そう)” の例文
旧字:
そうと、外套の袖口と、膝の処が泥だらけになりおれども、顔面には何等苦悶のあとなく、明け放ちたる入りきたる冷風に吹かれおり。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と思うと身をかがめて、そうまなこをやり過ごした闇へ——蝋色ろいろさやは肩より高く後ろへらしてススススと追いすがったが音もさせない。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屏風びょうぶそう手燭てしょくちょう、燭台何挺、火鉢ひばち何個、煙草盆たばこぼん何個、草履ぞうり何足、幕何張、それに供の衆何十人前の膳飯ぜんぱんの用意をも忘れてはならない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また釣瓶落つるべおちにちるという熟柿じゅくしのように真赤な夕陽が長いまつげをもったつぶらな彼女のそうの眼を射当いあてても、呉子さんの姿は
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「どんな聯想なの」と女はおとなしく聞きつつ、そうの手を立ちながらひざの上に重ねる。手頸てくびからさきが二寸ほど白く見えて、あとは、しなやかなるきぬのうちに隠れる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほんの一刹那せつな、湯殿を跳び出しながらチラと見返ると、そこにはすでに喬之助の顔も誰の顔もなかったが、確かにこのそうで見たのだから、園絵は、気も顛倒てんとうしている。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
天津速駒あまつはやごまという勇敢なる白馬がんでおりました、それは武甕槌たけみかずちという神様の魂から生れた馬だそうでございます、そうの肩に銀の翼が生えていて空中をかけめぐり、夜になると
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
狂わんばかりに打ちはためく電につんざかれて、魂の地平を取り囲みながら、息をつめてる空をそうの翼で荒々しく打ちながら、日の光を消しながら、眼くらむほどにかつ重々しくかけってくる。
頬のかかり白々しろじろと、中にも、円髷まるまげったその細面ほそおもて気高けだかく品の女性にょしょうの、もつれたびんの露ばかり、面婁おもやつれした横顔を、またたきもしないそうの瞳に宿した途端に、スーと下りて、板の間で
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八点と屏風一そうと骨董類五、六点だけを残しておきました。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
太しきそうの羽根さへも起居たちゐさまたぐ足まとひ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
そうの角に引懸ひきか
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
かつて、新聞の小ニュース欄に、M家に伝わる武蔵の花鳥図屏風かちょうずびょうぶそうが、博物館の陳列に新たに加わることが報じられている。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左足が、きざむようにこれにともない、そうの爪先で呼吸をはかりながら、にじりよる。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
美人たおやめは其の横に、机を控へて、行燈あんどうかたわらに、せなを細く、もすそをすらりと、なよやかに薄い絹の掻巻かいまきを肩から羽織はおつて、両袖りょうそでを下へ忘れた、そうの手を包んだ友染ゆうぜんで、清らかなうなじから頬杖ほおづえいて
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そう手振てぶりの怪しきは
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
そうつの引懸ひきか
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そうまなこは百錬の鏡というもおろかである。怒れる鬼髯きぜんは左右にわかれ、歯は大きな唇を噛み、眉、まなじり、髪のさき、すべて逆しまに立って、天も衝かん形相である。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうひたひをこもごもに
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
そう截鉄せってつ落剣らっけん! 異様いようなる血の音を立って、武田伊那丸たけだいなまるの首はバスッとまえにおちた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口アングリひらいて見ていることややしばし、たちまち、鼓膜こまくをつんざくような大鷲おおわし絶鳴ぜつめいとともに、大蛇おろちに巻きしめられていたそうつばさがバサッとひろがったせつな、あたりいちめん
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)