厳粛げんしゅく)” の例文
旧字:嚴肅
我々は今まで議論以外もしくは以上の事として取扱われていた「趣味」というものに対して、もっと厳粛げんしゅくな態度をもたねばならぬ。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
私はそう自問自答すると、急に赤ん坊に対する肉体的な親近感しんきんかんをおぼえ、父親らしい厳粛げんしゅくな態度で話しかけたい気持になってきた。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
いくさがあっても貧相でなく、新鋳しんちゅう小判こばんがザラザラ町にあらわれ、はでで、厳粛げんしゅくで、陽気で、活動する人気にんきは秀吉の気質きしつどおりだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頸から上が、厳粛げんしゅくと緊張の極度に安んじて、いつまで経っても変るおそれを有せざるごとくに人をした。そうして頭には一本の毛もなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
姉の意見は厳粛げんしゅくな悲劇をわざと喜劇に翻訳する世間人の遊戯であるなどとも言った。こう言う言い合いのつのった末には二人ともきっと怒り出した。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは西山にとってはどっちから見てもこの上なく厳粛げんしゅくな壮美な印象イメージだった。西山はしばしばそれにりたてられた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私にとっては、厳粛げんしゅくなるお酒を、めながら、私は、庭を眺めて、しぶい眼を見はった。庭のまんなかに、一坪くらいの扇型の花壇ができて在るのだ。
めくら草紙 (新字新仮名) / 太宰治(著)
急に厳粛げんしゅくに変わった如来の目が悟空をキッと見据みすえたまま、たちまち天をも隠すかと思われるほどの大きさにひろがって、悟空の上にのしかかってきた。
それは五階建ての白い鉄筋コンクリートの真四角なビルディングが、同じ距離をへだてて、墓場のように厳粛げんしゅくに、そして冷たく立ち並んでいる構内であった。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かくばかり不穏ふおんなる精神も、実に如何なる厳粛げんしゅく敬虔けいけん幽静ゆうせい、崇高なる道念を発せしめたるか。吾人ごじんはその父兄に与うる書についてこれを知るを得るなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
彼女はあらためてパパとママンになりそうな人がしいと希望を持ち出した。この界隈かいわいってはすべてのことが喜劇の厳粛げんしゅく性をもって真面目に受け取られた。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
語り終った花田警部は、いつになく厳粛げんしゅくな顔で、そこに突ッ立ったまま、ふたりの様子を見守った。あけみは話の半ばから、ベッドに倒れて泣き入っていた。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
沈黙ちんもくがかなりながいことつづいた。次郎はかって経験したことのない異様な興奮と、厳粛げんしゅくな気持ちとを同時に味わいながら、じっと先生の横顔を見つめていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
参謀総長は厳粛げんしゅくそのもののような顔をして、少佐をじっと見詰めながら重々しく云いました。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
かれはこう心に決めた、が職員室へはいるとかれは第一に厳粛げんしゅくな室内の空気におどろいた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
なおいやな事はこういう厳粛げんしゅく法会ほうえの時に当ってとにかく金を沢山貰えるものですから、貧乏な壮士坊主の常としてうまい肉を余計喰う奴もありまた小僧をしたう壮士坊主もある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そしてのぞき込んだ彼の眼に映ったものは意外にも職工頭の山田の顔だった。ニベもなくさっき自分を断ったあの職工頭の顔だった。なんともいえぬ厳粛げんしゅくなものが彼の胸を打った。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
彼らはひどくお喋舌しゃべりであって、どうも一向厳粛げんしゅくでなかった。全く礼節にかかわらなかった。「おめえ」だの「おいら」だの「うぬ」だの「わい」だのと、こういう言葉を平気で使った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
長い長い人生のうちにも、滅多にこんな厳粛げんしゅくな気持になる時間はないものです。
あれやこれやの不快感を、進級式の作法の練習といふ緊張と厳粛げんしゅくの表情の下にかくすことは、さほど難かしいことではなかつた。少年はそれに成功し、教師も満足して、やがて少年を解放した。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
その原始的生活に於ては人類と他動物との間にさまでの径庭けいていなく、皆雑婚で、目迎え目送って相可あいかなりとすれば、直ちに相握手してはばからず、なんらその間に厳粛げんしゅくなる制限の存在せぬのであったが
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
われらの罪の方面からみるときに、幼児おさなごはじつにかわいそうな存在であり、能力ちからの方面からみるときによろこばしい存在であり、全然新しい独自どくじの人としてみるときにじつに厳粛げんしゅくな存在であります。
おさなご (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
「二百二十四号は?」三十号が厳粛げんしゅくにたずねた。
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
嘉三郎は厳粛げんしゅくな調子で言って、固く唇を結んだ。
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
瑠璃子は、可なり厳粛げんしゅくな態度でそういた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
総理は厳粛げんしゅくな口調でいった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
自己および自己の生活を厳粛げんしゅくなる理性の判断から回避している卑怯者、劣敗者の心を筆にし口にしてわずかに慰めている臆病者
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
阿部豊後守を初め、土屋、小笠原、稲葉の諸大老以下、若年寄、大目付たちの歴々が、膝をかためて、厳粛げんしゅくに詰めあっている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の話を聞くと共に、ほとんど厳粛げんしゅくにも近い感情が私の全精神に云いようのない波動を与えたからである。私は悚然しょうぜんとして再びこの沼地の画を凝視ぎょうしした。
沼地 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この時宗助と並んで厳粛げんしゅくに控えていた男のうちで、小倉こくらはかまを着けた一人が、やはり無言のまま立ち上がって、室のすみの廊下口の真正面へ来て着座した。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ケンは厳粛げんしゅくに言いはなつと、今まで熱狂的ねっきょうてきにあおいでいた眼をふせて、岬のはずれをふたたび見守った。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こんな風にして、何とも形容し難い、奇妙な晩餐ばんさんがすんだ。結局木島刑事は、誰の顔からも、疑わしい色を読み取ることが出来なかった。皆青ざめた厳粛げんしゅくな表情をしていた。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
隊の指揮しきをしていた青年が、そのまま先方の代表として進み出た。かれはまず大河をはじめこちらの塾生たちに厳粛げんしゅく挙手きょしゅ注目ちゅうもくの礼をおくったあと、精一ぱいの声をはりあげて
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
厳粛げんしゅくと云いたいような声であった。彼女にそぐわない声であった。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ゴルドンの一言が厳粛げんしゅくひびいた、一同は位置についた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
あまりの厳粛げんしゅくさに園はしばらく茫然ぼうぜんとしていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
署長はそう厳粛げんしゅくな口調で云った。
だが部下の巡査は、その小さな一事件にも、職務の忠実を示し得るように、おそろしく厳粛げんしゅくがって、鉛筆のシンをめる。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらは皆電燈の光に、この古めかしい応接室へ、何か妙に薄ら寒い、厳粛げんしゅくな空気を与えていた。が、その空気はどう云うわけか、少将には愉快でないらしかった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
電話が終ると、首領はにわかに厳粛げんしゅくな態度にかえって、団員一同を見渡すと、やがて静かに口を開いた。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは、何という滑稽こっけいな、しかしながら又、何という厳粛げんしゅくな、一つの光景であったろう。私は余りの怖さに、ワッと叫んで、いきなり走り出したい様な気持になったことである。
毒草 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……こういう時こそ、一人一人が、もっと厳粛げんしゅくに……もっと謙遜けんそんに、自分を反省してみなくちゃあ。……大事なのは、友愛塾が友愛塾という形で勝つか負けるかということじゃない。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
すると森本は比較的厳粛げんしゅくな顔をして
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
横に、笛を構えて、歌口うたくちしめしているお菊ちゃんの形が、優雅で、厳粛げんしゅくで、斧四郎も露八も芸妓たちも、れとひとみを彼女の顔にあつめていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「帆村君」司令官は、厳粛げんしゅくな態度のうちに、感激を見せて、名探偵の名を呼んだ。「いろいろと、御苦労じゃった。なお、これからも、お骨折りを、願いまするぞ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あの犬は入り日の光の中に反対の方角へ顔を向けたまま、一匹のようにじっとしていた。のみならず妙に厳粛げんしゅくだった。死と云うものもあの二匹の犬と何か似た所を持っているのかも知れない。……
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
人間と土くれとの情死、それが滑稽に見えるどころか、何とも知れぬ厳粛げんしゅくなものが、サーッと私の胸を引しめて、声も出ず涙も出ず、ただもう茫然ぼうぜんと、そこに立ちつくす外はないのでございました。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と思うと、すでに二ばん試合じあい合図あいずが、いきもつかずとうとうと鳴りわたって、清新せいしん緊張きんちょうと、まえにもまさる厳粛げんしゅくな空気を、そこにシーンとすみかえらせてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彦田博士も、帆村荘六も、しばし厳粛げんしゅくな顔で沈黙していた。しかし、ついに博士が口を開いた。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼のからだ全体に、何かしら厳粛げんしゅくなものが感じられた。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)