事情わけ)” の例文
「いえ、……お恥しいわけですが、ちょっと、事情わけがあって、この春から柳ばしのおこんねえさんの家に、仕込みに預けてありますんで」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうか。君江さんが。」と矢田はいかにもびっくりしたらしく、その事情わけをきこうとした時、早くも目指した待合の門口へ来た。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ですから私がその方の代りに黒焦になって上げた……みたいな事情わけなのです。おわかりになりまして……私の黒焦の意味が……。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして……そしてそこには、何か村にいたたまれぬような、事情わけがある……やっぱりそうだったのか! と、私の疑惑は一層、深まりました。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「何か深え事情わけがあるらしいが、なにしろ、こっちの言うこたあ通ぜず、おまけに口をきかねえんだから、始末におえねえ。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこがまた妙な関係で西村さんとしては思い切ったことができない事情わけがあって、そいつはいよいよ図に乗るという始末になってきたのです。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
もうこれでおしまいなんだ、どうにも変わりようがないってことは、おれにもわかっている。時の循環が完了したのだ。まあ、こんな事情わけさ。
「叔父さんが世話をした人ですから、事情わけを言って話せば、引き受けてくれないことはないと思います。あなたからお鳥目あしさえ少し頂ければね。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
友さん、どうしたのです、そう無暗に逃げてしまっては事情わけがわからないじゃありませんか、少し待って下さい、事情を話して下さい、わたしたちを
貴嬢きみがいかに深き事情わけありと弁解いいひらきたもうとも、かいなし、宮本二郎が沈みゆく今のありさまに何のかかわりあらん。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それはそれは、いつもながら、御深切は嬉しう受けておきまする。したが吉蔵さん、私がかうして、旦那のお世話になりますも、事情わけがあつてといふではない。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
これさ、若旦那、まあ、お静かに、——何か詳しい事情わけはわかりませんが、高が二千や三千の金、それに御親戚であって見ると、これは御勘弁——ねエ若旦那。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
それには事情わけがあるのだよ、深い事情があるのだよ。その事情というのはまことに恥ずかしいことだけれども、これだけはどうしてもお前に聞いてもらわねばならん。
死体蝋燭 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それでいて、私は柳町の人達よりも一層深い事情わけを知らぬ婆さんが、そう言ってくれるのを自分でも気安めだ、と承知しながら、聞いているのが何よりも楽みであった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
貸さない、貸さない、とても貸さない! 二百円のときでもあんなに渋ったのだ。けれども、こういう事情わけだとすっかり打ち明けて、ひとつ泣き付いてみようかしらん。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ミハイロの罪の無い笑声や、人の好ささうな眼色めつきが皆の気に入つて、なぶらずに真面目に事情わけを聞出したから、仕事をさせて貰ひたいのだといふと、そんなら己達おれたちの跡にいて来なと云ふ。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
思い掛けない光栄に悦んだのが事情わけ知らずのその日の新名取しんなとり和泉屋の若旦那。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
奈何いかなる事情わけ訊問たずねしに、昨夜廿一二にじゅういちにのこうこう云う当家こなたのお弟子が見えて、翌日あす仏事があるから十五軒前折詰おりづめにして、もって来てくれとあつらえられましたと話され、家内中顔を見合せて驚き
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
こんな事情わけで伯父さんは今日からホテルへ引越して行った。んな小僧は最早もう甥とも何とも思わないといったそうだ。乃公だってうからんな守銭奴しみったれを伯父さんだなんて思ってやしない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
何かお國殿とおれと何か事情わけでもありそうにいうが、己も養子にく出世前の大切な身体だ、もっとも一旦放蕩ほうとうをして勘当かんどうをされ、大塚の親類共へ預けられたから、左様思うも無理もないようだが
人の妻にといひてはだ與之助が事情わけをしるまじき彼のが、應とはかならず言ふまじければ、行義見ならひもをかしけれど、何とか名をつけて華族がたの大奧にでも一時の御奉公にいだすか
花ごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「もういいから、お帰りなさい、だが、気をおちつけて、人と喧嘩をなさらないようにね、貴下あなたはいい方だが、このごろ気がたってらっしゃる、それには事情わけもおありでしょうが、よく気をつけてね」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「いいえそうじゃございません。けれど昨夜は事情わけがあって……」
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
男の方にも何か深い事情わけがあるんですツてネ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
近侍は事情わけを話した。
事情わけを知らない引船と禿かむろは、さっきここを出て行く前に、次の部屋へ、大名の姫君でもせるような豪奢なよるものを敷いて行った。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今方占者のはなしから、清岡は我知らず言過ぎたと心付き狼狽うろたえて言いまぎらしたのも、実はこういう事情わけからである。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
呼び留めて事情わけを聞いた上で、理解してやりさえすれば直ぐに納まるものと、大急ぎで廊下を駈けて有合せの草履ぞうりをつっかけて米友を追いかけました。
「とにかくソンナ事情わけですから、折角定着しかけた五十万の南鮮漁民を助けると思って、何分の御声援を……」
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかしお秀が局を欠勤やすんでから後も二三度会って多少事情わけを知って居る故、かの怪しい噂は信じなかったが、此頃になって、もしやという疑が起らなくもなかった。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それはとにかく、この辺鄙へんぴな山の湯と、二万八千石の大名と——これにはおおいに事情わけがなくてはならない。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ぎよつとして『男とは何の事。事情わけをいはんせ、分らぬ事に、返事のしやうもないではないか』『へん、盗人たけだけしい。分らぬとはよくいつた。手前の腹に聞いて見ろ』
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
ほかのと違って、そう言った事情わけで、犬にも猫にも汚させるのが可厭いやでしたから、俥ではるばると菩提寺へ持って来て、住職にわけを言って、あらたに塔婆を一本古卒塔婆ふるそとばの方は些少いささかですが心づけをして
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「兄は留守がちだが、お前は、いつも家にいたのだ。あの一角と、姉と、不義のほかに、何か事情わけでもあったのではないか」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから断髪令嬢がシャクリ上げシャクリ上げ話すところを聞いているうちに、やっと事情わけ判明わかって来た。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
磯五は、今までよく親切に、事情わけを聞いて待ってくれましたのでございます。わたくしも、何本となく手紙を書いて、猶予をたのんでやってあるのでございます。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お松はいよいよ事情わけがわからないけれど、米友はすっかり旅のよそおいをして逃げて行くから、ともかくもつかまえて、様子を聞いてみなければならないと思いました。
また武の女房も初めからよく事情わけを知っていて、やはり武と同じようにお幸と私の仲をうまくゆくようにのみ骨を折ってくれましたので私も武の家ではおおびらで遊んだものでございます。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
まだその上にこの頃は、吉蔵さんが、こそこそと、お部屋へ忍んで行く様子。どうでもこれは、奥様と、事情わけが出来たであるまいの。標致きりやうは、どうでも、金づくなら、私が負けるに、極まつた。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「これにはだいぶ事情わけがありそうです」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
孔家こうけの恩を思う人に、もうひとり宋公明そうこうめいがあるといったね。どうだ、孔亮こうりょうさんをここから急遽、梁山泊りょうざんぱくに使いにやる——。そして云々しかじか事情わけを訴える。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから今度はなるべく長くくわしく話してもらおうと思って、ぱらいのあとから通りかかったお婆さんの傍へ寄って、事情わけを話して身の上話しを聞かしてくれと頼んだ。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「そりゃまた、どうしたわけなの。お前はどうも気が短いから、何かまた殿様の御機嫌をそこねるようなことをしたんじゃないか。そんならわたしが謝罪あやまって上げるから事情わけをお話し」
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今日のような留守をよいしおに出かけてしまえばよいじゃないか。——こう事情わけを知らない者は思うかも知れないが、そこにぬかりのあるあの婆ではない。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして事情わけはすっかり解かりましたが、その中で濃紅姫を他の女と一所にお目見得に出す事だけはあまりに情ない浅ましい事で、殊に都合よく御妃になる事が出来れば兎も角も
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
事情わけを話せば長くなる、なにしろ、わしが身は急にせわしくなった」
まずその事情わけがらを先にただしてみたいが、今はその由来因縁を彼に問うているいとまもなさそうなのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すかしたりしながら、ずいぶん執拗しつこ事情わけを尋ねたのよ。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「なるほど。じゃあこうしよう。おめえは盧の旦那にこっそり事情わけを話せ。そして朝晩のかても上々な物にしてあげて、おからだを大事になさいと耳打ちしておけ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
娘の讐敵かたきは同じ奴……この絵巻物の事情わけを知りながら
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)