ばか)” の例文
そうって、勝平は叮嚀に言葉を切った。老狐ろうこばかそうと思う人間の前で、木の葉を頭からかぶっているような白々しさであった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さうだ恰度この辺だ! 小川の流れが左に迂回してゐる水門のほとりだと云つた! ——狐にばかされて酷い目に遇つたといふ凄い話を伝へた。
黄昏の堤 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
彼の狡智かうちな顏つきに接せず、しかも、そんな、汚なくばかされる人間そのものを、てんから馬鹿ものとして耳にしてゐたからなのかも知れない。
春宵戯語 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
そこでチルナウエルは次第に小さい銀行員たることを忘れて、次第に昔話の魔法でばかされた王子になりすました。
……分ったか。若い女の途中があぶない、この入口まで来て待ってやる、ばかされると思うな、夢ではない。……
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「年々色をかえ品をかえたる流言の妄説うそばなしこりも無く毎年ばかされて、一盃ずつうまうまと喰わさるる衆中」
傾城買虎之巻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ひょっとしたら私が気を落している所へ附込んで、きつねたぬきばかすのではないか、もし化されて此様こんな処へ来やアしないかと、茫然として墓場へ立止って居りました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
このあたりには、よく狐めがゐて人をばかすといふうはさだが、わしは狐ぢやない。くずの葉を見せ変へて、小判だなんといはぬから、よくあらためて受けとりな。さあさ。
狐の渡 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
人をばかすとか、腹鼓はらつづみを打つとかいう特有の芸能を見る人は見る人として、犬族としては珍しく水に潜り、木にのぼる芸当を持っているということを学者は珍重する。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
狐の人をばかす事、伝通院でんつういん裏の沢蔵稲荷たくぞういなり霊験れいげんなぞ、こまごまと話して聞かせるので、私は其頃よく人の云うこっくり様の占いなぞ思合せて、なかばは田崎のゆうくみして
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
第一の所化 (一歩前に踏み出し乍ら)やれ、口惜くちをしや、南蛮寺の妖術めにばかされておぢやつたとは。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
たぬき毛皮けがは大變たいへんやくつもので、値段ねだんたかいのです。きつねたぬきむかしひとばかすものとしんじられたりしましたが、けつしてそんなばかげたことがありるわけもありません。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
なんでもお前さんはその黒い目で、蛇が人をにらめるようにわたしを見ていて、わたしをばかしてしまったのだわ。今思って見ればわたしはお前さんにじりじり引き寄せられていたのだわ。
かう見えても、あなたよりは氣はたしかです。あなた達の方がばかされてゐるのですよ。
正雪の二代目 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
考えて見ると今まで木の影を離れる事が出来ぬので同じ小道を往たり来たりして居る、まるで狐にばかされたようであったという事が分った。今は思いきって森を離れて水辺に行く事にした。
句合の月 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「でも、よく來て下すつたわねえ、——お狐にでもばかされると思つたでせう」
また全然狐がばかすという事実を知らぬ外国にもある現象にちがいない。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
こは当楼の後ろの大薮に数年すねんすんでいる狸の所為しわざにて、毎度この高味うまいものをしてやらるると聞き、始めてばかされたと気がついて、はては大笑いをしたが、化物ばけものと直接応対したのは、自分ばかりであろうと
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
動物園のおぢさん「わたしはまだばかされたことはない」
何よりも一本松が一本松に、ありありと夜中に見えたんですからばかされていたに違いない。いやそれ以上、魔法にやられていたのです、——「伝書」をお忘れになりますまい。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はア…うしたんだろう、心の迷いじゃアないか知ら、先刻さっき彼所あすこを通り掛ったのは武士さむらいと思ったのが狐か何かで私をばかしたのじゃアないか知らん、私がお鳥目を欲しいと思う其の気を
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
全く怪物にばかされたものか、但しは其の商人が怪物で、私に無駄骨を折らせたものか、何方どっちうとも今に分らぬけれども、何方にしても不思議な事で、私も流石さすがに薄気味が悪くなって
仲人なかうどの佐野屋さん御夫婦と番頭の太兵衞が附いて、馬で送つた三千兩が品川の大黒屋に着いて、奧へ持つて行つて開くと、砂利になつて居たさうで——狐にばかされたのなら木の葉になります。
「よし/\それではきつねばかされた話をせう。」
狐に化された話 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
太郎「おぢさんきつねばかしませんか」
なお追掛けて出ると、は如何に、拙者がばかされていたのじゃ、茅屋あばらやがあったと思う処が、矢張やっぱり野原で、片方かた/\はどうどうと渓間たにまに水の流れる音が聞え、片方は恐ろしい巌石がんせき峨々がゞたる山にして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こん畜生! 武士さむらいばかさうなどゝはしからぬと、叔父も酒の勢ひ、腰なる刀をひらりと抜く。これを見て狐は逃げた。吉田は眼をこすりながら「あゝ、ねむかつた……。」それからのちは何事も無い。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ナニ三俵さんだらポツチでもかぶつて摺小木すりこぎでもしてきませう。「可笑をかしいな、きつねにでもばかされたやうで。金「ナニかまやアしませぬ。「ぢやア何分なにぶんたのむよ。金「へいよろしうがす。「おてら何所どこだい。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)