さまた)” の例文
(詮議のさまたげになる。ここにおる者以外への口外は、一切差し控えられたい。——係り海野甚三郎は、お品の出るまで、退城はならぬ)
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殆んど天上なるものへの思慕の如く一途に汚れなきこの恋の精進を、みにくい悪魔の誘惑にさまたげられることが堪えられなかった。
アンドロギュノスの裔 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
いや、その本願寺にしても、それだけの伽藍がらん勢力だけでは、こう何年も信長と対立し信長の統業を根底からさまたげるものとはなり得ない。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それをよいことにして、諸国、江戸表にまで出て、あしざまに世へいい触らし、仇呼かたきよばわりをするのみか、御出世の道をさまたげおったな
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
却ってそれが疾風的行動のさまたげとなっても、常套的じょうとうてきな作戦変更という形式からついに一歩も飛躍し切れなかったことの一因といえよう。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「難事は、水害のさまたげのみではないぞ。築城中にも、うるさくせ来る美濃の兵に対しても、そちは何ぞしかとした勝算があるか」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「な、なんで、大事な執刀の邪魔を召さるか。狂気されたかッ。役儀の遂行をさまたげるに於いては、何人なんぴととて、用捨はいたさぬぞ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ご無沙汰いたしました。怖らく人を避けてのお住居すまいとは察しながら、押して突然、おさまたげ申しました。おゆるしのほどを」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あなたの頭から、その観念が抜けきれぬ。猿々と、あごで追い使っていた頃の先入主せんにゅうしゅさまたげて、今のあの男の正しいすがたが見えなさらぬのじゃ」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
功名のために、首を荷にして持ちあるき、首の数など心がけていては、次々の働きにさまたげとなる。そういう彼の信条だった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ははは。これはおさまたげになりましたか。手本にお用いの画巻は、誰の筆ですな。狩野山楽かのうさんらくにでもお命じになったもので?」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木曾殿時代の夜をおもい合せて、兼好がふと、そばの女たちの色の沈みを、あわれと見ていると、道誉はその眼をさまたげるように、からかった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
切通しで、万太郎と金吾の為に、折角せっかくな場合をさまたげられて姿を消したが、かれは、それであきらめて帰るような人間ではない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この移動をさまたげんとするもののように、すでに外濠の道路の一角では、明智勢と殿軍しんがりのあいだに血戦が捲き起されていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長い顎から禿げびたいまでが、その面長をよけいにのぺッと見せているが、富裕で子福者らしい人相をさまたげてはいなかった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「およそは、征伐が目的ではない。たださまたげを打ちくじぶんにて、たたかいの目標はるぞ。——あとはこう師直もろなおよりの執事の令に従って去就きょしゅういたせ」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、さまたげのない湖上を押しわたって、ふたたび叡山以西に出軍する日の遠からぬことを、藤吉郎も今思いあわせた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「むだだ、むしろさまたげになる。それよりは、時の来るまで、随所に身をひそめ、縦横たてよこの結びを密にし、再び、正成が招く日の合図を山野に待っておれ」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、それ以上に脚の早いものがまた、そのあとから跳んで来て、かれの前や後ろをめぐり、その敏捷をさまたげた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腰兵糧こしひょうろうはつけたか。いでたちは身軽がいいぞ。絶壁へとりついても、進退のさまたげられぬように。——馬。馬は無用だ、みんな徒歩かちで行く。おれも歩く」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「盲の子連れなどがおりましては、かえって、こよいのおさまたげ、私どもは、蔭にて、ことほぎ申しあげておりまする」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——朝のおつとめのおさまたげをいたしました。おいとま申しまする」綽空は、そっと、縁のほうへ身を退しさらせていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——なにもかも懺悔ざんげいたしまする」と、こう石念はまた、素直にことばを継ぐと、もうさまたげるもののない気持で、いおうとすることがすらすらいえた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼をふさいで時のうしおさまたげる利己心の亡者どもは、春秋の落葉と共に焚殺ふんさつさるるもぜひあるまい。——尊林坊、その他の法師衆、悔ゆるなよ。ではおさらば
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もうお心をさまたげはいたしません。われらもつらくなる。どうぞお気もちを直して、せめて一日半夜だけでも、一同の心をんで、ここにおいで下されたい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おことら夫婦が、これへ来たのは、山田申楽の座に修行入りせんためとあるが、それもこう、六波羅者のさまたげでは、しょせん、願いはかなうまい。それよりは」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、入国税とか橋税とか渡船税とか、文化の交流をさまたげるものは、一時の犠牲をしのいでもみな廃した。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屁理窟へりくつばかりこねて、勤勉な農をダニのようにさまたげている——いわゆる駄農のたぐいには違いないようである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
博戯あそびさまたげられた金持ち階級は、にわかにざわめいて悪口を口走る。——鉄面皮てつめんぴだの、おしかの、つんぼかのと。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
射手は敵の狼狽をうかがって、四林から矢をそそぎかけろ、——さすれば敵はひるみ、道は岩石大木にさまたげられ、やすやすと袁紹のところまで行くことができよう
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
樹の上なので、身の位置も直さなければならない、また小枝にさまたげられて、銃身もすぐには向けられまい。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだ。心せねばならん。汝南はもう近いが、何事も、もう一歩という手まえで、心もゆるみ、思わぬさまたげも起るものだ。——孫乾そんけん、道の案内に先へ立ち給え」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仏様はあがめてもよいし、学問も尊重してよいが、生々しい政争と合戦のちまたにいては、そんなものは心のさまたげにこそなれ、多足たしにはならないと決めているのである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間、高氏は、目をとじていたがとじている眼にも、道誉の顔がちらつき、努める理性もさまたげられた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もとより鎌倉の秘命だが、まださいごの一令は言って来ぬ。とかく煮えきらぬ判官殿が、また妻にさまたげられでもしているものやら、いや焦立いらだたしいことではある」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みちのくの精鋭一万、霊山りょうぜんを立って、白河ノ関を越え、ここまで来ました。前途幾山河いくさんが、なお途々の敵のさまたげは想像をぜっしましょうが、一念、くじけることはありません。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おさまたげでなくば、雨夜あまよのつれづれに、ちと世間ばなしでも、お耳に入れようかと存じまして」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、むしろ味方同士のさまたげがない下流しもを選んで、自分一騎だけはと、やにわに丘の陰から駈け出したのであったが、何ぞ計らん、そう考えた者は、自分だけではなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなたは劉家のご養子ですから、本来、漢中王の太子たるに、それをさまたげた者は関羽でした。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お眠りのさまたげになりましたか。恐れいります。あしたからはもっと遠方でいたしまする」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、それには及ばぬこと。お職所のさまたげしては、かえって居辛うおざる。ひらに、平に」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
志の小、身の至らなきにひきくらべ、義清はただ恥じ入るのほかございませぬ。……らざる小人のわずらい事をお耳にいれ、折角の静夜をおさまたげ仕りました。どうぞおゆるしきを
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よう汲んではおるが、範宴が今の無明海むみょうかいをこえて彼岸ひがんに到るまでは、いかなる障碍しょうげ、いかなる情実にもさまたげられぬと武士が阿修羅に向うような猛々しい心をよろうて参ったのだ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに、農事のさまたげを無視し、部下の辛苦も思いやらず、われのみ、公務の出先、かんをぬすみ、酒肉をあさり、君威をかさに着て民力を枯らすなどとは悪吏の典型的なるものじゃ
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悪人というならいえ。おれはその悪方あくがたへ廻って、一生涯、野郎の出世をさまたげてくれよう
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生きてわが殿の狂気沙汰を見、君家の滅亡に会うよりは、死をもっておさまたつかまつります。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ですから、世間のおさまたげにはならないように、細ぼそ、生かしていただいて参ります。
足軽の子は足軽の子らしく、この辺わいわいと童戯どうぎや、童歌に満ちて道をさまたげている。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分の大望にさまたげありとしていつも、横槍を衝き入れるのが武田信玄なのであった。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なにも、捨ててしまうには当るまい。おれはだんだん気が小さくなるようだ。その気の小さいのが出世のさまたげかもしれないぞ。武蔵のように、太くなろう。天下を取った奴をみろ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)