千万せんばん)” の例文
旧字:千萬
「……貴公のごとき前世紀の怪物かいぶつが花岡伯爵家の子弟教育に従事するは身のほど知らず、ふとどき千万せんばんなり。時勢を見よ。時勢を見よ……」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
気違い病院に放り込むなど、まるで涙香小史しょうし飜案ほんあんする所の、フランス探偵小説みた様な、奇怪千万せんばんな犯罪すら行われているのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
運のほかに何の頼みとする所はありません。それならば男女の交際法を開いてお互に選択させたらばどうかというのにこれもまた危険千万せんばんです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あぶないともおもはずにずつとかゝる、すこしぐら/″\としたがなんなくした。むかふからまたさかぢや、今度こんどのぼりさ、御苦労ごくらう千万せんばん
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かかるところにあっては蛇の姿を嫌がるどころにあらず、諸邦でこれを家の祖霊、耕地の護神とせるはもっとも千万せんばんと悟った。
れど目科は妻ある身に不似合なる不規則千万せんばんの身持にて或時は朝なお暗き内に家をいずるかと思えば或時は夜通し帰りきたらず又人の皆寝鎮ねしずまりたるのちいたり細君を
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ええ一寸ちょっと一言ご挨拶を申し上げます。今晩こんばんはあついおもてなしにあずかりまして千万せんばんかたじけなく思います。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
なほ、此儀は、弥左衛門殿ぢきに見受けられ候趣にて、村方嘉右衛門殿、藤吾殿、治兵衛殿等も、其場に居合されし由に候へば、千万せんばん実事じつじたるに紛れ無かる可く候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
貪ろうとしたのか? それとも、条文の不備か? 何のためかというに、それは、このピルコマヨという化物のような、じつに不可解千万せんばんな川のために起っている。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何うか何分なにぶんにも此の事は御内分におはからい下さるれば千万せんばん有難うございます、何分にも内済ないさいに願います
ところがこれなる燕作えんさくのもうすには、しょせん人穴城ひとあなじょうへは入れぬとのこと、せっかくここまでまいりながら、呂宋兵衛るそんべえどのにも軍師ぐんしにも、会わずにもどるとは残念千万せんばん
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アダムの二本棒にほんぼう意地いぢきたなさのつまぐひさへずば開闢かいびやく以来いらい五千ねん今日こんにちまで人間にんげん楽園パラダイス居候ゐさふらふをしてゐられべきにとンだとばちりはたらいてふといふ面倒めんだうしやうじ〻はさて迷惑めいわく千万せんばんの事ならずや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
道理もっとも千万せんばんちげえねえ、これから売るものアてめえ身体からだより他にゃあえんだ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
意外にも奇怪千万せんばんなる寃罪えんざいの因となりて、一時妾と彼女と引き離されし滑稽談こっけいだんあり、当時の監獄の真相をつまびらかにするの一例ともなるべければ、今その大概を記して、大方たいほうの参考に供せん。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「郡奉行に、村役人は、これは頭ごなしに、詮議せんぎ不行届ふゆきとどき、天一坊は贋者で無いか、こういう証拠があるのに、前任者へ責任を転嫁てんかさせるとは、不都合千万せんばんと、叱ってもらえば、一も二もあるまい」
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
これだけの大した身なりの婦人で、引取人の無いのは不思議千万せんばんだと署員がうわさし合っているところへ、待ちに待った引取人が現れた。それは轢死後れきしご丁度ちょうど十四時間ほど経った其の日の真夜中だった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし後から考えるとその時の出来事が、後に彼の愛児を惨死させた間接の……イヤ……直接の原因になっているとしか思われない、意外千万せんばんの出来事が起って、非常な打撃を彼に与えたのであった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
危険千万せんばんだと思うと笑いたくもなった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「ああ、お気の毒千万せんばんです。人をのろう者は、終生呪いの苦患くげんから救われぬと申します」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文「これ其処そこるのはお浪じゃないか、國藏待て、その親切は千万せんばんかたじけないが、まア/\此処こゝへ来い、お浪や早く國藏に着物を着せてやれ、森松、國藏夫婦は何時いつに来たのだ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ついには洋燈らんぷを戸棚へ入れるというような、危険千万せんばんな事になったので、転居をするような仕末、一時いちじは非常な評判になって、うちの前は、見物の群集で雑沓ざっとうして、売物店うりものだなまで出たとの事。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かく読み終れる妾の顔に包むとすれど不快の色や見えたりけん、客はいとど面目なき体にて、アアあやまてり疎忽そこつ千万せんばんなりき。ただ貴嬢の振舞を聞きて、直ちに醜婦と思い取れる事の恥かしさよ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
仰せ千万せんばん御尤ごもつともに候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
祖「千万せんばん有難う存じます……志摩しま殿、幸五郎こうごろう殿御苦労さまで」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)