鴨居かもゐ)” の例文
「昨日行燈の出てゐた二階に間違ひはありませんよ。鴨居かもゐから赤い扱帶しごきで、女草履が片つ方ブラ下がつてゐるのは不思議ぢやありませんか」
「代助はまだかへるんぢやなからうな」とちゝが云つた。代助はみんなから一足ひとあしおくれて、鴨居かもゐうへに両手がとゞく様なのびを一つした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一人は七尺の鴨居かもゐを頭を下げてくゞる程の大男の異国人であり、一人は、ずんぐりとしたその供の下役であつた。
翁は我手のさきに接吻し、我衣の裾に接吻していふやう。かしこなるは我破屋あばらやなり。されど鴨居かもゐのいと低くて君が如き貴人を入らしむべきならぬを奈何せん。
従つて彼の借りてゐた家には二階の戸棚の中は勿論もちろん、柱や鴨居かもゐに打つた釘にも瓢箪が幾つもぶら下つてゐた。
仙人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私の部屋の障子窓の柱や鴨居かもゐなどには、小さなまるい穴が幾つも幾つもあいてゐる。それが何であるか、いつどうしてできたものか、私は今まで一向気にもとめなかつた。
ジガ蜂 (新字旧仮名) / 島木健作(著)
「電氣は不經濟なばかりぢやない、柱や鴨居かもゐへ穴を明けて家を臺なしにするから考へ物ぢや。今夜のやうなことがあるとすると保險はつけといた方がえゝかも知れんが。」
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
農村のうそんにびんぼうなお百姓ひやくせうがありました。びんぼうでしたが深切しんせつなかい、家族かぞくでした。そこの鴨居かもゐにことしもつばめをつくつてそして四五ひなをそだててゐました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
あけて見るに絹布けんぷ木綿もめん夜具やぐ夥多おびたゞし積上つみあげてあり鴨居かもゐの上には枕のかず凡そ四十ばかりも有んと思はれます/\不審ふしん住家すみかなりと吉兵衞はあやしみながらも押入おしいれより夜具取出して次の間へこそふしたりける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
青木さんは袂から真鍮の螺旋釘ねぢくぎをお出しになつて、鴨居かもゐの下へお打ちになる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
かみは、ふさ/\とあるのを櫛卷くしまきなんどにたばねたらしい……でないと、ひぢかけまどの、うしたところは、たかまげなら鴨居かもゐにもつかへよう、それが、やがて二三ずんのないくらがりに、水際立みづぎはたつまで、おなくろさが
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
血の気のない顔が仄白ほのじろ鴨居かもゐの下に浮いた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
もつと長押なげしへ釘を打てば何んでもないが、それでは家がたまらないから、欄間らんまから鴨居かもゐへ紐を一本通してくれと仰しやつて、私は萠黄もえぎの細い紐を見付けて通して上げました。
船橋屋も家はあらたになつたものの、大体は昔に変つてゐない。僕等は縁台えんだいに腰をおろし、鴨居かもゐの上にかけ並べた日本アルプスの写真を見ながら、葛餅を一盆ひとぼんづつ食ふことにした。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
次第しだいに、とこはしら天井裏てんじやううら鴨居かもゐ障子しやうじさんたゝみのへり。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
見兼みかねたりけん客人には餘程草臥くたびれしと見えたり遠慮ゑんりよなく勝手かつてに休み給へ今に家内の者共が大勢おほぜい歸り來るが態々わざ/\おき挨拶あいさつには及ばず明朝までゆるりとねられよ夜具やぐ押入おしいれ澤山たくさんありどれでも勝手に着玉へまくら鴨居かもゐの上に幾許いくつもありいざ/\と進めながら奧座敷おくざしき差支さしつかへ有れば是へはみだりに這入はいり給ふな此儀は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そこで下女のお元に頼んで蚊帳かやの中釣りだと言つて、細い紐を鴨居かもゐに通して貰ひ、その紐の端に赤い縮緬ちりめん扱帶しごき——死んだ娘の形見を出して結び、紐を引いて扱帶を欄間らんまにかけた
鴨居かもゐ扱帶しごきを掛けて自分でくびれ死んだといふことにして檢屍まで受けたので御座います