つくば)” の例文
火鉢の向うにつくばって、その法然天窓ほうねんあたまが、火の気の少い灰の上に冷たそうで、鉄瓶てつびんより低いところにしなびたのは、もう七十のうえになろう。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
左衛門尉は馬に乗つてつて来た。石黒氏は阿父おとつさんに催促せられて慌てて頭を下げてゐた。左衛門尉は自分の前にきのこのやうにつくばつてゐるこの二人に目をつけた。
畢竟ひつきよう彼は何等の害をも加ふるにあらざれば、犬の寝たるとはなはえらばざるべけれど、縮緬ちりめん被風ひふ着たる人の形の黄昏たそがるる門の薄寒きにつくばひて、灰色の剪髪きりがみ掻乱かきみだし、妖星ようせいの光にも似たるまなこ睨反ねめそらして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
なぜか、葬礼とむらいの式につらなったようで、二人とも多く口数も利かなかったが、やがて煙草たばこまないで、小松原はつくばった正吉を顧みて
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手品師は真赤になつて畳の上につくばつた。額からは油汗がたら/\と流れた。
例の物見高き町中なりければ、このせはしきはをも忘れて、寄来よりく人数にんずありの甘きを探りたるやうに、一面には遭難者の土につくばへる周辺めぐりを擁し、一面には婦人の左右にひて、目に物見んと揉立もみたてたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私とそでを合わせて立った、たちばな八郎が、ついその番傘の下になる……しじみ剥身むきみゆだったのを笊に盛ってつくばっている親仁おやじに言った。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると狸はそのまゝ気絶をするか、さもなければつくばつて屹度きつと謝罪をする。
一人ひとりつくばつて、ちひさいのがこしさぐつたがない。ぼろをる、きたな衣服きもので、眼垢めあかを、アノせつせとくらしい、兩方りやうはうそでがひかつてゐた。
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あまりみたれば、一ツおりてのぼる坂のくぼみつくばいし、手のあきたるまま何ならむ指もて土にかきはじめぬ。さという字も出来たり。くという字も書きたり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あまりみたれば、一ツおりてのぼる坂のくぼみつくばひし、手のあきたるままなにならむ指もて土にかきはじめぬ。さといふ字も出来たり。くといふ字も書きたり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
松の根につくばいて、籠のなかさしのぞく。このきのこの数も、がためにか獲たる、あわれ摩耶は市に帰るべし。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時、切髪きりかみ白髪しらがになって、犬のごとくつくばったが、柄杓の柄に、せがれた手をしかとかけていた。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
衣紋えもんを直したと思うと、はらりと気早に立って、つくばったおんなの髪を、袂で払って、もう居ない。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身体からだがどうにかなってるようで、すっと立ち切れないでつくばった、すそが足にくるまって、帯が少しゆるんで、胸があいて、うつむいたまま天窓あたまがすわった。ものがぼんやり見える。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこに、就中なかんずく巨大なる杉の根に、揃って、つくばっていて、いま一度に立揚ったのであるが、ちらりと見た時は、下草をぬいて燃ゆる躑躅つつじであろう——また人家がある、と可懐なつかしかった。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
では、汽車きしやなか一人ひとりつくばつて、真夜中まよなかあめしたに、なべ饂飩うどんかたちなんだ? ……
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さきよりつくばいたるかしら次第に垂れて、芝生に片手つかんずまで、打沈みたりし女の、この時ようよう顔をばあげ、いま更にまた瞳を定めて、他のこと思いいる、わが顔、みまもるよと覚えしが
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婆さんは言って、蚊遣をあおぐ団扇の手を留めて、その柄をつくばった膝の上にする。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裾にからめばつくばいてうなじで、かの紙片かみきれを畳みて真鍮しんちゅう頸輪くびわに結び附け
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とまた息きつつ、落胆がっかりしたる顔色かおつきして、ゆるやかにつくばいたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)