、他人ひとの娘をそゝのかしたとお腹立もございましょうが
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いとよわき我等の力を年へし敵のこゝろみにあはせず、巧みにこれをそゝのかす者よりねがはくは救ひ出したまへ 一九—二一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
わかいものをそゝのかしてらぬほねらせるな、娑婆しやば老爺おやぢめが、』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)