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纏綿
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てんめん
ふりがな文庫
“
纏綿
(
てんめん
)” の例文
純粋なる専門画家として、
己
(
おの
)
れさえ、
纏綿
(
てんめん
)
たる利害の
累索
(
るいさく
)
を絶って、
優
(
ゆう
)
に
画布裏
(
がふり
)
に往来している。いわんや山をや水をや他人をや。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
人間並をはるかに越して濃厚に
纏綿
(
てんめん
)
しているところの高慢と狂気と不思議な悲哀との雲がここにも絡みついているからであった。
作男・ゴーの名誉
(新字新仮名)
/
ギルバート・キース・チェスタートン
(著)
それは、道徳家としての彼と芸術家としての彼との間に、いつも
纏綿
(
てんめん
)
する疑問である。彼は昔から「
先王
(
せんおう
)
の道」を疑わなかった。
戯作三昧
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
また——自分を捨てて他国にいる無情な男に、かくも、裏切られた
処女
(
おとめ
)
ごころは痛み傷ついていることを、
纏綿
(
てんめん
)
と恨んでいるようである。
宮本武蔵:02 地の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
知力が多くの異常な新奇なものに
纏綿
(
てんめん
)
されてもがきつつある間に、習慣と本能とによって貨幣の上にただ茫然と足を置かした獣性であった。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
▼ もっと見る
そうして音楽の場合の一つ一つの音に相応するものがいろいろの物象や感覚の心像、またそれに付帯し
纏綿
(
てんめん
)
する情緒である。
連句雑俎
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
こう書くと情緒
纏綿
(
てんめん
)
のようであるが、遊びのひとつもしているくせに愛人の前ではいつも固くなりすぎて機会があったのにプラトニックに終始
わが寄席青春録
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
こうした情緒
纏綿
(
てんめん
)
たる手紙が春一に数通送られています。二人で会った時も恐らくこういう態度をとっていたのでしょう。
死者の権利
(新字新仮名)
/
浜尾四郎
(著)
性霊を写すと言う処まで進んだ「アララギ」の写生説も、此短歌の本質的な主観
纏綿
(
てんめん
)
の事情に基くところが多いのである。
歌の円寂する時
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
しかし、詩は田園の遊戯や祭日の宴楽から多くの主題を得たのだが、今でもそれをなつかしみ、
纏綿
(
てんめん
)
としてはなれない。
クリスマス
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
それはレナーの甘美な
纏綿
(
てんめん
)
性とドゥレーパーのクラリネットの思いのほかなるうまさによるもので、ベニー・グッドマンには、上手とは言っても
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
書きぶりも自分のによく似た上、運ぶこころも自分へ向けてゐるものばかりであつた。あの虫のやうな女に、こんな
纏綿
(
てんめん
)
たる気持が
蟠
(
わだかま
)
つてゐたのか。
上田秋成の晩年
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
彼女と私の間にはどんな
情緒
(
じょうちょ
)
纏綿
(
てんめん
)
とした場面もなかったのである。あるとき彼女はこんなことを云ったことがある。
朴歯の下駄
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
地方にいる遊行女婦が、こうして官人を
持成
(
もてな
)
し優遇し、別れるにのぞんでは
纏綿
(
てんめん
)
たる情味を与えたものであろう。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
その上に一家の事情が
纏綿
(
てんめん
)
して、三方四方が塞がったから仕方がなしに文学に
趨
(
はし
)
ったので、
初一念
(
しょいちねん
)
の国士の大望は決して衰えたのでも鈍ったのでもなかった。
二葉亭追録
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
が要するに骸骨だった。音色のよい言葉、響きのよい文句、空虚の中でぶつかり合う諸観念の金属性な
軋
(
きし
)
り、機知と戯れ、肉感の
纏綿
(
てんめん
)
してる頭脳、理屈っぽい感覚。
ジャン・クリストフ:07 第五巻 広場の市
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
と云うのは、四百年の昔から
纏綿
(
てんめん
)
としていて、
臼杵耶蘇会神学林
(
うすきジェスイットセミナリオ
)
以来の神聖家族と云われる
降矢木
(
ふりやぎ
)
の館に、突如真黒い風みたいな毒殺者の
彷徨
(
ほうこう
)
が始まったからであった。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
それでも、おしかさんは、みんなが別格にあしらっていたほど、近衛さんの思いものだったから、丁汝昌は
清国
(
くに
)
へかえってからも、
纏綿
(
てんめん
)
の情を
認
(
したた
)
めてよこしたといった。
モルガンお雪
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
貫一は抑へて怪まざらんと
為
(
せ
)
ば、理に於て怪まずしてあるべきを信ずるものから、又幻視せるが如きその大いなる影の
冥想
(
めいそう
)
の間に
纏綿
(
てんめん
)
して、
或
(
あるひ
)
は理外に在る者有る無からんや
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
多くは甚内自作の歌詞で、情緒
纏綿
(
てんめん
)
率直であるのが、江戸の人気に投じたのであった。
名人地獄
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
春風馬堤曲に溢れたる詩思の
富贍
(
ふせん
)
にして情緒の
纏綿
(
てんめん
)
せるを見るに、十七字中に屈すべき文学者にはあらざりしなり。彼はその余勢をもって絵事を試みしかども大成するに至らざりき。
俳人蕪村
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
白は
纏綿
(
てんめん
)
として後になり先きになり、果ては主人の足下に駆けて来て、一方の眼に牝犬を見、一方の眼に主人を見上げ、引きとめて呉れ、
媒妁
(
なかだち
)
して下さいと云い
貌
(
がお
)
にクンクン鳴いたが
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
かつて、愛し且つ
虐
(
しいた
)
げた美貌の女中お君という女が恋しくなる。お銀様は多分、お君の
最期
(
さいご
)
をまだ知ってはいまい。あの子はどうしたろう——という半面には、
嫉
(
ねた
)
みと、憐みとが
纏綿
(
てんめん
)
する。
大菩薩峠:29 年魚市の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
帰ろうにも帰られなくなるという、情緒
纏綿
(
てんめん
)
とした、その一章を思出す。
雪の日
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
いずれも情歌の作品には情緒
纏綿
(
てんめん
)
という連中だったが、茶屋酒どころか、いかがわしい場所へ足を入れるものは
殆
(
ほとん
)
ど
尠
(
すく
)
なかった。この点、庵主金升もその主義だった。正に
稀
(
めず
)
らしい
寄合
(
よりあい
)
といえる。
「明治のおもかげ」序にかえて
(新字新仮名)
/
喜多村緑郎
(著)
神経の鋭敏と官能のデリカシイとに鼻
蠢
(
うごめ
)
かす歯の浮くような文芸家はいるが、人生に対する透徹なる批判と、
纏綿
(
てんめん
)
たる執着と、
真摯
(
しんし
)
なる態度とを持して真剣に人生の愛着者たらんと欲する人は無い。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
気品の高い素晴らしい美貌と情事
纏綿
(
てんめん
)
たる楽壇においては珍しく操守の堅いその方正な品行とが、かなりにその頃の新聞雑誌を賑わしていたものであったが、どういう家庭的の事情があったものか
逗子物語
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
それは、道徳家としての彼と芸術家としての彼との間に、何時も
纏綿
(
てんめん
)
する疑問である。彼は昔から「
先王
(
せんわう
)
の道」を疑はなかつた。
戯作三昧
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
実際を云うと親爺の
所謂
(
いわゆる
)
薫育は、この父子の間に
纏綿
(
てんめん
)
する暖かい情味を次第に冷却せしめただけである。少なくとも代助はそう思っている。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
話したい事、聞きたい事が、山ほどあって、何から、
纏綿
(
てんめん
)
の旧情を解くべきか、どっちも、思いに
急
(
せ
)
かれている姿だった。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ブラームスのクラリネットの五重奏曲と共に、この楽器のために作られた傑作で、その
纏綿
(
てんめん
)
たる美しさは比類もない。レコードは三通り入っている。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
また他の家から来た屑と混合して製紙場の
槽
(
ふね
)
から流れ出すまでの径路に、どれほどの複雑な世相が
纏綿
(
てんめん
)
していたか
浅草紙
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
欧化気分がマダ残っていたとはいえ、沼南がこの極彩色の夫人と衆人環視の中でさえも
綢繆
(
ちゅうびゅう
)
纏綿
(
てんめん
)
するのを苦笑して
窃
(
ひそ
)
かに沼南の名誉のため
危
(
あやぶ
)
むものもあった。
三十年前の島田沼南
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
彼は
其処
(
そこ
)
で、いくらかの性慾の好奇心を満足させたばかりで、気持ちに何の
纏綿
(
てんめん
)
をも持てなかつた。
老主の一時期
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
「旅ゆく」はいよいよ京へお帰りになることで、名残を惜しむのである。情緒が
纏綿
(
てんめん
)
としているのは、必ずしも職業的にのみこの
媚態
(
びたい
)
を示すのではなかったであろう。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
彼の心に
纏綿
(
てんめん
)
してくる考えは、ちょうど生活の困苦のためにそらされた。ジャン・ミシェル一人で引止めていた一家の零落は、彼がいなくなるとすぐにさし迫ってきた。
ジャン・クリストフ:04 第二巻 朝
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
古典なるが故に、稍変造せねば、新時代の生活はとり容れ難く、宿命的に
纏綿
(
てんめん
)
している抒情の匂いの為に、叙事詩となることが出来ない。これでは短歌の寿命も知れて居る。
歌の円寂する時
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
「春風馬堤曲」に
溢
(
あふ
)
れたる詩思の
富贍
(
ふせん
)
にして情緒の
纏綿
(
てんめん
)
せるを見るに、十七字中に屈すべき文学者にはあらざりしなり。彼はその余勢を以て
絵事
(
かいじ
)
を試みしかども大成するに至らざりき。
俳人蕪村
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
彼女に
凄
(
すご
)
さを求めるのは無理であろうが、
紅筆
(
べにふで
)
をかんで、薄墨のにじみ書きに、思いあまる思案のそこをうちあけた文を繰広げてゆくような、
纏綿
(
てんめん
)
たる情緒と、乱れそめた恋心と、人生の執着と
豊竹呂昇
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
長唄の趣味は
一中
(
いっちゅう
)
清元
(
きよもと
)
などに含まれていない
江戸気質
(
えどかたぎ
)
の
他
(
た
)
の一面を現したものであろう。拍子はいくら早く手はいくら
細
(
こまか
)
くても真直で単調で、極めて執着に乏しく情緒の粘って
纏綿
(
てんめん
)
たる処が少い。
夏の町
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
「成功しないところがだろ。情緒
纏綿
(
てんめん
)
とした後日談でも欲しいところだが、事実は曲げられないからね。なんにしても昔の話さ。しかし今でもふと思い出して独り
顎
(
あご
)
を
撫
(
な
)
でたりすることがあるよ。」
メフィスト
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
現実世界に
在
(
あ
)
って、余とあの女の間に
纏綿
(
てんめん
)
した一種の関係が成り立ったとするならば、余の苦痛は恐らく
言語
(
ごんご
)
に絶するだろう。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
滑
(
なめら
)
かな
上方弁
(
かみがたべん
)
の会話が、
纏綿
(
てんめん
)
として進行する間に、かちゃかちゃ云うフォオクの音が、しきりなく耳にはいって来た。
西郷隆盛
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ハイフェッツは技巧征服的で、エルマンも昔の
艶
(
つや
)
はない。この曲はやはり、
纏綿
(
てんめん
)
たる歌に満ちた演奏で、そのくせ
歯切
(
はぎ
)
れの良いものでなければいけない。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
いや、路傍に芽ぐみ出した春の色はうららかだし、彼の姿ものどかには見えたが——彼のみが知る胸にはまた、
纏綿
(
てんめん
)
たる後ろ髪を引くものがないではなかった。
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
彼は野の静寂を求めて、そこで狂乱者のように飽くまでも自分の固定観念の
纏綿
(
てんめん
)
に身を任した。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
全体が民謡風で、万人の
唄
(
うた
)
うのにも
適
(
かな
)
っているが、はじめは誰か、女一人がこういうことを云ったものであろう、そこに切にひびくものがあり、愛情の
纏綿
(
てんめん
)
を伝えている。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
然
(
しか
)
るに
纏綿
(
てんめん
)
たる哀傷の心
切
(
せつ
)
にして
珊瑚集:仏蘭西近代抒情詩選
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
迷亭先生もう善かろうと思って下を見ると、まだ十二三本の尾が蒸籠の底を離れないで
簀垂
(
すだ
)
れの上に
纏綿
(
てんめん
)
している。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そして、
纏綿
(
てんめん
)
たる人なみの懐旧をもって過去を語られていることも、金吾には、常人の口から聞くことばよりも、惻々として胸にせまってくるような心地がする。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
纏
漢検準1級
部首:⽷
21画
綿
常用漢字
小5
部首:⽷
14画
“纏”で始まる語句
纏
纏頭
纏足
纏向
纏繞
纏縛
纏絡
纏布
纏夤
纏持