一人娘ひとりむすめ)” の例文
しかも不思議なのは、何もあの男が一人娘ひとりむすめの斷末魔を嬉しさうに眺めてゐた、そればかりではございません。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かさねしが當代たうだい新田につたのあるじはいへにつきて血統ちすぢならず一人娘ひとりむすめ入夫にふふなりしかばあひおもふのこゝろふかからずかつにのみはし曲者くせものなればかねては松澤まつざは隆盛りうせい
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ところが、そのまもなく、王さまのお姫さまが大病たいびょうにかかりました。おひめさまは王さまの一人娘ひとりむすめで、王さまは、昼も夜も泣きとおしたので、目がつぶれました。
母親は早くからなくして父親育ての一人娘ひとりむすめなので、はたがかえってさびしい娘に見るのかも知れない。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
殿とのさまの一人娘ひとりむすめであったひめさまは、またとないほどの美人びじんであったけれど、三にんまでねがいをかけた婿君むこぎみが、一人ひとりいだされなかったことをじて、このやまのぼられ
三つのかぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ところが横浜に高橋という雑貨商があって、随分盛大にやって居ましたが、其主人あるじは女で名はうめ所天つれあいは二三年前になくなって一人娘ひとりむすめ里子さとこというを相手に、贅沢ぜいたくくらして居たのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
大江家おおえけ一人娘ひとりむすめ何故なぜ他家よそとついだか、とおおせでございますか……あなたのさそしのお上手じょうずなのにはほんとうにこまってしまいます……。ではホンのはなし筋道すじみちだけつけてしまうことにいたしましょう。
しゅとお納戸なんどの、二こくの鼻緒はなお草履ぞうりを、うしろ仙蔵せんぞうにそろえさせて、おうぎ朝日あさひけながら、しずかに駕籠かごたおせんは、どこぞ大店おおだな一人娘ひとりむすめでもあるかのように、如何いかにもひんよく落着おちついていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
一人娘ひとりむすめで養子をしたんだね、いや、その時はにぎやかだッけ。」
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だいそだつることもなるまじ、美尾みをわたし一人娘ひとりむすめ、やるからにはわたしおはりももらひたく、贅澤ぜいたくふのではけれど、お寺參てらまいりの小遣こづかぐらゐしてももらはう
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それも屏風の出來上つた次の夜に、自分の部屋のはりへ繩をかけて、くびれ死んだのでございます。一人娘ひとりむすめを先立てたあの男は、恐らく安閑として生きながらへるのに堪へなかつたのでございませう。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なに此樣こん身分みぶんうらやましいことか、こゝでれが幸福しやわせといふをかんがへれば、歸國きこくするにさきだちておさく頓死とんしするといふやうなことにならば、一人娘ひとりむすめのことゆゑ父親てゝおやおどろいて暫時しばし家督沙汰かとくざたやめになるべく
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)