人身御供ひとみごくう)” の例文
この本能をつぶして正論を掴みだすには確かに悪魔的な眼が必要で、女房や娘を人身御供ひとみごくうにあげるくらいの決意がないと言いきれない。
咢堂小論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
オウタハイトで頻々と行われる人身御供ひとみごくうは、それだけでこの土人の性格に野蛮という汚点を印するに足るものではあるけれども
これで、毎年まいねんむららして、人身御供ひとみごくう荒神あらがみ正体しょうたいが、じつはさるものであったことがかって、むらのものはやっと安心あんしんしました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
何とかして殿樣の人身御供ひとみごくうに上げ、それを手柄に歸參の願ひをかなへてもらはうと思つたんだらう。惡いのはあの平田といふ侍だ
新しい朝廷を確立するための犠牲いけにえとして一門親族から涙をそそがれて島へ来ている人身御供ひとみごくうのわが身ぞという悲壮なこころもちなのだった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分の取引きのために、他人を人身御供ひとみごくうにするようなものではないか? そんなことを思って彼女は無理にも自動車を降りようかと考えた。
猟奇の街 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
しかし、あの標本的な人身御供ひとみごくうがあるがために、ファウスト博士は陽気な御機嫌を続けていられるんだぜ。第一伸子には、動機も衝動もない。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
人身御供ひとみごくう出会でっくわせば、きっと男が助けるときまつたものなの……又、助けられる事に成つて居るんですもの。ね、うなさい。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
差しむき一番いい人身御供ひとみごくうなんでしょう、ですから、お役人のお手心によって、いつ、どういう目に逢わされるかわからないじゃありませんか。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一隊商が曠野こうや颶風ぐふうに遇った時、野神にそなうる人身御供ひとみごくうとして案内人を殺した。案内人を失った隊商等の運命は如何。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お由ひとりが人身御供ひとみごくうになって、それでかむろ蛇の祟りが消えるのか、三人ながら同じ祟りを受けるのか、そんなことは誰にも判らない秘密である。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この方々こそ、父上にすすめて、自分達の栄華を遂げるために、ひとを、公方への、人身御供ひとみごくうに上げたのではないか!
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
またその叢書の中の『幽怪録ゆうかいろく』には、岩見重太郎いわみじゅうたろう緋狒退治ひひたいじというような人身御供ひとみごくうの原話になっているものがある。
怪譚小説の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その身の毛もよだつ静寂の中へ、可哀かわいそうな文代さんは、昔話にある人身御供ひとみごくうみたいに、ほうり出されたのである。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人身御供ひとみごくうにしてしまおう。そう葉子は恐怖の絶頂にありながら妙にしんとした心持ちで思いめぐらした。そしてそこにぼんやりしたまま突っ立っていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
遠州見附みつけ人身御供ひとみごくう問題を解決した物語の主人公だから、どこまでが昔話か結局は不明に帰するのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
窯事の研究に没頭していられるのは前山久吉翁一人であるからいわば人身御供ひとみごくうに上らされたわけである。
美奈子は、人身御供ひとみごくうにでもなったような心持で、たゞ母の意志に従っていると云うのに過ぎなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すなわち地鎮の際における人身御供ひとみごくうなのである。神が犠牲として人間を要求するという思想は、もと食人の風習から起ったのだという説もある。或いはそうかもしれぬ。
人身御供と人柱 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
階級差別もまだはなはだしかったころなので、人身御供ひとみごくうだとまでいわれ、哀れまれたのだった。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「贄が不足じゃ! 受けてくださらぬ! ……叩っ込め男を! 叩っ込め女を! ……人柱じゃ! 人間の贄じゃ! ……可哀そうだが人身御供ひとみごくうじゃ! ……範覚ウ——ッ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
昔は人身御供ひとみごくうということをして、この要求を満たしていた。だが、今では社会生活を営む必要上、われわれは殺人を犯罪としている。そして、殺人者を犯罪人として罰している。
狂人日記 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
狒も単に狒と云ふよりは、年々人身御供ひとみごくうを受けてゐた、牛頭明神ごづみやうじんと称する妖神である。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
人身御供ひとみごくうにおシャブリ遊ばした女子おなごが都合十一人に及んだと申すのじゃ。
人身御供ひとみごくうの白羽の矢……それはじつに目下のお艶のうえにあった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と一種の人身御供ひとみごくうのように考えている。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
どういうものだからないが、人身御供ひとみごくうをとるやつはたしかにこれに相違そういない。なんでもたいそうしっぺい太郎たろうという人をこわがっている様子ようすだ。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
さんざん人をおだてておいて、この暴風雨あらしになると、みんなわたしにかずけて、人身御供ひとみごくうに海へ沈んでくれとはよく出来た。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あけてはをつとにもげられねば、病氣びやうき介抱かいはうことわるとふわけにかないので、あい/\と、うちのこことつたのは、まないたのない人身御供ひとみごくうおなことで。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふてえ殿様野郎だ。これから踏込んで、三万七千石の家中を引っくり返し、人身御供ひとみごくうにあがる志賀内匠というお武家を救い出して来ましょう。親分」
自分の代りにあの美しい娘を人身御供ひとみごくうにして置きながら、平気で面白そうに唄っているが、娘の家では今ごろ大騒ぎをしているだろう。可哀そうなものだな。
蟹満寺縁起 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
魔性ましょうのものが住んでいて、人身御供ひとみごくうを欲しがるのだろうという伝説さえある位で、魔の淵という名前も、そんな所から起ったのではあるまいかということであった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「じゃ、その月光とかいうものの一人として今度、あたしがあなたの人身御供ひとみごくうに上ったわけなのね」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
……それはそうと、ねえお前さん、どうしてわたしが助かって、お前さんの娘の美麻奈さんが、人身御供ひとみごくうに上がったか、さぞ不思議に思うだろうね。云って聞かせるよくお聞き。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
第一、それを否定する厳然たる事実の一つと云うのは、伸子はとうに五人目の人身御供ひとみごくうに上っていて、その歴然たる他殺の証跡が、法水の署名を伴って検死報告書に記されているのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「私は今晩、神様の人身御供ひとみごくうになりますから、それが悲しゅうございます」
殺神記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「太てえ殿樣野郎だ。これから踏込んで、三萬七千石の家中を引つくり返し、人身御供ひとみごくうに上がる志賀内匠といふお武家を救ひ出して來ませう。親分」
その女をつかまえて、人身御供ひとみごくうに上げるでなければ、この火は鎮まらぬ、火を消すよりも、その女を求めることが急だ。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その上いつらされるとなく田畑たはたらされて、そのとしれをふいにしてしまうものですから、しかたなしに毎年まいねん人身御供ひとみごくうげることにしてあります。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「なぜと言いねえ。取り巻きのおめえ達はそれでよかろうが、姐さんはいい人身御供ひとみごくうだ。そんなことが向柳原へひびいてみねえ。決して姐さんの為にゃなるめえぜ」
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「もう可いからお泣きでない。通貨なまが無いからそれを曲入まげて、人身御供ひとみごくうを下げておいで、仁三が何か言句もんくをいおう。謂ったら私の名をいいな。」薄着になりしなさけの厚さ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
択んで、人身御供ひとみごくうの三人の中に加えるんですもの
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
人身御供ひとみごくうを取り変えるってわけか」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「と、とんでもない、親分さん。怨んでるのは、お国姐さんとお舟姐さんで、あの二人は若くて綺麗だから、伊勢屋の旦那の人身御供ひとみごくうに上がった方で」
「おっと、待っておくれ、待っておくれ、人身御供ひとみごくうというのはそのことかね、つまり、わたしにその大昔の橘姫の命様とやらの真似をしろとおっしゃるんだね」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その時です、……洗いざらい、お雪さんの、蹴出しと、数珠と、短刀の人身御供ひとみごくうは——
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほかの二人が人身御供ひとみごくうにあがった訳なんですが、妙なこともあるじゃありませんか。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「武道も学問もおありなさる、立派なお武家に相違なさそうだ。……郷民ごうみんたちは喜ぶだろう。……きっと歓迎するだろう。……が、云ってみれば人身御供ひとみごくうさ。お武家様にはご迷惑かもしれない。……とはいえ俺達にとって見ればなあ」
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうかといって三十両の工面はつかず、妹も人身御供ひとみごくうに上げられず、腹の中で泣いていたが、とうとう我慢が出来なくなって、あの茶釜を隠したのだ。
その後難こうなん人身御供ひとみごくうの意味で留守居を押附けられ、米友は、主人の居間であった贅沢ぜいたくな一間でゴロリと横になっている。その傍には例によって槍が一本あります。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)