こぼ)” の例文
旧字:
と利かない手をやっと突いてガックリ起上り、兄三藏の膝の上へ手を載せて兄の顔を見る眼にたまる涙の雨はら/\と膝にこぼれるのを
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
江戸褄模様にこぼれ梅、紅白の上絵彩色銀糸にて松葉を散らしに縫わせ……英泉の筆意を頼み、下着は縮緬鼠のさや形
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
こぼしたりさて干支えとのよくそろひ生れとて今まで人にしめさざりしが證據しようこといふ品見すべしと婆はかたへのふる葛籠つゞら彼二品かのふたしなを取出せば寶澤は手に取上とりあげまづ短刀たんたう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
古賀はこの話をしながら、憤慨して涙をこぼした。僕は歩きながらこの話を聞いて、「なる程非道い」と云った。そうは云ったが、頭の中では憤慨はしない。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
手が震ふので、注いである「外国通信」がこぼれた。頭が変になつてゐる。生れてから演説といふものをしたことがないので、なんと云つて好いか分からない。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
涙をこぼすまいと思つて我慢してゐるのに、その涙が頬の上を伝はつて流れた。一旦癒えてゐた昔の創が一つ一つ口を開くのが分かつた。左の足が痛んで来た。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
其の手を開かして見ると、有難い、昨夜余がこぼした燐燧を拾い集めた者で其の数が七本ある。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
タウボシ一名「大唐米だいとうまい」などという稲は、多産強健なれども原種に近いためか、とくに実のこぼれやすい性質をもっていて、鎌入かまいれにも不便があり、穂のままで貯蔵をした時代ならば
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
足溜あしだまりなくける機会はづみに手の物を取落して、一枚はづれし溝板のひまよりざらざらとこぼれ入れば、下は行水ゆくみづきたなき溝泥どぶどろなり、幾度いくたびのぞいては見たれどこれをば何として拾はれませう
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
涙がこぼれて、もうあとは書けない。さらばよ。我がロシア。
(新字新仮名) / オシップ・ディモフ(著)
手が傾いて酒がこぼれますのを、島路が振袖の袂で受けて、畳へ一滴もこぼしません、殿様はこれに心付かれて、残りの酒を一口に飲みほして、盃を奥方へさゝれましたから
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
北がはの襖を開けて、女中が二三人ばら/\と出て、こぼれた豆を拾ふ。お婆あさんの態度は極めて活々としてゐて気味が好い。僕は問はずして新喜楽のお上なることを暁つた。
追儺 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
お取にてととはれて老人一滴ひとしづくホロリとなみだこぼしながら初てあつた此方衆に話すもいと面伏おもぶせながら不※ふとした事から此樣に吾儕わしの家にて酒食しゆしよくするも何かの縁と思ふ故我身わがみはぢを包もせで話すを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
足溜あしだまりなくける機會はづみもの取落とりおとして、一まいはづれし溝板どぶいたのひまよりざら/\とこぼれば、した行水ゆくみづきたなき溝泥どぶどろなり、幾度いくたびのぞいてはたれどれをばなんとしてひろはれませう
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
朝日の灰のこぼれるのを、机の向うへ吹き落しながら読む。顔はやはり晴々としている。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
はアただ胸がつかえて飯が喰えねえって幾ら勧めても喰えねえ/\と云う、疲れるといかねえからちっと食ったらかんべえと勧めるが、涙アこぼしておら此様こんな顔に成ったから駄目だ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
我家へ連行つれゆきつ何で喧嘩けんくわをなされたと問ばお光は面はゆに物あらそひせしわけならず二個ふたり泪をこぼしてゐたるは斯樣々々の次第なりと婚姻破談はだんに成し事をつゝまず告ればお金は驚きあれ程までに手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
動くたんびに何処からか鋸屑のこぎりくずこぼれるという始末でございますから、お島は長二をい男とは思いませんが、かねて父助七から長二の行いのひとかわっていることを聞いて居ります上に
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
予は人の葬を送って墓穴に臨んだ時、遺族の少年男女の優しい手が、きよ赭土あかつちをぼろぼろと穴の中にこぼすのを見て、地下の客がいかにもやわらかな暖な感を作すであろうと思ったことがある。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
番人は鑑札を検してから、はじめ慇懃いんぎんことばを使うのである。人が雲表うんぴょうそびゆる岩木山いわきやまゆびさして、あれが津軽富士で、あのふもとが弘前の城下だと教えた時、五百らは覚えず涙をこぼして喜んだそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と涙をこぼしてなだめまする信実に、兼松も感じて鼻をすゝりながら
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
先刻さっき逢ったら、矢張やっぱり平常ふだん着て居る小紋の寝衣ねまきを着て、涙をボロ/\こぼして、私が悪いのだから元の様に綺麗さっぱりとあかの他人になって交際つきあいます、又月々幾ら送りますから姉だと思ってくれと
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
直ぐにきいきいと轆轤ろくろきしる音、ざっざっと水をこぼす音がする。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)