兄哥あにい)” の例文
『千兩の褒美はこの清吉がきつと取つて見せる、濟まねえが八兄哥あにい後で文句は言はないでくれ』つて、しやくな言ひ草ぢやありませんか。
「はァて、己れも長兵衛だ、潔く死なしてくれ」の一言を遺して水野の屋敷へ単身に乗ッ込んだ先祖の兄哥あにいを俟つまでもないこと
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
みなまで聞かずに、気も足も早い与吉兄哥あにい、オイきたとばかり、すぐその場からお尻をはしょって、東海道をくだってきたのです。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ざまあ見ろ、巫女いちこ宰取さいとりきた兄哥あにいの魂が分るかい。へッ、」と肩をしゃくりながら、ぶらりと見物のむれを離れた。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兄哥あにいあにいって立てられるしさ、あたしみたいな者にもおまえさん、道で会うと向うから声をかけて呉れて——
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
きっと、若い野獣のような、すばらしい美丈夫のちまた無頼漢ぶらいかん「チャア公兄哥あにい」に成長していることであろう。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
『アイサ。』と、人影は暗い軒下に立留つて、四邊あたりを憚る樣に答へた。『隣の兄哥あにいか? 早かつたなす。』
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ここへ雲霧の兄哥あにいと四ツ目屋の新助も一緒に参っておりますから、支度がよかったらすぐ裏口の方から……
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな立派な兄哥あにいさんたちが、四人も揃うて、お前さんから、懐中ランプを頂こうというて、わざわざ、お出ましになっとるんじゃ。それでも、楯つくつもりかえ?
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
その前景気のすばらしいことすばらしいこと、お祭り好きの江戸っ子たちはいずれも質を八において、威勢のいい兄哥あにいなぞは、そろいのちりめんゆかたをこしらえるために
「おい、松兄哥あにい垢離場こりばの高物小屋へ仙台の金華山きんかざんから鯨が泳ぎついたそうだ」
しみったれた兄哥あにい
「お前のところにはないだろうが曲者はそれで三郎兵衞を突き殺したよ。——さア、飛んだ無駄をしたね。向うへ行かうか兼吉兄哥あにい
とせきたてられて、泰軒先生、急にこの真夜中に、チョビ安兄哥あにいの手を引いて、はるばる日光へ出発することになったのである。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
蘇子、白居易が雅懐も、倶利迦羅紋紋の兄哥あにいが風流も詮ずるところは同じ境地、忘我の途に踏み入って煩襟を滌うを得ば庶幾しょきは已に何も叶うたのである。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
もう一人、あわせ引解ひっときらしい、汚れたしま単衣ひとえものに、綟れの三尺で、頬被ほおかぶりした、ずんぐりふとった赤ら顔の兄哥あにいが一人、のっそり腕組をしてまじる……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『アイサ。』と、人影は暗い軒下に立留つて、四辺あたりを憚る様に答へた。『隣の兄哥あにいか? 早かつたなす。』
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「ねえ、四ツ目屋の兄哥あにい、親分に会おうと思えば、いつでもじきに会われますぜ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新造禿しんぞうかむろ、出前持の兄哥あにい、はては目の見えぬ按摩迄が口々にさざめき立てました。
「まア、宜い。與吉兄哥あにいの前だが、岡つ引を相手に大きな口を叩く人間は、大概たいがい馬鹿か底拔けの正直者にきまつたものだ。ね、御坊」
人の輪の中に突っ立って、大声にこれを唄うチョビ安兄哥あにい……ひさしぶりのチョビ安だが、その服装なりがまたたいへんなもので。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
魚友うおともは意気な兄哥あにいで、お来さんが少し思召おぼしめしがあるほどの男だが、とびのように魚の腹をつかまねばならない。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もしそれ南枝の梢に短冊の昔を愛する振舞いに至っては、必ずしも歌句の拙きを嗤うを要せぬ、倶利迦羅紋紋の兄哥あにいにもこの風流あるは寧ろ頼もしからずとせんや。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
「そうだとも、武松兄哥あにいのいう通りだ。おれっちは根っからの野育ち野郎。そんなものには、縁もゆかりも持ッちゃあいねえや。へん、おもしろくもねえ! 誰か、陽気な唄でもうたえよ!」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸ならば先ず、町の兄哥あにい鳶頭とびがしらとでも言うところに違いない。
黒助兄哥あにい、怨みのある石見様は隠居した上、御親類中から爪弾つまはじきされて、行方不明になってしまった。かたきは討ったも同じことだろう。
ひょんな出入りから国を売ってわらじをはいているように見えるものの、さて顔を眺めると……まぎれもないあさくさ駒形の兄哥あにいつづみの与吉。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何だって意固地な奴等、放火ひつけ盗賊、ちょッくらもち、掏摸すり兄哥あにい、三枚目のゆすりの肩を持つんでしょう。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「しようのねえ婆さんだな。——おいおい小六兄哥あにい
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「幸吉と言って、こいつは親に似ぬ堅い男だ。浅草で小商こあきないをしているのを手繰たぐって、二日前に金富町の留吉兄哥あにいが挙げて来たよ」
これが一つ間違えばどこでも裾をまくってたんかをきる駒形名うての兄哥あにいとは思えないから、栄三郎もつい気を許して
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もっともこりゃ谷中へ行く前に、お夏さんが呼び出しをかけたその梅岡薬剤兄哥あにいと二人で、休んだ縁もあったんでがすから、その奥座敷へ内証で抱え込んだ折でした。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「小二兄哥あにい。来たからにゃあ、弱音は吹くめえぜ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「幸吉と言つて、こいつは親に似ぬ堅い男だ。淺草で小商こあきなひをしてゐるのを手繰たぐつて、二日前に金富町の留吉兄哥あにいが擧げて來たよ」
ゆうき木綿もめん単衣ひとえに、そろばん絞りの三尺を、腰の下に横ちょに結んで、こいつ、ちょいとした兄哥あにい振りなんです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
……消防手かしら御免ごめんよ。兄哥あにいおこるな。金屏風きんびやうぶつるまへに、おかめ、ひよつとこ、くりからもん/\のはだぬぎ、あぐら、なかには素裸すつぱだかるではないか。其處そこ江戸えどだい。おまつりだ。
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「オオ雲霧の兄哥あにいもここに……」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒助兄哥あにい、怨みのある石見樣は隱居した上、御親類中から爪彈つまはじきされて、行方不明になつて了つた。敵は討つたも同じことだらう。
果たして、良人おっとおぼしき女の同伴つれが飛んで来て、礼よりさきにどしんと一つ与吉を突きとばしたのは駒形の兄哥あにい一代の失策、時にとってのとんだ茶番であった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これはまた学問をしなそうな兄哥あにいが、二七講の景気づけに、縁日のは縁起を祝って、御堂一室処ひとまどころで、三宝を据えて、頼母子たのもしを営む、……世話方で居残ると……お燈明の消々きえぎえ
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ちょいと立会って貰いたいことがある。板倉屋は清吉兄哥あにいに任せて、ほんの四半刻しはんとき清川へお顔を貸して下さい——と丁寧に言うんだぜ」
いい兄哥あにいが、橋の下の乞食小屋のまえにすわって、しきりにぺこぺこおじぎをしているから、橋の上から見おろした人が、世の中は下には下があると思って、驚いている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
で、優柔おとなしく頬被りを取った顔を、と見ると迷惑どころかい、目鼻立ちのきりりとした、細面ほそおもての、まぶたやつれは見えるけれども、目の清らかな、眉の濃い、二十八九の人品ひとがら兄哥あにいである。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御屋敷の新造が解つた方で、——三好屋の知合ひで、風流氣のある方があつたら、是非御一緒に——と斯う言ふのぢや、何うだな、八五郎兄哥あにい
浅草あさくさ駒形こまがた兄哥あにい、つづみの与吉とともに、彼の仲間の大姐御おおあねご、尺取り横町の櫛巻くしまきふじの意気な住居に、こけ猿、くだらないがらくたのように、ごろんところがっているんです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
名物と云えば、も一ツその早瀬塾の若いもので、これが煮焼にたき、拭掃除、万端世話をするのであるが、通例なら学僕と云う処、いなせ兄哥あにいで、鼻唄をうたえばと云っても学問をするのでない。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御屋敷の新造しんぞが解った方で、——三好屋の知合いで、風流気のある方があったら、ぜひ御一緒に——とこう言うのじゃ、どうだな、八五郎兄哥あにい
急にいきおいい声を出した、饂飩屋に飲む博多節の兄哥あにいは、霜の上の燗酒かんざけで、月あかりに直ぐめる、色の白いのもそのままであったが、二三杯、呷切あおっきりの茶碗酒で、目のふちへ、さっよいが出た。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「勘兄哥あにいじゃねえかしら。」
おや、八五郎兄哥あにい、いつも元気で結構だね。——用事というのは、あっしが持込んで来たんだが、きのう雑司ぞうしに厄介な殺しがあったのさ。