醜男ぶおとこ)” の例文
そのうえいたっての醜男ぶおとこであったに反し、相手方の江戸錦四郎太夫はまた、当時相撲取り中第一の美男子だったという評判のうえに
朝山日乗あさやまにちじょうは、稀れに見る醜男ぶおとこだった。同じ醜男でも、荒木村重には、どこか愛すべき風骨があるが、日乗はあぶらくさい入道であった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頬にも大きい疵のあとがあって、口のまわりにもゆがんだ引っ吊りがあって、人相のよくない髭だらけの醜男ぶおとこだったということです
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
相当のインテリと見えますが、非常な醜男ぶおとこのオッチョコチョイ、一流の激情家の腕力自慢というところから、よくゴシップに出て来ます。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そうかなあ、そうかなあ」吉次は茫然ぼっとして考えたが、「おいらは醜男ぶおとこで片輪者で、女に思われたことなんかない。俺らの方では想ったがな。 ...
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
醜男ぶおとこのニルマーツキイを選び出して、うつせにるように命じたばかりか、顔を胸へたくしませさえしたものである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ここに桑盛次郎右衛門くわもりじろうえもんとて、隣町の裕福な質屋の若旦那わかだんな醜男ぶおとこではないけれども、鼻が大きく目尻めじりの垂れ下った何のへんてつも無い律儀りちぎそうな鬚男ひげおとこ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
まったくの醜男ぶおとこだった。しかしクリストフは、彼をながめ彼の手を握りしめると、ある安らかな気持を覚えた。ブラウンは驚きの情を隠さなかった。
時次郎にとっては、マンを独占している男が、醜男ぶおとこで、グウタラで、無能で、なんの取り柄もないヤクザ者であった方が、はるかに、よいのであった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
都ホテルや京都ホテルでいだ男のポマードのにおいよりも、野暮天で糞真面目くそまじめゆえ「お寺さん」で通っている醜男ぶおとこの寺田に作ってやる味噌汁みそしるの匂いの方が
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
その肝腎かんじんなものをへらすくったように根こそぎがれて、そこが平べったい赤い傷口になっているのだから、並みの醜男ぶおとこの顔よりも尚醜悪で、滑稽であった。
そして生れたのがお米であるが、醜男ぶおとこの清作に似たところはなく、どことなく専信の面影を宿していた。その時以来夫婦の仲は冷えきってしまったのである。
醜男ぶおとこだけが誰もかまい手がないから、それでやむを得ず善人でいられるんですって。ですから大抵の女は、善人よりも悪人に惚れますよ、といってやりました
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
金六に引合せられたのは、成程お國がヒヨツトコの國から來た男といふだけあつて醜男ぶおとこではあるが、何んとなく人付きの良い、道樂者らしい肌合ひの男でした。
生れつき醜男ぶおとこであった黒吉は、あのブランコからの墜落で、片足と片眼を失い、その上顔の右上から斜め下に、太い蚯蚓みみずのようなひっつりを作ってしまった今
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
相手は醜男ぶおとこであろうと想像していたのであったが、その実柴田は俳優にでもありそうなタイプのやさしい顔のもち主であったので、まず第一に驚いたのであった。
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
そうでしょう、大きな鍋が、鉄のつるを立てて、箱のなかにどっかと腰をすえているところは、真っ黒な醜男ぶおとこが勝ちほこった皮肉の笑いを笑っているようで——。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
どう贔屓目ひいきめに見ても彼を美男とは云えない。非常な醜男ぶおとこではなかったけれど決して美しくはなかった。
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
この小さんは、美音で音曲にも長じてゐたが、ひどい大菊石おほあばたでその醜男ぶおとこが恐る可き話術の妙、傾城けいせい八つ橋の、花に似たかんばせの美しさを説くと、満座おもはず恍惚となる。
吉原百人斬り (新字旧仮名) / 正岡容(著)
好きこのんで醜男ぶおとこになったんじゃあない、頭の悪いのも不器用なのも、みんな親が生みつけてくれたんだ、笑うなら親を笑ってくれ、おれは時どきそう呶鳴どなりたくなる
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
面胞にきびだらけの小汚こぎたない醜男ぶおとこで、口は重く気は利かず、文学志望だけに能書というほどではないが筆札だけは上手じょうずであったが、その外には才も働きもない朴念人ぼくねんじんであった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
至って醜男ぶおとこで、熊のような、毛だらけな男でございますが、女房はそれは/\美くしい女で、權六は命の親なり、かつ其の気性に惚れて夫婦になりたいと美人から望まれ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
町住まいの兄ぎみよりも一段と醜男ぶおとこでしたが、かてて加えて村里ぐらしのうちにすっかり「毛もくじゃら」になって、おまけに「つらの皮がごわごわ」になっていることに
それは別に好男子でもないかわりに醜男ぶおとこでもなく、ふとりすぎてもいなければせすぎてもいず、また年配も、けているとはいえないが、さりとてあまり若い方でもなかった。
私、はじめてここに来た時、あなたなんて、黙りこくって醜男ぶおとこな人、いるんだかいないんだかわからなかったんですけど、だんだん、だんだあん好きになってきてしまいましたわ。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その恋人が、まるで古草履ふるぞうりでも捨てるように、兄をふり捨てて、つばをはきかけて、相手もあろうに、二十も年上の、醜男ぶおとこの、詐欺師に、みずから進んでとついで行ったのです。……
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
正直なことをいうと、山岡も稀に見る醜男ぶおとこの方なのである。上背は四尺六、七寸、肩幅が広くてずんぐりしている。丸い顔に、丸い頭を玉石のようにいが栗にして、いつも元気がいい。
縁談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
艶福家は兎角うらやまれる。慰藉料ぐるみなら、艶福と同時に実利も占めている。美人の奥さんに対して、木寺君はむし醜男ぶおとこだから、話題になり易い。会社の方の成績も見るべきものがない。
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「馬鹿な事をおっしゃい。誰があなたのような醜男ぶおとこなんぞあるもんですか」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
美男びなんですよ、あの犬は。これは黒いから、醜男ぶおとこですわね。」
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
渋染しぶぞめの頭巾をこうかぶりましてね、袖無そでなしを着て、何のことはない、柿右衛門かきえもんが線香を持ったような……だがふとっちょな醜男ぶおとこでさ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「先刻のボーイは醜男ぶおとこだが、今のボーイは可愛いだろう。あれだけの美貌を持ったボーイは、日本人にも一寸ちょっと無いよ」
広東葱 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは、かならず、酒場にいて醜男ぶおとこが美男子に向って投げつけた言葉です。ただの、イライラです。嫉妬しっとです。思想でも何でも、ありゃしないんです。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ベートーヴェンが聾で唖だったことをクリストフに教え、それでももしベートーヴェンを知ったら、どんなに醜男ぶおとこでも自分は彼を愛したはずだと言った。
すべて、がんりきの目安では、あらゆる男性を区別して、色男と、醜男ぶおとことに分ける。色男でない者はすなわち醜男であり、醜男でない者はすなわち色男である。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
幹助は熊の子のように不意気ふいき醜男ぶおとこだから、口ではお艶を大嫌いで仕様が無いように言って居るが
おらうちへ嫁に来ておら醜男ぶおとこで誠に何処と云って取り所も何もねえが、おらア精神を見抜いておめえの親父様もくれたゞから、末長く成るべいが、夫婦は初見しょけんにあると云うから
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
Wは元来の結核系統のうちに生れたせいか、その当時の学生のうちでも一二を争う好男子の偉丈夫で、性質は念に念を入れる神経質の実際家……Mはまたその頃から矮躯チビ醜男ぶおとこ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
容貌ようぼうの印象は頬が豊かに、あごの骨が四角に突き出で、決して醜男ぶおとこではないけれども、顔の割り合いに目鼻口の造作ぞうさくが総べて大きく、いかにも沈毅英邁ちんきえいまいな豪傑の相たるにそむかない。
あばたの敬四郎がたとい日本第一の醜男ぶおとこであったにしても、一歩先んじられたという事実はあくまでも事実なんだから、右門はそのきりっとした美しい面にほろ苦い苦笑をもらすと
陛下に拝謁しようというので、伯爵の弟が草深い持村から出て来たが、それがまた兄貴に輪をかけた醜男ぶおとこな上に、久しい間の田舎ぐらしで制服を着たこともなければ、ひげを剃ったこともない。
伊賀のあばれン坊としてのすばらしい剣腕は、伝え聞いている——きっと見るからに赤鬼のようなあの、うちの峰丹波のような大男で、馬が紋つきを着たような醜男ぶおとこにきまっていると、萩乃は思った。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
(成るほど、俺は不具だ、おまけに醜男ぶおとこだ……)
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
戸部 俺の兄貴は醜男ぶおとこだったなあ。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
顔に、あばたはあるし、あだ名の通りなスガ目だし、四十幾つの男ざかりだが、父はたしかに醜男ぶおとこではある。正直、子の清盛でも、そう思う。
良人おっとになる奉行の息子というのが、兎口みつくち醜男ぶおとこなので嫌いぬいていたんですが、親と親との約束なのでどうにもならず、それで婚礼の席へは出たものの
猿ヶ京片耳伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こんな事を言っちゃ悪いけれど、この俊雄君は、僕が今までに見た事もない醜男ぶおとこなのだ。実に、ひどいんだ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この殿様は、駒井能登守のように水の垂れるような美男とはいえないが、決して醜男ぶおとこの部類ではない。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ベートーヴェンはそんなに醜男ぶおとこではなかったと、クリストフは抗弁した。そして二人は、美と醜とについて議論した。すべては趣味によるのだと彼女は説きたてた。
振りかぶった丹之丞のやいばと、石田清左衛門の間へ入ったのは、念入りの醜男ぶおとこのくせに、軽捷で精力的で、何となくしたたかさを感じさせる正三郎——丹之丞の遠い従弟という