踏張ふんば)” の例文
腰に下げた手拭てぬぐいをとって、海水帽の上からしか頬被ほおかむりをした。而して最早大分こわばって来たすね踏張ふんばって、急速に歩み出した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
やがて、甲羅を、残らず藻の上へ水から離して踏張ふんばった。が、力足らず、乗出したいきおいが余って、取外ずすと、ずんと沈む。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両足を踏張ふんばって、組み合せた手を、頸根くびねにうんと椅子の背にもたれかかる。仰向あおむく途端に父の半身画と顔を見合わした。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何も大路であるから不思議なことは無い。たまたま又非常に重げな嵩高かさだかの荷を負うてあえぎ喘ぎ大車のくびきにつながれてよだれを垂れ脚を踏張ふんばって行く牛もあった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
気イ沈着ける心持で力ア入れて踏張ふんばれば踏張る程足イ顫えるが、ういうもんだろう、わしんなに身体顫った事アねえ、四年前におこりイふるった事が有ったがね
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
必死の力を満身にこめてぐいと踏張ふんばり、看視人たちの手を振りもぎった途端に、赤裸あかはだかのからだは石畳のうえにころころと転がった。彼は首をり落とされたかと思った。
たった一度足を踏張ふんばっただけで、もうしっかりと、サッドルに腰を落ち着けてしまったのである。そうして自分の気質に相応した速度をふたたび恢復しようとして、彼は全力をつくした。
霜の真白い浅瀬に足を踏張ふんばって網を投げている翁の壮者をしのぐ腰付を筆者が橋の上から見下して、こちらを向かれたら、お辞儀をしようと思っていると、背後を通りかかった見知らぬ人がよく
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
遙かに下の方の山々の腰をめぐつて白い雲が湧上つて來た。急傾斜で息切がするが、友達の足は早い。彼は八度目の登山だつた。私は負けない氣を出して踏張ふんばつた。風は益々烈しく、山鳴が聞えて來た。
山を想ふ (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
ぐつと踏張ふんばつてゐる根があると思へば何でもないのだ
米友は短い両の足を、程よく踏張ふんばりました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
飛ぶやらねるやら、やあ!と踏張ふんばって両方の握拳にぎりこぶしで押えつける者もあれば、いきなり三宝火箸ひばしでも火吹竹でも宙で振廻す人もある——まあ一人や二人は
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
君がいくら新体詩家だって踏張ふんばっても、君の詩を読んで面白いと云うものが一人もなくっちゃ、君の新体詩も御気の毒だが君よりほかに読み手はなくなる訳だろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
細引を手にき付けて足を踏張ふんばる。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こんな事は前例がかつてない。勃然ぼつぜんとしていきり立つた従者が、づか/\石垣を横につて、脇鞍わきぐら踏張ふんばつて
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「へん年に一遍牛肉をあつらえると思って、いやに大きな声を出しゃあがらあ。牛肉一斤が隣り近所へ自慢なんだから始末に終えねえ阿魔あまだ」と黒はあざけりながら四つ足を踏張ふんばる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「今に落としてやる」と圭さんは薄黒く渦巻うずまく煙りを仰いで、草鞋足わらじあしをうんと踏張ふんばった。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女像によざうにして、もし、弓矢ゆみやり、刀剣とうけんすとせむか、いや、こし踏張ふんばり、片膝かたひざおしはだけて身搆みがまへてるやうにて姿すがたはなはだとゝのはず、はうまことならば、ゆかしさはなかる。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この女像にして、もし、弓矢を取り、刀剣をすとせんか、いや、腰を踏張ふんばり、片膝おしはだけて身構えているようにて姿甚だととのわず。この方がまことならば、床しさは半ばせ去る。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今言った現代日本が置かれたる特殊の状況にって吾々の開化が機械的に変化を余儀なくされるためにただ上皮うわかわを滑って行き、また滑るまいと思って踏張ふんばるために神経衰弱になるとすれば
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
予も何となく後顧うしろぐらき心地して、人もや見んとあやぶみつつ今一息と踏張ふんばる機会に、提灯の火を揺消ゆりけしたり。黒白こくびゃくも分かぬ闇夜となりぬ。予は茫然として自失したりき。時に遠く一点の火光あかりを認めつ。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今時いまどきバアで醉拂よつぱらつて、タクシイに蹌踉よろんで、いや、どツこいとこしれると、がた、がたんとれるから、あしひきがへるごと踏張ふんばつて——上等じやうとうのはらない——屋根やねひくいからかゞごしまなこゑて
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すぐに摺抜すりぬけて出直したのを見れば、うどん、当り屋とのたくらせた穴だらけの古行燈ふるあんどんを提げて出て、むしろの上へ、ちょんと直すと、やっこはその蔭で、膝を折って、膝開ひざはだけに踏張ふんばりながら、くだんの渋団扇で
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、足を踏張ふんばり、両腕をずいとしごいて
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どっこいと踏張ふんばったのでありまする。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)