馬鈴薯じやがいも)” の例文
お栄はそんなことを胸に浮べながら独りで部屋を片附け、それから勝手の方へ行つてざるの中に入れてあつた馬鈴薯じやがいもの皮をき始めた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
禿頭といふのは真野博士が色々の智識ををさめてゐる頭の事で、林伯や児玉伯や馬鈴薯じやがいも男爵などの頭と同じやうにてかてか光つてゐる。
「どうしたもんだおとつゝあは、おひら盛換もりけえするもなんめえな、馬鈴薯じやがいもめえいくらでもんのに」おつぎはさらたしなめるやうに
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
聞く所に依れば、英人は鱷猟の組合を組織して鱷を捕へ、その背肉はいにくをビイフステエキの如く調理し、からし、ソオスを加へ、馬鈴薯じやがいもと共に食ふと云ふ。
げたおかゆは腐つた馬鈴薯じやがいもとおなじ位ひどいものだつた。餓死しさうな人でもそれを食べればすぐにむか/\してしまふだらう。みんなの匙ものろ/\と動いた。
間接には馬鈴薯じやがいもに目鼻よろしくといふマダム田島の御機嫌をとつた事になる不面目を施し、退いて職員室の一隅に、児童出席簿と睨み合をし乍ら算盤の珠をさしたりいたり
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
くさむしれ、馬鈴薯じやがいもれ、かひけ、で、げつくやうな炎天えんてんよる毒蛇どくじやきり毒蟲どくむしもやなかを、鞭打むちう鞭打むちうち、こき使つかはれて、三月みつき半歳はんとし一年いちねんうちには、大方おほかたんで
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一年は食はなければならない馬鈴薯じやがいもだの、板で周囲を張つた小屋だの、蕎麦の畑の白い花だの、旅籠屋の前の灯だの、うどんかけと書いた明るい障子だの、柳の夕風に靡いてゐる坂のところだのが
百日紅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
あかき浅夜の野良の家いくつ洋燈ランプつけたり馬鈴薯じやがいもの花 (六一頁)
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ところどころの馬鈴薯じやがいも
商船会社の志望者といつても、もとは大抵胡瓜きうり馬鈴薯じやがいもと同じやうにをかの上で生れたので、それ/″\自分の故郷といふのをつてゐる。
「そんなことはねえつたつていてんのになんだつぺな、おとつゝあ」おつぎは勘次かんじしかつた。勘次かんじくちつぐんではしさき馬鈴薯じやがいもした。與吉よきちまぶたゆるんでいつかかるいびきいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
夕食デイナーは、二個の、大きな錫張すゞばりの器で出された。その器からは惡臭のある脂のつよい白い湯氣ゆげが立つてゐた。見ると、この食物は、平凡な馬鈴薯じやがいもと古くさい肉の變な切屑とを一緒に煮てあつた。
木の皿に一つごろりと描いてある紫の芽の出かかつた馬鈴薯じやがいも
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それから馬鈴薯じやがいもと鞘豆と
とりわけひどいのは料理で、仏蘭西式の本場の庖丁加減よりも、馬鈴薯じやがいも天麩羅てんぷらが好きで、何かといふとそればかりを頬張つた。
大丈夫だいぢやうぶだとも、馬鈴薯じやがいもかくやうぢやその肥料こやしくはふから、いやくはとほくへすんぢや魂消たまげたもんだから、りもしねえのに肥料こやしはう眞直まつすぐにずうつとつかんな
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
夏浅き月夜の野良の家いくつ洋燈ランプつけたり馬鈴薯じやがいもの花
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
昨日きのふ心臓麻痺で亡くなつた木彫家田中祥雲氏は、頭が馬鈴薯じやがいものやうに禿げてゐるのと飛び抜けた奇行が多いので、仲間に聞えた男であつた。
山寺は庭を畑とし馬鈴薯じやがいもの根薯埋めたり秋待たむとす
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
英詩人野口米次郎氏の頭の天辺てつぺんはやくから馬鈴薯じやがいものやうな生地きぢを出しかけてゐた。氏は無気味さうに一寸それに触つてみて
さかなかつぎ丘にのぼれば馬鈴薯じやがいもの紫の花いま盛りなり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
老年としよりつて幾つ位かな。」重役の一人は馬鈴薯じやがいものやうなぴか/\した頭を撫でながら言つた。
いももころげ出せ、馬鈴薯じやがいも、里芋、つくね芋。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「実は困つた事が持ち上つたのだ。」団長は馬鈴薯じやがいものやうな額をてかてかさせながら言つた。
お薯もころげ出せ、馬鈴薯じやがいも、里芋、つくね芋
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と、だらしなく画絹の前に坐ると変な手附てつき馬鈴薯じやがいものやうなものをさつとなすくつた。そしてとろんこの眼でじつと見てゐたが「此奴こいつかん。」と言つて、画絹をさつと放り出した。
馬鈴薯じやがいもべすぎた食傷もたれから。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
女といふ女が恋人よりも新聞小説よりも好きな馬鈴薯じやがいもである。
「それから馬鈴薯じやがいも料理もなかなか美味うまく食べさせますよ。」