芥子からし)” の例文
それからパンの方へバターを塗りその上へ溶いた芥子からしを塗ってパンの間へ牛肉のロースか鳥のロースを挟んで小さく切っても出来ますが
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
だがほかのやつらはなっちゃねえ、芥子からしのきいてそうなやつは一人もいやしねえ。悠二郎は張合のないような気持で、幾たびもふんと鼻を鳴らした。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
勝重の妻はまた、まだ娘のような手つきで、茄子なす芥子からしあえなぞをそのあとから運んで来る。胡瓜きゅうりの新漬けも出る。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
けた粘土があり、流れる泉があり、堅い岩があり、専門の科学で俗に芥子からしと言われる柔らかい深い泥土でいどがある。
窒息性のホスゲンは堆肥くさく、催涙性のクロル・ピクリンはツーンと胡椒こしょうくさく、糜爛性のイペリットは芥子からしくさいから、瓦斯のあるなしはすぐわかるのだ。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これが私の青白い小さな妖女フエアリイだらうか? これが私の芥子からし種子たねだらうか? 頬にゑくぼのある、薔薇色の唇をした、襦子のやうなつや/\した淡褐色たんかつしよくの髮と
それから、御介抱申す時、お足に湯たんぽをあてて差上げお胸に芥子からしをはって差上げたことをお話しますと、旦那様は一層恐ろしい眼付で私を御覧になりました。
碑文:――近代伝説―― (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
芥子からし壺に関して中傷されたことはあるが、しかしそれは鍍金めっきの品に過ぎないことがわかった。自分はさっきの証人を七八年来知っている。それは単に暗合に過ぎない。
彼女は食事中にやれ芥子からしの壺を取って呉れの、水が飲みたいのと新吉に平気で世話を焼かせ、あとはまた新吉を越してベッシェール夫人と話し続けて行く。新吉は苦笑した。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
老姉はかってその身に芥子からしと胡麻の油を塗って死骸に似せ(シェッフネルの『西蔵諸譚』にこうある。唐訳には大黄を塗って死人の色のごとくすと出づ)、林中へき往かしむ。
裏縁に引いた山清水に……西瓜すいかおごりだ、和尚さん、小僧には内証ないしょらしく冷して置いた、紫陽花あじさいの影の映る、青い心太ところてんをつるつる突出して、芥子からしを利かして、冷い涙を流しながら
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頭を床の間の方へ向けて、左の頬と芥子からしを貼った襟元えりもとが少し見えるところも朝と同じであった。呼息いきよりほかに現実世界と交通のないように思われる深いねむりも朝見た通りであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
茯苓ぶくりょう肉桂にっけい枳穀きこく山査子さんざし呉茱萸ごしゅゆ川芎せんきゅう知母ちぼ人参にんじん茴香ういきょう天門冬てんもんとう芥子からし、イモント、フナハラ、ジキタリス——幾百千種とも数知れぬ薬草の繁る中を、八幡やわた知らずにさ迷い歩いた末
食卓掛てーぶるかけの白き布は下女によりて掛けられたり、硝子がらすのバターいれ塩壺しおつぼソース芥子からしうつわなんど体裁好ていさいよく卓上に配置せられたり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
茯苓ふくりやう肉桂にくけい枳殼きこく山査子さんざし呉茱萸ごしゆゆ川芎せんきう知母ちぼ人蔘にんじん茴香ういきやう天門冬てんもんとう芥子からし、イモント、フナハラ、ジキタリス——幾百千種とも數知れぬ藥草の繁る中を、八幡知らずにさ迷ひ歩いた末
醫者いしや芥子からし局部きよくぶことと、あし濕布しつぷあたゝめることと、それからあたまこほりひやこととを、應急おうきふ手段しゆだんとして宗助そうすけ注意ちゆういした。さうして自分じぶん芥子からしいて、御米およねかたからくびけてれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこここの百目蝋燭ひゃくめろうそくかげには、記念の食事に招かれて来た村の人たちが並んで膳についている。寿平次はそれを見渡しながら、はし休めの茄子なす芥子からしあえも精進料理らしいのをセカセカと食った。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今差上げた料理の中に甘いと鹹いのは勿論、胡椒こしょう芥子からしの辛いのがあり、梅干や蜜柑の酸いのがあり、百合や蜜柑の皮の苦いのがあって五味になる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
医者は芥子からしを局部へる事と、足を湿布しっぷで温める事と、それから頭を氷で冷す事とを、応急手段として宗助に注意した。そうして自分で芥子をいて、御米の肩からくびの根へ貼りつけてくれた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山葵と鮪は合い物だ。ちょうど西洋料理で牛肉に芥子からしが合い物になっている通りだ。その山葵と鮪と合った味で胃を刺撃するから食慾が非常に進む。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
枕元まくらもと朱塗しゆぬりぼん散藥さんやくふくろ洋杯こつぷつてゐて、その洋杯こつぷみづ半分はんぶんのこつてゐるところあさおなじであつた。あたまとこはうけて、ひだりほゝ芥子からしつた襟元えりもとすこえるところあさおなじであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
イザ食べようという時小口こぐちからく薄く切って芥子からしを添えるのだ。一つ試してみ給え、一番軽便けいべんの豚料理だ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
だから咳が出ると生姜しょうがと水飴を混ぜて飲むではないか、芥子からしの辛いのは人を逆上させて秘結せしめるが大根卸だいこんおろしの辛いのは下剤になって逆上を引下げる。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
丁子ちょうじや胡椒や芥子からしは大概日本製の詰換です。舶来の壜へ詰め換えた品を食品屋から一壜二十銭で買う位なら薬種屋やくしゅやへ行って同じ分量を一袋で買うと六銭でくれます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それと反対に椎茸酒といって椎茸を酒へ入れてかんしたり初茸や松茸を食べながらお酒を飲むと双方とも同じ性質だから酔いが激しゅうございます。唐辛子とうがらし芥子からしでお酒を飲んでもその通り。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
これへ野菜を附合せにして芥子からしソースをかけるとなお美味しくなります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)