中身なかみ)” の例文
ところが、義雄の友人から中身なかみの這入らない手紙が屆いて、あの長篇小説は二三軒當つて見たが、どこでも受け付けない事情が分つた。
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
黒い頭巾ずきんをかぶって、姿はだかい修道士イルマンだが、中身なかみ裾野すその蚕婆かいこばばあだ。たきびで焼いたうさぎの肉をひとりでムシャムシャべている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから、なにが、さいわいとなるかわかるものでない。中身なかみられて、みずなかてられたので、もう一わたしは、がついて、がさめたのだ。
河水の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
むこうへついてみますと、たしかに、つぼはもとのままの場所ばしょにおいてありました。ところが、その中身なかみがからっぽです。
入物いれもの其方そつちのですが、そのつまらん中身なかみ持參ぢさんですとひたいところを、ぐツと我慢がまんして、余等よら初對面しよたいめい挨拶あいさつをした。
ところが古墳こふんれてあつたかたなつるぎるいになりますと、そのかず非常ひじようにたくさんありますが、中身なかみがみなてつですから赤錆あかさびになつて、ぼろ/\にくさつてしまひ
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「ちょっと拙いのさ。というのは、あれを私が買ってから、中身なかみを少しはこび出してしまったのよ、そいつを元通りに返すとすると、どうしても午後十時になる」
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「玉くしげ御室の山のさなかづら」迄は「さ寝」に続く序詞で、また、玉匣たまくしげをあけて見んというミから御室山のミに続けた。或はミは中身なかみのミだとも云われて居る。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
一間いっけんの床の間の上に、中身なかみの空しくなった古めかしい箪笥が一つ据えられて、その横の片隅に薬瓶や病床日誌やらが雑然と置かれてある。六畳の室は病室には少し狭かったのである。
生あらば (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
いへ夜中草鞋懸わらんぢがけにて下質したじちさげゆくやつがある者かこゝ不屆者ふとゞきもの有體ありていに白状せよ眞直まつすぐに申立なば公儀おかみにも御慈悲が有ぞと云つゝ久兵衞の脇差わきざしを改めるに鮫鞘さめざやにて縁頭ふちかしら其外立派なるこしのものなれば中身なかみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それはにしきふくろ這入はいつた一しやくばかりのかたなであつた。さやなにともれぬ緑色みどりいろ雲母きらゝやうなもので出來できてゐて、その所々ところ/″\が三ヶしよほどぎんいてあつた。中身なかみは六すんぐらゐしかなかつた。したがつてうすかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
味噌汁の中身なかみがまたカイベツである。渠はこのカイベツと枝豆の漬け物とを味はつて、それらを渠の北海道生活に於ける最初の知己であるかの如く思つた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
そして、わかれる時分じぶんに、二人ふたりは、もう一たずねってあいたいというまじないから、インドの魔法使まほうつかいからもらったびんと中身なかみあぶらとを別々べつべつってかえった。
びんの中の世界 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それに、王さまはひとりきりにならないうちは、けっしてふたをあけて、食べようとはしませんので、だれひとりその中身なかみを知っているものはありませんでした。
ちょっとあたりを見廻して、たもとの八ツ口から出したのは、商人持あきんどもちのかわ財布、中身なかみを抜いて
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、まずたまごをとりだして、からをつついてあなをあけ、その中身なかみをふたりですっかりのんでしまいました。それから、からはかまどの上にほうりあげておきました。
人穴城ひとあなじょうという外廓がいかくは焼けおちたが、中身なかみ魔人まじんどもはのこらず逃亡してしまった。丹羽昌仙にわしょうせん吹針ふきばり蚕婆かいこばばあ穴山残党あなやまざんとう佐分利さぶり足助あすけともがらにいたるまで、みな間道かんどうから抜けだした形跡けいせき
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、もし、わたしに、あのあま中身なかみがあったなら、わたしねむりは、いつまでもさめずに、しまいに、いい気持きもちのまま、わたしからだがすっかり、さけのように、かもされてけてしまったかもしれない。
河水の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ある日のこと、おさらをさげた召使めしつかいが、どうにも中身なかみを知りたくなって、そのままそのおさらをじぶんのへやにもっていきました。召使めしつかいはとびら注意ちゅういぶかくしめてから、ふたをとってみました。