跳起はねお)” の例文
新太郎ちやんは、跳起はねおきると枠のあとを追つかけた。枠の方が十倍も速かつたが、新太郎ちやんは、何処どこまでも追つていつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
小使こづかひのニキタはあひかはらず、雜具がらくたつかうへころがつてゐたのであるが、院長ゐんちやうはひつてたのに吃驚びつくりして跳起はねおきた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
蹴られて金眸岸破がば跳起はねおき、一声えて立上らんとするを、起しもあへず鷲郎が、襟頭えりがみはへて引据ゆれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
一瞬時なりともこの苦悩この煩悶を解脱のがれようとつとめ、ややしばらくの間というものは身動もせず息気いきをも吐かず死人の如くに成っていたが、倏忽たちまち勃然むっく跳起はねおきて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
其のうちにお瀧が中央に居るから、情実わけが有ればソレ夜中に向うの床の中へ這入るとか、男の方からお瀧の方へ足でも突込つッこめば、貴方が跳起はねおきて両人ふたりをおさえ付け
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こう云って、己は椅子からね起きて、怒鳴どなってやろうかとさえ思った。跳ね起きようとすれば、いつでも跳起はねおきられる、怒鳴ろうとすればいつでも怒鳴り得ると思った。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二人の神経が段々とがって来た。そしてお島に泣いて突かかられると、鶴さんはいきなり跳起はねおきて、家では滅多にあけたことのない折鞄をかかえて、外へ飛出してしまった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
恐ろしさとにえかねて、跳起はねおきようとしたが、からだ一躰いったい嘛痺しびれたようになって、起きる力も出ない、丁度ちょうど十五分ばかりのあいだというものは、この苦しい切無せつなおもいをつづけて
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
しまがツ。』とわたくし蹴鞠けまりのやうに跳起はねおきてると、此時このときてんまつたけて、朝霧あさぎりれたるうみおも端艇たんていこと三海里さんかいりばかりの、南方なんぽうあたつて、椰子やし橄欖かんらん青〻あほ/\しげつて
彼はそこまで考えると、いきなりベッドから跳起はねおきた。彼はずっと前から、原稿料で生活をしてきたいと考えていたが、投稿するなら、まず幸福日報社が好かろうとめていた。
幸福な家庭 (新字新仮名) / 魯迅(著)
お栄が眼を覚まして跳起はねおきて見ると、姉は床の上に突伏つツぷして、身体からだを震はせて居た。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
綾子は茫然瞳を据えて、石に化せるもの数分時、俄然がぜん跳起はねおきて、「ああ、懊悩うるさい。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が更けて、本尊様が寝言でも仰有らうといふ頃、独照はがばと跳起はねおきた。
小使こづかいのニキタはあいかわらず、雑具がらくたつかうえころがっていたのであるが、院長いんちょうはいってたのに吃驚びっくりして跳起はねおきた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
惣「そりゃア誠に困ったものだ、たれか看病人が無ければならん、成程おれも時に行って見ると、ひょいと跳起はねおきるが、あれではかえってぶり返すといかんから看病人に姉でも呼ぼうか」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
むっくと三吉は跳起はねおきた。表の戸を開けて、受取って見ると、病院から打ってよこしたもので、「ミヤクハゲシ、スグコイ」とある。お延を起す為に、三吉は姪の寝ている方へ行った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
疫病神どもこれを聞くより、そらげろと、跳起はねおきて、棺は棄置き、雲を霞。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜もけた頃、むつくと寝床から跳起はねおきて、一旦細くした洋燈ランプを復た明くしながら、蓮太郎に宛てた手紙を書いて見た。今はこの病気見舞すら人目をはゞかつてしたゝめる程に用心したのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
五六名どやどやと入来いりきたりて、正体もなき謙三郎をお通の手より奪い取りて、有無を謂わせず引立ひったつるに、啊呀あなやとばかり跳起はねおきたるまま、茫然として立ちたるお通の、歯をくいしばり、瞳を据えて
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むッくりと跳起はねおきて首輪の音をさして座敷からつッと出た。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)