芥子粒けしつぶ)” の例文
一たん気がついて自然の中に立っておる自分をかえりみれば芥子粒けしつぶの何億兆分の一よりも小にして更に小なる存在であることに気づくであろう。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
いや、心の隅にも失くなってしまう。この体、この心の、どこをさがしたって、お通さんの存在などは芥子粒けしつぶほどでもなくなってしまうのだ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伝馬は巻き込まれるように見えた。が、すぐにヒョコリと現われた。芥子粒けしつぶのような伝馬は、だんだん大きくなって来た。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
このひろでも目の及ぶ限り芥子粒けしつぶほどのおおきさの売薬の姿も見ないで、時々焼けるような空を小さな虫が飛び歩行あるいた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それに金米糖の心核となるべき芥子粒けしつぶを入れて杓子しゃくし攪拌かくはんし、しゃくい上げしゃくい上げしていると自然にああいう形にできあがるのだそうである。
備忘録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
だが、こゝでは、こんな、とてつもない、大きな連中に会っては、この私はまるで芥子粒けしつぶみたいなものです。
そこへ仲好しのダンサーが、芥子粒けしつぶのように小さい丸薬を掌に載せ、片手にコップを持って来て
青い風呂敷包 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
七十五里を一目に見る遠目金とおめがね芥子粒けしつぶを卵のごとくに見る近目金、猛虎の皮五十枚、五町四方見当なき鉄砲、伽羅きゃらきん、八畳釣りの蚊帳かや、四十二粒の紫金しこんいたコンタツ。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
自分が雄々しくなろうとする決心、それが無駄でないという信念も、結局は最後に来るその芥子粒けしつぶほどの望みによって、全体命づけられることを、伸子はいなめなかった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
すると、長方形の板の下の小さい眼は、芥子粒けしつぶより小さい二粒の涙をたたえているのが見える。
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
たった一つ、芥子粒けしつぶほどのプライドがある。それは、私が馬鹿であるということである。全く無益な、路傍の苦労ばかり、それも自ら求めて十年間、転輾てんてんして来たということである。
困惑の弁 (新字新仮名) / 太宰治(著)
左官は自分の芥子粒けしつぶみたいな肝ッ玉に較べて、そう考え悩まずにはいられなかった。
放浪の宿 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
芥子粒けしつぶの信仰でも持っておれば、山に向かって海へはいれと言えば、山はその最初の命令とともに、猶予なく海へはいって行くってね、どうですかねグリゴリイ・ワシーリエヴィッチ
半ば臀部は溶けかかりながら、苦心惨憺さんたんの末、ついに耳の中から金箍棒きんそうぼうを取出して鋼鑚きりに変え、金竜の角の上にあな穿うがち、身を芥子粒けしつぶに変じてそのあなひそみ、金竜に角を引抜かせたのである。
足下きみ昨夜ゆうべはマブひめ(夢妖精)とおやったな! 彼奴あいつ妄想もうざうまする産婆さんばぢゃ、町年寄まちどしより指輪ゆびわひか瑪瑙玉めなうだまよりもちひさい姿すがたで、芥子粒けしつぶの一ぐんくるまひかせて、ねぶってゐる人間にんげん鼻柱はなばしら横切よこぎりをる。
大体法水にしろ、鐘の鳴った原因を犯人の行動の一部に結びつければ、この事件には芥子粒けしつぶ程の怪奇もないと信じていた矢先に、イリヤの一言はたちどころに推理の論理的な進行を破壊してしまった。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
うるさいナ、念には及ばんよ。君達のやうなヒヨロヒヨロした、たかはらわたの無い江戸ツ子を理想とするやうなんな芥子粒けしつぶのやうな根性の無気力漢いくぢなしと俺の美くしい御発明ごはつめいな男勝りの嬢様とは提灯に釣鐘だ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
芥子粒けしつぶを林檎のごとく見すといふ欺罔けれんうつは
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
エントヌム ネ 芥子粒けしつぶのように小さくて
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
芥子粒けしつぶのやうに小さくなつて
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
早瀬はその水薬すいやく残余のこり火影ほかげに透かして、透明な液体の中に、芥子粒けしつぶほどの泡の、風のごとくめぐるさまに、莞爾にっこりして
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たとえばまた自分の専攻のテーマに関する瑣末さまつな発見が学界を震駭しんがいさせる大業績に思われたりする。しかし、人が見ればこれらの「須弥山しゅみせん」は一粒の芥子粒けしつぶ隠蔽いんぺいされる。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
打ち囲んで案じる人々の顔は、医師の一挙一動、また芥子粒けしつぶほどな銀丹ぎんたん(神薬)をその歯の間にふくませて、うまくのどへ落ちるかどうか。それさえ固唾かたずを呑む思いで、時たつのも忘れていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひろでもおよかぎり芥子粒けしつぶほどのおほきさの売薬ばいやく姿すがたないで、時々とき/″\けるやうなそらちひさなむし飛歩行とびあるいた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
御自分に御精魂な、須弥磐石しゅみばんじゃくのたとえに申す、芥子粒けしつぶほどな黒い字を、爪紅つまべにの先にお拾い下され、その清らかな目にお読みなさって……その……解りました時の嬉しさ。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時分には、もう芥子粒けしつぶだけもないのです、お綾さんの爪にもたまらず、消滅する。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さて難儀なんぎだ、弱り切るぜ。ほんにさ、猫の額ほどな処で二十六けんと尋ねたが分らねえ。あたかも芥子粒けしつぶ選分えりわけるような仕事だ。そうしてまた意地悪く幾たびでもこの総後架そうごうかに行当たるには恐れる。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)