納得なっとく)” の例文
合点が行かなかったというより、納得なっとくしようと思わなかったのだ。納得出来るわけのものでなかった。しかし事態は、急迫していた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
やはり上代じょうだいからぎ出して、順次に根気よく人文発展のながれを下って来ないと、この突如たる勃興ぼっこうの真髄が納得なっとく出来ないという意味から
そして冬撰鉱せんこうへ来ていたこの村のむすめのおみちと出来てからとうとうその一本調子ちょうしで親たちを納得なっとくさせておみちをもらってしまった。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この隠し子の存在にはお梶さまも相当煩悶したよしであるが、自分の結婚前ということが、ともかく納得なっとく手蔓てづるではあったらしい。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
さよから先に納得なっとくさせてお艶を手に入れてやろうと、さっそくに考えをきめた富五郎、まるで天からぼた餅が降ってきたようなさわぎで
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お雪ちゃんの説明で一応納得なっとくしたけれども、まだ心残りはあって、鷲の子の存在はそれでいいとしても、今まで静かにしていた鷲の子をして
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かれに向かって、今夜芝居しばいするなんという考えをてなければならないことを納得なっとくさせるには、たいへんな手数のかかることがわかっていた。
庄造としては、福子が腹を立てたのは至極尤もなのであるから、イザコザなしに、あつさり彼女の希望を入れて納得なっとくしてしまへば一番よかつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
僕はもう彼が実際にいないということを自分の心に納得なっとくさせるために、上の寝台のカーテンをあけ放してみようかとさえ思ったくらいであった。
彼が組頭の爺さんが、せがれは足がわるいから消防長はつとまらぬと辞退するのを、皆が寄ってたかって無理やりに納得なっとくさす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
兄さんこそは本当に自分の心に納得なっとくできるような答をしてくれる人だと、ずーっと以前からそう思うていたのであった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
神さまの御指導によって正しい道があゆめるようにということだった。それなら何も差支ない。私は聖書を貰って、能く考えて見ることに納得なっとくした。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼もようよう納得なっとくしたらしく、内に引っ返して一方の武士と何かしばらくささやき合っていたが、結局思い切ってその事情を打ち明けることになった。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いや、そんなつもりでもないが、しかし処置は早いに越したことはなかろう。和解の実を衆に納得なっとくさせる上にも」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
E子はそう言ってやっと納得なっとくして、それでもまだ安心がならないのか、小犬をやった近所の子供の家をはっきり聞いて置かなかったのを残念がっている。
愉快な教室 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
大井はやっと納得なっとくした。が、卓子テエブルを離れるとなると、彼は口が達者なのとは反対に、すこぶる足元が蹣跚まんさんとしていた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
地についたものにするだろうと思います。そうなると、こちらの生活のほんとうの意味が、先方の人たちにもいくらか納得なっとくしてもらえるかもしれません。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
現在の鼠浄土譚には、わざと道行きを省略して、ただじいさんが訪ねて行ったらと、いうふうに語っているのもあるが、それでは小さなにも納得なっとくができない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
実験証明ほど、たしかなものはありませんわ。そしてあたくしは、何人をも納得なっとくさせます。あたくしの論文は、そのときになって、だんぜん光を放つでしょう。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
柿江はとにかく戸沢が疑わしげながら納得なっとくするのを見ると、自分の今まで能弁に話して聞かせていたまったくの作り話がいよいよ本当の出来事のように思えだした。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それにしても、見栄みばえのしない陶物すえものの壺を買うのに、どうして千貫もの銀が要るのか、納得なっとくできない。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ですから、これを葛岡に知らせるにしても、よくこの中身のところを説明してやりさえしたなら、どうにかこうにか葛岡を納得なっとくさすだけの自信はわたくしにあります。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
農民は、自分の手にあうことや、多少ゆとりのある良心にてらして納得なっとくの行くことは實行した。
それでいて、また、子路ほど全身的に孔子にり掛かっている者もないのである。どしどし問返すのは、心から納得なっとく出来ないものを表面うわべだけうべなうことの出来ぬ性分だからだ。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
いくら口を酸っぱくして述べ立てても納得なっとくせず、あんまりではないかなばかりを繰り返す奥さんにしまいには根気まけして、近頃では赤瀬の家にも滅多に寄りつかなくなった。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
子供たちはすぐ大きくなり、それぞれ自分の生活を築くだろうと野村もいいミネもそれをいって閑子に納得なっとくさせたのである。みんなしてあまりにも事態を甘く見すぎたと思うほかない。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
この始君の説明で、おかあさまも、やっと納得なっとくなさいましたので、始君はさっそく明智事務所へ電話をかけて、あらかじめ打ちあわせておいた暗号で、小林少年にこのことを伝えました。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
したがって、当時印度における一番の果報者であると自ら公言している際、しかも私のようにキッティを愛している場合、あまり多く口がきけなかったということは、諸君にも納得なっとくできるであろう。
達は真赤になって、母親に話した通り父の納得なっとくの行くまで弁解した。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
はじめはそれで納得なっとくして黙った。しかしすぐ第二の質問をかけた。前よりは一層奇抜なその質問は立派に三段論法の形式を具えていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
庄造としては、福子が腹を立てたのは至極もっともなのであるから、イザコザなしに、あつさり彼女の希望を入れて納得なっとくしてしまへば一番よかつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
政どんなるものが、一桁ちがいの親方の裏書をいいことにして、自説の誤りなきことを指で保証すると、お角も納得なっとくして
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
五郎は答えたが、納得なっとくしたわけではない。納得したいとも思わない。納得したいという気持は、ずいぶん前から、彼の心の中で死んでいる。五郎は言った。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
しかし、ともかくも血書が県庁に差出されるようになったということで、一応納得なっとくするよりほかなかった。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
三つも投げて、両手をひらいて見せると、彼は納得なっとくして、三個ながら口にくわえて、芝生に行ってゆる/\食うのが癖であった。彼は浮浪の癖が中々けなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
二人が顔を突きあわせれば、いつもこの同じような問題を中心にして、男はあてになりそうもないことを言い、女も的にならないことを知りながら渋々納得なっとくしている。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ともっともな事を親切に言ってくれたので、燕もとうとう納得なっとくして残りおしさはやまやまですけれども見かえり見かえり南を向いて心細いひとり旅をする事になりました。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
敬二少年は、それからいろいろと説明をして、やっと三ちゃんに納得なっとくしてもらうことができた。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いかに行く先々で愚弄ぐろうされわらわれようと、とにかく一応、この河の底にむあらゆる賢人けんじん、あらゆる医者、あらゆる占星師せんせいしに親しく会って、自分に納得なっとくのいくまで、教えをおう
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
と僕は不服だったけれど、豊子さんをくれないと言われては困るから、納得なっとくして置いた。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
当然爆発すべき無形の地、すなわち混沌たる政界の荒野に投げられなければならないということを、われわれに納得なっとくさせようとしていたが、そんな論説はもう私たちにはどうでもよかった。
それは今すずめあぶって食ったゆえなるべしと言えば、ヤマハハも納得なっとくしてそんなら少しん、石のからうどの中にしようか、木のからうどの中がよいか、石はつめたし木のからうどの中にと言いて
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「それはたぶん、女神が季節の変り目で、夏の化粧をされてるからだろう。でなければかわやに上られてはこされているからだろう」女神の化粧は自分で納得なっとくゆくまで何遍でも仕代えさせられるので永い。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
みな、自得じとく研鑽けんさんから通力つうりきした人間技にんげんわざであることが納得なっとくできた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お静さん、納得なっとくが行きましたか
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
時々に落ちないところが出てくると、私は女に向って短かい質問をかけた。女は単簡たんかんにまた私の納得なっとくできるように答をした。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつもの客ならば、それで納得なっとくして帰るはずなのですが、これは剣術のために来たのではない——と言う以上には、何か別用があるに相違ない。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
心づいて有り合わせた団扇うちわを取り背中の方からあおいでやるとそれで納得なっとくしたようであったが少しでもあおぎ方が気が抜けるとすぐ「暑い」をかえした。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かれは、ばかに声に力を入れてそう言ったが、それはほんとうに納得なっとくしたというよりは、しいて言葉をはげまして、自分の不安をはらいのけているといった調子だった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
わたしの先生もハリソンさんをなだめて、この女は自分の親類で、決して悪いことをする者ではないと、いろいろに弁解しましたので、ハリソンさんもようよう納得なっとくしました。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)