いじ)” の例文
ばかりじゃない、そのもはや完全に近い今松の上へ、さらにいろいろさまざまの雨や雪やみぞれあられや炭を降らせた、そうして、いじめた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
弱い者いじめや、清い人を、難儀させるようなことだけは、命を取られても、出来ねえ闇太郎、——それだけは、御承知下せえまし
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
この苦手な敵ほど、信長の性格を意地悪くいじめたものはなかった。我慢、辛抱というようなことは、由来、信長の得意ではない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いじめたから。……またあなたもみっちりおかせぎなさい。そうしたらお雪さんが、此度は向から頭を下げてあやまって来るから。……
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
あっしはお前さんをいじめる気持じゃねえ、出来たらお助け申してえくらいに思っている。少しの間顔を見せてやってください。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
諏訪 いいことよ、妾少しいじめてやりたいの、この子を。ええそう虐められてもいいわけがあるのよ、この子はね。ふふ……。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
「梶子殿あやまる、わしの失言じゃ! そうそういじめるものではない。——恋の進物などと申したこと、わしの失言、あやまるあやまる!」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あれはきっと奥さんにいじめられて来たからね。だからあたし、出来るだけそういう人には猫をかぶって大切にしてやってますの。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
まして段々と風波が募って、定基の妻が日に日にいじめられるようになっては、右衛門に対してすくいを求めるように何等かのことをしたかも知れない。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
畜生になってな、私が天王寺の銀杏いちょうの下で、トントン踊って、養うよってな。世帯せいでも大事ない、もう貴下あんた、多一さんをいじめんとおくれやす。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が同時にいじめて見たくてたまらず、倉の中に押し込んで泣くのを、戸の外で胸をドキドキさせながら聞いた。可愛そうでならないがしかも快楽なのだ。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
あんたはあたしのお小遣こづかいをぬすんだり、あたしをいじめて泣かしたり、あたしの大事にしている人形を幾つもこわしたりしたじゃないの、忘れやしないでしょ
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「さうかてお前、いじめられること分つてゝあんなとこへやれるかいな。そんな無慈悲なこと云ふもんやないで。」
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それらの煮炊万端はもっぱら水主にやらせるので、船手は坐して命令するだけである。この両者は大変に隔があって、水主は悪くすると船手にいじめられる。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
其様そんな時に受持教師がそのかたわらを通り合せても、またかといわぬばかりに見ぬ風をしてさっさと行き過ぎてしまう。生徒は益々図にのって、彼をばいじめるのである。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その年ごろになるまでの間に、娘が継母にいじめられ通したことは、今さらくだくだしく申しますまい。
「またお前、おっ母あにいじめられたんだな。お前えばかだい、ちえッ、学校休むやつがあるけえ——」
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
それ故彼は、動物を始め植物に至るまで、すべて生物をいじめたり殺したりすることを非常にしかった。
婆「われのような可愛い子があっても子に構わず後妻のちぞいを持ちてえて、おすみの三回忌も経たねえうち、女房を持ったあから、汝よりは女郎じょうろの方が可愛いわ……いじめるか」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
の田舎老爺おやじもこの事を知らなかったため横暴なる赤馬車にいじめられているのであるが、いかに山の中とはいえ、かくのごとき不親切極まる営業振りは聞捨てにならぬ。
その親分をこの教場で度々いじめていた事などがあるから、その子か孫に当るような人などは何とも思っておらんので、チャンと準備をして出て来るほどうまく行かなかった。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
よしよし日ごろやっつけられる腹癒はらいせに今日こそいじめてやれと、私は意地のわるい考えをした。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何でもその言葉によると、彼等はその男を憎むあまり、彼の飼っている牛馬をもきずつけたりいじめたりするらしかった。彼はそう云う不平を鳴す間も、時々相手をにらみつけて
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
児供にいじめ殺された乎、犬殺しの手に掛ったか、どの道モウいないものと断念あきらめにゃならない
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
僕も悪かったけれど、そんなにいじめなくたっていいじゃありませんか。成るほど僕はちょっと不実なことをした。あなたがおこるのも無理がない。だから僕は散々謝罪あやまったでしょう。
ふみたば (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
その時、ちょうど夫婦喧嘩げんかをして妻に敗けた夫が、理由もなく子供をしかったりいじめたりするような一種の快感を、私は勝手気儘かってきままに短歌という一つの詩形を虐使することに発見した。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
ジョージ・クレイをいじめた曲馬団に仇討ちをする仕事を手伝って下さい。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
角兵衛獅子で何年となくいじめ抜かれた上、年頃になって、光り輝くように美しくなると、自分の娘分にして、玉屋へ年いっぱいに売り飛ばされ、その上、佐吉夫婦が、しぼって、絞って、絞り抜いて
そして、掌の中の小鳥をいじめるような一種残忍な興味で尋ねてみた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
成吉思汗ジンギスカン (快活に)やあ、札木合ジャムカ。長い間いじめてすまなかったな、ははははは。おれは君に、どうしても告白しなければならないことがあって、途中から単騎、馬を飛ばして引き返して来たのだ。
こんなに主人から無体にいじめられてはとても生きてはいられないから、いっそ主人を殺してしまって、お前さんのところへ駈け込んで行くというようなことを書いて、自分の小指を切った血を染めて
半七捕物帳:36 冬の金魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お金持ちから高くとって貧乏な気の毒な人をいじめないのです。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
「ふふん」と、吉里は笑ッて、「もういじめるのはたくさん」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
私をおいじめなさるのだった。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「いくらあるじだからというて、働きもせず、お酒ばかり飲んで。——帰ってくれば、母さんばかりいじめ、わたし、腹が立つ……」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浮世のあかをなめております。……ねんねえのあなたのお許婚などを、いじめておさえつけて追い出すことぐらいは朝飯前の仕事でございます。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「しかし、僕は中国の人々が日本のブルジョアジーを攻撃するのは、結果に於て日本のプロレタリアをいじめているのと同様だと思うんですよ。」
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「さうかてお前、いじめられること分つてゝあんなとこへやれるかいな。そんな無慈悲なこと云ふもんやないで。」
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
車夫に手籠てごめにさせようなんて飛んでもないことを遊ばす処では連れて帰ってまたいじめようという御思慮おかんがえとしか思われません。それは貴女虫が過ぎると申すんです。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思いっきりいじめてやりたいとか、薄情なめにあって泣かされてみたいとか、それそれ気性によって違うだろうが、いずれにせよ彼を見ているとなにかかまってみたくなる
寒橋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
仮にも兄弟でそんなことは出来ませんと衝放つッぱねましたら、私を憎み出し、母親と二人していじめますゆえ、四五年前から駈出してしまおうかと思いましたが、参る所もないので
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
引き寄せてはみたが、長い間学校にいじめつづけられてきたこの子供は、教師の顔色をいっそう覗きこみながら、身体は扉口に進め、首だけはうしろに向いて動かないのであった。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
渠が忠一をいじめることが嚴しければ嚴しい程、他の生徒は渠を偉い教師の樣に思つた。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
七歳の時に町の小学校に入ったが何時いつも友達からいじめられて学校から帰りには泣かされて来る。彼は決して学校で自分から喧嘩をしかけたことはない。また其様そんな勇気のある子供でない。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
昌允 年下のものをいじめるのはお止しなさい。意地の悪い……。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
「そんなに何もわたくしいじめなくっても……」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何も、そう自分の恋を、自分でいじめつけるには当らない。修行は修行でいそしみ、道徳は道徳として当り、恋は恋……。父にだって……ある。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
、とっちめてやろうとこう思っているのさ。……お退き! 宗さんが、あそこでいじめられているんだから! 早速行って助けなければならない
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そうかてお前、いじめられること分っててあんなとこへやれるかいな。そんな無慈悲なこと云うもんやないで。」
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その出て行くときの彼女の礼節を無視した様子には、たしかに、長らく彼女をいじめた病人と病院とに復讎ふくしゅうしたかのような快感が、悠々ゆうゆうと彼女の肩に現われていた。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)