適宜てきぎ)” の例文
かの子 い調和とかしこい素直さと皓潔な放胆で適宜てきぎに生きるというほどいつの時代にだって新鮮な生き方はなかろうと思いますわ。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それから料理する前に炮烙ほうろくでよくって湯の中へ適宜てきぎに入れて塩と砂糖を加えて三十分ばかりまわしながら煮ると粉末こなふくれてドロドロになる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
料理を教えるのに、塩何グラム、砂糖何もんめなどと、正確に出すなら、ねぎを適宜てきぎきざみ、塩胡椒しおこしょう少々などというな。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「はははしかしそんなにもなく笑わなくってもいいさ。少し笑う——適宜てきぎに、——そうするといい心持ちだ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
元来人の子に教を授けて之を完全に養育するは、病人に薬を服用せしめて其薬に適宜てきぎの分量あるが如し。既に其分量を誤るときは良薬もかえって害を為す可し。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
要之助の死体の位置を適宜てきぎの所におく。斯くて彼は完全に殺人を行う事が出来、所罰しょばつを免るるを得るのだ。
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
又非常時に際して種々の流言蜚語りゅうげんひごあらんも、国民は始終冷静に適宜てきぎの行動をとることによりて其の被害程度を縮少し、空襲おそるるに足らずとの自信を持ち得るものと確信する。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そうか、野武士のぶしでも、なかなか作法さほう心得こころえている。そちのうち食客しょっかくしているあいだ、じゅうぶんにいたわってとらせろ。そのうちに、なにか、適宜てきぎ処置しょちをとってつかわす」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
裁縫 コロボツクルが衣服を作るにはかはにも有れ布にも有れ適宜の大さ適宜てきぎの形に切りて之をひ合はせし事勿論なり。筒袖と云ひ股引と云ひ一續きに作るを得べきものに非ず。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
以下に書きつけられた会話筆記は、その中から適宜てきぎに取りだした断片的の覚書である。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
それを茶漬けにするには、細かくざくざくに切り、適宜てきぎ熱飯あつめしの上に載せ、例のように醤油をかけて茶をかける。
鱧・穴子・鰻の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
かつ当時流行の有志者が藩政をもっぱらにすることなくして、その内実は禄を重んずるの種族が禄制を適宜てきぎにしたるがゆえに、諸藩に普通なる家禄平均のわざわいまぬがれたるなり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
担任の仕事はと聞くとただ文芸に関する作物を適宜てきぎの量に適宜の時に供給すればよいとの事である。
入社の辞 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その目的は、S国の強力なる空軍が、わが帝国領土内に侵入を開始したのに対し、適宜てきぎの防衛を行うためであります。皇軍の各部隊は既にそれぞれ勇猛果敢かかんなる行動を起しました。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
之をつくるには先づ適宜てきぎの大さの火山石をひろ自然しぜん面の利用りやうすべき部は之を利用し
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
「大策の決った上は、現地のことすべて汝の思慮にまかす。適宜てきぎに対処せよ」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
Oという県庁所在地の市は夕飯後の適宜てきぎな散歩距離きょりだった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
要するに、焼いたはもを熱飯あつめしの上に載せ、はしし潰すようにして、飯になじませる。そして、適宜てきぎ醤油しょうゆをかけ、玉露ぎょくろ煎茶せんちゃを充分にかけ、ちょっとふたをする。
鱧・穴子・鰻の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
適宜てきぎ使役しえきするつもりだ。家僕かぼくとして、日本人はなかなかよくつとめる」
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
類品るゐひん諸所しよ/\より出でたり。これを作るには火山石の適宜てきぎの大さのものをえらび凹み石を作ると同樣どうやう順序じゆんじよて、一めんに大なる凹みをまふけ、此凹みの内部ないぶをばの石を以てらしたるものなるべし
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
着物も自然ひとりでにできるし、小遣こづかい適宜てきぎに貰えるので、父の存生中ぞんしょうちゅうと同じように、何不足なく暮らせて来た惰性から、その日その晩までも、ついぞ学資と云う問題を頭に思い浮べた事がなかったため
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
餅の雑炊は、正月の餅のかけら、鏡餅のかけらなどを適宜てきぎに入れてお粥を煮ることである。出来たお粥に焼いた餅を入れてもよい。粥と餅とのなじみがおいしい雑炊なのである。
小六ころくちゝんで、すぐと叔父をぢられて以來いらい學校がくかうへもけるし、着物きもの自然ひとりで出來できるし、小遣こづかひ適宜てきぎもらへるので、ちゝ存生中ぞんしやうちゆうおなやうに、何不足なにふそくなくらせて惰性だせいから、其日そのひ其晩そのばんまで
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
適宜てきぎ、爆撃始め!」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
缶六、七十銭のものを五人前に使えば適宜てきぎといえよう。やはり、これも薄味付けしたお粥をこしらえて、できた粥の中へなめこを入れる。温まった程度でよい。煮過ぎるとなめこのくせが出て食べられない。