ばん)” の例文
旧字:
「せっかく、人穴城ひとあなじょうの根もとまで押しよせたに、煙攻めのさくにかかって引ッ返すとは無念千ばん……ああまたまっ黒に包んできおった」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
会稽かいけいばんという姓の男があった。それはしょうの母がたのいとこであったが、強くて弓が上手であった。ある日万は邵の家へ来た。
五通 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
気長に、鄭重ていちょうに、拙者が引き受けてやれば、ばん、生命に係わるようなことはない。しかし、薬は必ず油断なくませてくれ
何かほかの嗜好物しこうぶつに転換させるか、もしばん不可能な時は、妻自身大酒をのむか、ただしはのみたるりでっぱらって困らせて見せるか、知人の大酔家を
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
へうになひて、赤壁せきへきし、松島に吟ずるは、畢竟ひつきやうするにいまだ美人を得ざるものか、あるひは恋に失望したるもののばんむを得ずしてなす、負惜まけをしみ好事かうずに過ぎず。
醜婦を呵す (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
飛行機から落ちると云ふ事は最早もはやまん一の不幸に属して居る。ばん一の不幸を気にして居たら土の上も踏めないわけだ。自動車にかれて死ぬる事もあるのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その間に波越警部は、あらん限りの智恵をしぼって、ばん遺漏いろうなく警戒準備をととのえた。無論大使邸にも度々足を運んで、大使にも面会し、建物の構造をも取調べた。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これがばんやむを得ぬ事情から生じたことで、どうしてもほかには名前のつけようがなかったといういきさつを、読者にとくと了解していただきたいためにほかならないのである。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
貴公きこうはふとどき千ばんだ。学校を百貨店とはなにごとか? 学問はそんなものじゃない」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
太子ハ深厚ナル哀悼ノ意ヲ直チニ在ヴィルプール王宮並ニ政庁ニ送達、なお御遺骸移送ノ他ニ際シテハばん遺漏ナカランガメ在米英国大使館ハ在桑港総領事ニ電命ノ旨唯今通知ニ接ス。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そもじ御家おばさまも御なくなりなされ候事なれば、そもじばんたん心懸け候わでは相すまぬ事、ことにおじさまも年まし御よわい高くらせらるる事ゆえ、別して御孝養を尽したべかし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
いかに猛禽もうきんが降り立って肉薄してきたっても、戸締りはさいぜんがっしりとしてあるから、室内まで異変を及ぼすということは、ばんないにきまっているが、ここまで来て、ああして騒ぐ上は
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ばん一という事がありますからね。」学士はこうって置いて帰った。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
こういう心得にばん遺筭いさんのあるはずはないと初手しょてからきめてかかって吉川夫人に対している津田が、たとい遠廻しにでもお延を非難する相手のにおいをぎ出した以上、おやと思うのは当然であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これはまた迂濶うかつばん飴売あめうり土平どへいは、近頃ちかごろ江戸えど名物めいぶつでげすぜ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
だから線路を通るのはばん止むを得ないのだ……。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ああ君と我とは早くも千里ばん里の差………
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「武田大佐、ばんざあい——。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
「御承知のとおり、江戸から日光への往復の諸駅、通路、橋等の修理の儀は、公領のところは代官、私領は城主、地頭寺社領にいたるまで、すべてわれわれにおいて監督いたし、ばん手落ちのないようにしなければならぬのですから——」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
よろしく袁譚の乞いをいれ、急に袁尚を亡ぼして、その後、変を見てまた袁譚その他の一族を、順々に処置して行けばばんあやまちはありますまい
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしばん生が武を用いた後であったならば、すなわち呉の地方には僅かに半通だけが遺っているわけであるから、害をなすにたらないのである。
五通 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
やはり、モデルとするとなるとこの私の丹誠して仕上げたものが適当で、これならばん非点の打たれようはあるまい
四方の壁には昔から此処ここで飲んだ幾多の漫画家の奇怪千ばんな席がきが縦横に貼られ、傷だらけの薄ぎたな荒木あらきの卓の幾つと粗末な麦藁の台の椅子の二十ばかりとが土間に散らばつて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
もっともそうするためにも、それを敢行かんこうし得られるだけの魅力のある味方でなければならないと池上は宣言しておりますからは、池上がわたくしを愛してはいることにはばん、間違いありません。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
不都合ふつごうばん明日あした学校へいって校長に談じましょう」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
街亭の布陣には、その現地へ臨む前から、とくと丞相のお指図もありましたゆえ、それがしとしては、ばん遺漏いろうなきことを期したつもりであります。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、元来、当人の幸吉が承知の上で、自分で書いた筋でありますから、これほど確かなことはないので、母も、幸吉もばん異存はございますまいといって、大喜びで帰って参りました。
「ほかならぬ、勝入様や氏郷様のお肝煎きもいりで、かくまでのお扱いとあれば、ばん間違いもございますまい」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれほど、仰せられたことであるから、新大納言一味のにのせられることはばんあるまいとは思うが
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊賀者いがものを使者の人数にまぜてよこすは非礼ひれいばん、どうしてそれがおわかりになりましたか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それよりも、もっと距離をおいて、武蔵の通り道にかくれ、いちど、武蔵の姿をやり過してから、前とうしろと、いちどに起って、ふくろ包みにすればばん討ちもらすことはあるまい
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だれがさるめにこんなものをゆわいつけたのか? やア、こりゃいよいよもって不審ふしんばん浜松城はままつじょう使番つかいばん常用じょうようはこ、しかも紅房べにふさ掛紐かけひもであるところを見ると、ご主君しゅくん家康いえやすさまのお直書じきしょでなければならぬが
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)