やぶ)” の例文
人知らぬ思ひに心をやぶりて、あはれ一山風ひとやまかぜに跡もなき東岱とうたい前後ぜんごの烟と立ち昇るうらわか眉目好みめよ處女子むすめは、年毎としごとに幾何ありとするや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
もっともシューベルトの初期のものは、悲しんでやぶらざる程度のものであるから、ドゥハンの調子が必ずしも悪いとは言えない。
それがために、この世では身をやぶり家をほろぼし、来世は地獄に堕つるとも、宿世すくせごうじゃ、是非もござるまいよ。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いやとよ、和殿が彼時かのとき人間ひとに打たれて、足をやぶられたまひし事は、僕ひそかに探り知れど。僕がいふはその事ならず。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
削らざればすなわち朝廷の紀綱立たず。之を削ればしんしたしむの恩をやぶる。賈誼かぎ曰く、天下の治安をほっするは、おおく諸侯を建てゝその力をすくなくするにくは無しと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
高よりち、刃にやぶれて身にあずからず。しかるに、わが心に痛苦を知る。死後は躯殻くかくなしといえども、しかも神魂なおあり、痛苦いずくんぞ知らざらんや
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
輿丁よてい相語テ曰ク初秋大風雨ノやぶル所トナリ、ソノ熟セザルコトかくノ如シ。二岩三陸ニ連ツテ皆しかリ。就中なかんずく南部若松更ニ甚シトナスト。余コレヲ聞キ心ひそかニ憂フ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わが生、と虚弱、加ふるに少歳、生を軽うして身をやぶりてより、功名念絶えて唯だ好む所に従ふを事とす。不幸にして籍を文園に投じ、猜忌さいきの境に身を揷めり。
客居偶録 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
第六 その質ノ軽キにこげまさル 故ニ冬時ノ蔬穀そこく裊脆じょうぜいナルヲ損セズ 却テ之ヲ擁包シテ寒ニやぶラルルヲ防グ
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
憎しと思うやからの心やぶはらわた裂け骨くじけ脳まみれ生きながら死ぬ光景をながめつつ、快く一杯を過ごさんか。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
かの人をしてはほのほに入り、一たびは烟となれど、又「フヨニツクス」(自らけて後、再び灰より生るゝ怪鳥)の如く生れ出でゝ、毒を吐き人をやぶるといふ蛇のはりをば
茶山は阿部邸に帰つた後、槖駝師たくだしをして盆梅に接木せしめた。枝は幸にして生きた。茶山はわづかに生きた接木の、途次にやぶられむことを恐れて、此盆栽の梅を石田梧堂に託した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ニュージーランドのマオリ人がクック地峡の赤い懸崖を古酋長の娘の死を嘆いて自ら石片で額をやぶった血の染まる所と伝えるなど例多くタイラーの『原始人文篇プリミチヴ・カルチュル』一に載せ居る。
今日の一知半解いっちはんかいなる婦人論者、世のいわゆる新婦人論者とかいうものはこの根本を無視して往々自然をやぶり、婦人の温良貞淑、優美なる性情を損い、しかしていたずらにこれを野卑なる情欲に導き
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
三五八人かならず虎を害する心なけれども、虎かへりて人をやぶこころありとや。
七に曰く、偸盗とうとうするなかれ。およそ人の財物をやぶり不公平のことをつつしむ。八に曰く、妄証ぼうしょうするなかれ。およそ人の声名をそしり、ならびに人をいつわるなどを禁ず。九に曰く、他人の妻を願うなかれ。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
民が皆やぶそこない、皆いたみ悩んでいましたら、4810
もって五穀をやぶる。いかんぞ、いかなる霊にして幸いせず。牲を殺して、もって賽神さいしんす。霊には、すなわち鼓を鳴らすをやめず、これを攻むるに朱緑の縄索じょうさくもてす。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
道衍あに孝孺が濂の愛重あいちょうするところの弟子ていしたるを以て深く知るところありて庇護ひごするか、あるいは又孝孺の文章学術、一世の仰慕げいぼするところたるを以て、これを殺すは燕王の盛徳をやぶ
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
... さるに怎麼いかなればかく、おぞくも足をやぶられ給ひし」ト、いぶかり問へば黄金丸は、「これには深き仔細しさいあり。原来某は、彼の金眸と聴水を、倶不戴天ぐふたいてんあだねらふて、常に油断ゆだんなかりしが。 ...
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
同じ哀れを身にになうて、そを語らふ折もなく、世を隔て樣を異にして此の悲しむべき對面あらんとは、そも又何のごふ、何の報ありてぞ。我は世に救ひを得て、御身はきに心をやぶりぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
悲しんでやぶらざる、上品で痛々しい姿に、思いも寄らぬ驚きを味わいました。
路は痘瘡とうそうのためにかたちやぶられていたのを、多分この年の頃であっただろう、三百石の旗本で戸田某という老人が後妻に迎えた。戸田氏は旗本中にすこぶる多いので、今考えることが出来にくい。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
詩人は一国民の私有にあらず、人類全躰の宝匣ほうかふなり、彼をして一国民の為に歌はしめんとするの余りに、彼が全世界の為にもたらし来りたる使命をやぶらしめんとするは、吾人其の是なるを知らず。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
父よ、こいねがわくは我をたすけわれを導いて、進んで世と戦うの勇者たらしめよ、かなしんでやぶらざるの孝子たらしめよ。ひそかにかく念じて、われは漸く墓門を出でたり。出ずるに臨みてまたおのずから涙あり。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
汝はいかなる役をも辭せざる名優なるよ。此の如きは我が遂にアントニオに及ばざるところぞといひぬ。吾友の言ふところは實録なりき。されど當時我をやぶること此實録より甚しきはあらざりしなり。
受クル身/方外情深シ父親ニならブ/只おもフ金裟長ク眼ヲ慰ムト/何ゾ図ラン素服忽トシテ神ヲやぶル/登高ノ日是レ登天ノ日/称寿ノ人称仏ノ人ト為ル/此従これよリ重陽斎戒ニ過グ/吾ガ家歳歳佳辰ヲ廃サン〕
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
悲しんでやぶらざる、上品で痛々しい姿に、思ひも寄らぬ驚きを味はひました。