かね)” の例文
旧字:
枕元には、薬研台やげんだいの上に、びたかね灯皿ひざらがおいてある。その微かな燈心の揺らぎで見返しても——また合点のゆかないふしがある。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かねの橋のそばの富竹という寄席には、横浜生え抜きの落語家はなしか桃太郎と千橘せんきつの招き行燈が、冬靄ふゆもやのなかに華やかな灯の色を見せて揺れていた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
この御縁談ばっかりは大丈夫、かねの脇差と御請合い申しました私も、胸に釘を打たるる思いが致しまする。
「彦のこった、大丈夫かねの脇差し——かず離れず見え隠れ、通う千鳥の淡路島、忍ぶこの身は——。」
「そうじゃ。余り、びくびくすると、張りこが、かねに見える。世間が泰平じゃと、話が、面白可笑おかしく尾に鰭をつけていかん。大作など、人気とりの山師にすぎん」
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
伊「花里さん、もうちっとだから辛抱しておいでよ、ちょいと首を出して御覧、品川はあんなに遠くなったから、此処こゝまで来れば大丈夫かねわらじだ、おいらはえらくなったぜ」
一等辛いことは——動作は簡単だが、こう手をのべてピストルを握れば、かねの肌が冷々ひえびえとして——
ピストルの蠱惑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「あなたの方の身体はかねですか」と丈夫な子供等に向って言暮しているという嫂の言葉
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先刻さっき、横浜駅前の(現今の桜木町さくらぎちょう駅)かねの橋を横に見て、いつもの通り、尾上町おのえちょうの方へ出ようとする河岸かしっぷちを通ると、薄荷はっかを製造している薄荷のにおいが、爽快そうかいに鼻をひっこすった
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その杖の先にはやりのようなかねが付いて居るです。もっとも沢山たくさん雪の広く積ってある所はそれほど巌も厳しくもなし、まあ平坦になって居りますから登り易いがそうでない所は実に危ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
短気の石山さんが、どんな久さんを慳貪けんどんに叱りつける。「車の心棒しんぼうかねだが、鉄だァて使つかるからナ、おらァ段々かせげなくなるのも無理はねえや」と、小男こおとこながら小気味よく稼ぐたつ爺さんがこぼす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かねの鎖で辛うじて谿底の方へくだつて行つたことだの、それから、谿間のいはから湯が威勢よくいてながれてゐるところだのをおぼえてゐる。もどりに志津しづに一泊して、びしよぬれの衣服をほした。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
二葉の新芽に雪霜のふりかかりて、これでも延びるかと押へるやうな仕方に、へて真直ぐに延びたつ事人間わざにはかなふまじ、泣いて泣いて泣き尽くして、訴へたいにも父の心はかねのやうに冷えて
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
どぶはなしに柵を一小間ひとこま、ここに南天の実が赤く、根にさふらんの花がぷんと薫るのと並んで、その出窓があって、窓硝子まどがらすの上へ真白まっしろに塗ったかねの格子、まだ色づかない、つたの葉が桟に縋ってひさしう。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「私、かねの草鞋を穿いても、もっと綺麗な人を探して上げますわ」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
棒と思つたのは、かね熊手くまでである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
かねの靴
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
らい了戒りょうかいのあざやかなかね色が、静かに、そして鋭く、眼光刀光が一すじになって詰め寄ろうとしています——平手ひらて青眼せいがんのかたちに。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アノお隣で、なんくぎを打つんだとまうしますから、蚊帳かや釣手つりてを打つんですから鉄釘かなくぎ御座ございませうとまうしましたら、かねかねとのひで金槌かなづちるからせないとまうしました。
吝嗇家 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ハハハ。初耳どころか。この縁談ばっかりは大丈夫、間違いのないかねの脇差と思うて、結納の済んだ話を聞いて以来、安心し切っておったがなあ。一体その故障と言うのは何かいなあ」
しいんと頭のはちをかねの輪でしめつけられるような悪酔わるよいがのぼって来る。こめかみの脈がずきずきと聞えるほど高くつ。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
図書館にモグリ込んだり……いた同志が結婚間際でイヤになったり……かね草鞋わらじで探し当てたタッタ一つの就職口をハガキ一本で断ったりするような、重大な心理の変化が引っきりなしに起るのは
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
当時の横浜銀座ともいえるかねの橋のすぐそばに関川歯科医院というのがあり、そこの令嬢が夢二の少女みたいに見えた。
『兄は、上田の御城下に住む、河村寿隆かわむらかずたかの門にまなび——私はその兄から、十三四歳の頃より、つちの打ち方、重ねかねの仕方、土取り、火入れまで教わりました』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かねノ橋を渡って、関内の或る待合の門まで来ると「家へ帰っていい」と、ぼくを放し
運命は悪戯者いたずらものというが、こんな弱者の家庭へも同じに見舞った。皮肉にも浜子の死後まもなく、ちょっと家運が開けた。どういう金が入ったのか、家はかねノ橋側の吉田町二丁目へ引移った。
抜き取った白いかねの肌には、まざまざと人間のギラが浮いている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まあ、きれいなかねの色ですこと」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(七ツ違いはかね草鞋わらじでさがせ)
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)