偏頗へんぱ)” の例文
何ぼ肉類が良いといってもそんなに沢山召上てはお毒になりませんかと外の人に忠告される時は必ず食物の偏頗へんぱを招いているのです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
法華信者が偏頗へんぱ心で法華に執着する熱心、碁客が碁に対する凝り方、那様そんなのと同様で、自分の存在は九分九厘は遊んでいるのさ。
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
専断偏頗へんぱの訴えはそこから起こって来て、教義の紛乱も絶えることがない。外には布教の功もあがらないし、内には協和の実も立たない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『全否定論法』或は『木に縁つて魚を求むる論法』は痛快を極めてゐる代りに、時には偏頗へんぱの疑ひを招かないとも限りません。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
また今様いまようの美術文学家は往々婉麗の一方に偏し、雅樸なる者を取て卑野として不美術的としてこれを斥く。共に偏頗へんぱの論なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
偏頗へんぱこれ公道なり。争闘これ平和なり。威力これ権理なり。滅法これ法律なり。かかる社会を称して吾人は大野蛮大圧制の社会とはいうなり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「寛之助様、御死去につきまして、いろいろ、取沙汰もあり、家中の所置方にも、偏頗へんぱの傾あり、国許より、この人々——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
天は常に公平であって決して偏頗へんぱなことはしない。実力のある者には誰にでも成功の鍵を与えて、天下に覇を成さしめる。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
或階級の人間だけが特別の権利を持って、便宜の多い偏頗へんぱな生活をするというようなことのないために必要なものが、この「平等の権利」です。
婦人も参政権を要求す (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
葉子はそれが理不尽きわまる事だとは知っていながら、そう偏頗へんぱに傾いて来る自分の心持ちをどうする事もできなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
山下家は四男四女、偏頗へんぱなく生んだ。元来山下さんはこの頃の人達と違って、全然子供を欲しがらないことはなかった。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
なおまた人の容貌は一様ならず、美醜のわかるるところ愛憎起り、愛憎の在るところ偏頗へんぱ生ずるは、免れ難き人情である。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
したがって私の撰択は習慣的見方からたとえ偏頗へんぱだと評されても、本質的であるという私の確信を破ることはできない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
暑かった江戸えどの一日も終わって、この貧しいとんがり長屋にも、自然はすこしの偏頗へんぱもなく、日暮れともなれば、涼しい夕風を吹き送るのでした。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
造化は偏頗へんぱにして偏頗にあらず、私にして無私なり。差別の底に無差別あり。不平等の懐に平等あり。然り、造化の妙機は秘して其最奥にあるなり。
万物の声と詩人 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「それにさ唐犬とうけんの兄貴達が、水野を討とうと切り込んで、手筈狂って遣り損なってからは、いよいよお上の遣り口が、片手落偏頗へんぱに見えてならねえ」
二人町奴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
即ち偏頗へんぱなる心を全く取去り、その大目的として、必ずや円満なる人間を造るよう、即ち何所どこまでもソシアスとして子弟を薫陶するようにありたい。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
だが、こうした言を、彼もまったく苦悶くもんなしには吐けなかった。自身の矛盾に気づかぬほどその理性も偏頗へんぱではない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつ拙者は貴所の希望の成就を欲する如く細川の熱望の達することを願う、これに就き少も偏頗へんぱこころを持ていない。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
人あたりもよく兄弟仲もむつまじく一家中の者に親しまれたが一番末の妹に附いていた乳母うばが両親の愛情の偏頗へんぱなのをいきどおってひそかに琴女を憎んでいたという。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これじゃむしろ荷物になって、しっかりと縛られてきたほうがよかったかと思うと、彼らは必ずしもさほど偏頗へんぱでなかった。荷物にもやはり敵はあった。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
むしろそんなものの記憶のために偏頗へんぱに頭脳を使わないで、頭の中を開放しておく事にある、と云っている。
アインシュタインの教育観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
(五七)租税が消費者に影響を及ぼす限りにおいて、それは平等な租税であるが、しかしそれが利潤に影響を及ぼす限りにおいて、それは偏頗へんぱな租税であろう。
併し何事でもさう云ふ風に觀察すると云ふと、おそらくは偏頗へんぱになりはすまいかと思ふのであります。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかしどこへ行っても、ヘヒトのと同じく偏頗へんぱな条件に出会ったり、あるいは断わられたりした。
此の議員宛の書面の中で、私は繰返し、マターファの処刑の厳に失する所以ゆえんを説明した。殊に、最近叛乱を起した小タマセセの場合と比較して、その余りに偏頗へんぱなことを。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
一様に之を愛して仮初にも偏頗へんぱなきは、父母の本心、真実正銘の親心なるに、然るにここに女子の行末を案じて不安心の節あるやなしやと問えば、唯大不安心と言うの外なし。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
吾等は如何なる偏頗へんぱの愛好心を以てするもなほ風土人情のみがたき差別を感ずるであらう。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
お糸の方が吉原へ奴にやられ、こちらは勘当で捨ておかれるのは、チト偏頗へんぱな御処置だと思っていたが、こういう次第に逢着ほうちゃくするなら、いっそ至当の成行といっていいのである。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
露些つゆいささかも偏頗へんぱなく扱いやりしに、両女もいつか妾になつきて、互いに競うて妾をいたわり、あるいは肩をみ脚をさすり、あるいは妾のたしなむ物をば、おのれの欲を節して妾にすすむるなど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
即ち知らず識らずしておちいれる偏頗へんぱに対するものにして、多少これを恕せむとするもまたむを得ざるに出づといへども、もし為にする所ありて、ことさらに偏私の言をなすものあらば
仏教史家に一言す (新字旧仮名) / 津田左右吉小竹主(著)
が、それ等は要するに私のノート、私の書類に外ならぬので——即ち私の偏頗へんぱな感情と、囚われた野心と、遮二無二彼を罪におとそうとする私の必要からつくり上げたものなのです。
自責 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
しからば仏教とかクリスト教とか、かかる宗教を教育に応用すべきかといえば、特殊関係の学校は別として、普通の学校に特殊の歴史的宗教を入るれば必ず偏頗へんぱとなって混乱を来たす。
幼少の時から偏頗へんぱな母の愛情の下に育ち不可思議な呪ひの中に互に憎み合つて來た、さうした母性愛を知らない圭一郎が丁年にも達しない時分に二歳年上の妻と有無なく結婚したのは
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
趣味のみに生き得る孫四郎の趣味はどうしても偏頗へんぱで局部的であり深みがない。
しかし『排耶蘇』に現われているような偏頗へんぱな考え方は、決して克服されてはいないのである。またその点が、狂信的な情熱を必要とした幕府の政治家に、重んぜられたゆえんであろう。
「政党内閣は党派政治となり、一変して偏頗へんぱの政治となり、ついに言うべからざるの弊害を生ぜん、帝室内閣は党派に偏せずいわゆる無偏無党、王道蕩々の美政を維持するに足らん云々」
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
そこには階級の偏頗へんぱもなく、貧富の差異もなく、勉強するものは一番になりなまけるものは落第した、だが六年のおわり! おおそれは喜ぶべき卒業式か、はたまた悲しむべき卒業式か
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
だから私はそれをも偽瞞と言うのではない。しかし直射光線には偏頗へんぱがあり、一つの物象の色をその周囲の色との正しい階調から破ってしまうのである。そればかりではない。全反射がある。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
くて幸豐君ゆきとよぎみもくげて、一國いつこく老職らうしよくとなさむとおもはれけるが、もとより亂世らんせいにあらざれば、取立とりたててこれぞといふてがらかれきものを、みだりにおももちゐむは、偏頗へんぱあるやうにて後暗うしろめた
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それは、「婦人作家らしい匂い」とか「婦人作家にしか描けない女心」とかいう批評の基準で、婦人作家の作品を扱って来た従来の日本文学の偏頗へんぱな好みと、切っても切れない因果関係にある。
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
しかもこうした席で出る話と来たら、どれもこれも面白くもない、偏頗へんぱで愚劣なことばかりなので、聞いているだけでむしゃくしゃと癇癪かんしゃくが起きて来るのだったが、それでも沈黙を守っていた。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其処そこまでは無事でしたが、長坂丹後守の処置に偏頗へんぱがあったのと、酔が言わせる過言が祟って、激怒を発した井上外記は、席上組頭なる主上の長坂丹後守と、競争相手の稲富喜太夫を斬って捨て
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
だから現実の制度に完全無欠で万能というものはあり得ない。政治制度は、性急、独断、偏頗へんぱな態度で評価されてはならぬので、広い立場で比較的にみないと、小児病的な誤りを犯すことになる。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
およそ天の道は公平無私にして、人間のごとく偏頗へんぱの私心あるものではありませぬから、人の方で自分勝手に願った祈りだとて、天はそれがために規則をまげるようなことは決していたしませぬ。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
偏頗へんぱの裁判を為す虞れありとして、忌避の申立を為したるも、右申立は訴訟の遅延せしむる目的のみを以て、為したる事明白なるを以て、刑事訴訟法第二十九条第一項に依り、決定する事左の如し。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
『全否定論法』或は『木に縁って魚を求むる論法』は痛快を極めている代りに、時には偏頗へんぱの疑いを招かないとも限りません。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
禁裡きんり守衛総督摂海防禦せっかいぼうぎょ指揮の重職にあって、公武一和を念とし、時代の趨勢すうせいをも見る目を持ったこの人は、何事にも江戸を主にするほど偏頗へんぱでない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「よし、津軽に対して、そういう偏頗へんぱの処置を取るなら、わしは江戸へもどって、相馬大作の名乗を上げてやろう」
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
しかるに従来は男子に対してそれが寛仮かんかされ、女子に対してのみ「女らしくない」という言葉を以て峻厳に批難されて来たのは偏頗へんぱ極まることだと思います。
「女らしさ」とは何か (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)