紋所もんどころ)” の例文
当時の丹絵漆絵紅絵を蒐集しゅうしゅうしこれら古代俳優の舞台姿をば衣裳いしょう紋所もんどころによりて考証穿鑿せんさくするはわれ好事家こうずかに取りて今なほ無上の娯楽たり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こえぬと見えせいたか面體めんてい柔和にうわにて眉毛まゆげ鼻筋はなすぢ通りて齒並はならそろいやみなき天晴の美男にして婦人ふじんすく風俗ふうぞくなり衣類は黒七子くろなゝこの小袖にたちばな紋所もんどころつけ同じ羽折はをり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
奇態なことにその提灯の紋所もんどころが、大名屋敷や武家屋敷なぞに見られる紋とはあまりにも縁の遠い、丸に丁と言う文字を染めぬいた、ひどくなまめかしい紋でした。
もしくは熊谷家の紋所もんどころなどを聯想れんそうさせて感じが好く、なかばはこれが人気の種となって、東京にもまたその以西にも売れて行き、頼まれもせぬのに是をその煎餅原料の名と
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
加藤清正公かとうきよまさこう朝鮮征伐ちようせんせいばつにいらしたときわたくし先祖せんぞ道案内みちあんないをしたので、そのおれい清正公きよまさこう紋所もんどころをこうして身体からだへつけてくだすつて代々だい/\まあこうして宝物ほうもつにしてゐるやうなわけですよ
修理しゅり刃傷にんじょうは、恐らく過失であろう。細川家の九曜くようの星と、板倉家の九曜の巴と衣類の紋所もんどころが似ているために、修理は、佐渡守をそうとして、誤って越中守を害したのである。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは、絵心がいるほど難しい仕事でもなく、註文主ちゅうもんぬし紋所もんどころだの、千鳥、源氏車、小桜、菖蒲あやめなど、かんたんな模様にすぎない下絵なので、どうやら彼もこの頃は、馴れていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしは茶屋と茶屋とのあいだにある煎餅屋せんべいやの前を通ると、ちょうど今日こんにちの運動場で売っているような辻占入りの八橋やつはしを籠に入れて、俳優の紋所もんどころを柿色や赤や青で染め出した紙につつんで
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夏暖簾なつのれん垂れてしずか紋所もんどころ
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
先づ文学としては役者評判記やくしゃひょうばんきまた劇場案内記げきじょうあんないき等の類にして、絵画としては鳥居とりい勝川かつかわ歌川うたがわ諸派の浮世絵、流行としては紋所もんどころ縞柄しまがら染模様そめもようの類なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
取て突退つきのけ名主手代を左右へ押分おしわけ動乎どつかすわりし男を見れば下に結城紬ゆふきつむぎの小袖二ツ上は紺紬こんつむぎに二ツ井桁ゐげた紋所もんどころつきし小袖を着五本手縞の半合羽はんかつぱ羽折はをり鮫鞘さめざやの大脇差を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
幕末の学者で栗原柳庵(信充)という人は、五人も七人も初めてのお客が訪問した時に、名札と紋所もんどころとを引き比べて「あなたが何さんですな」と言い当てたということである。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
せんのすえに青々とすんだ浪華なにわの海には、山陰さんいん山陽さんよう東山とうさんの国々から、寄進きしん巨材きょざい大石たいせきをつみこんでくる大名だいみょうの千ごくぶねが、おのおの舳先へさき紋所もんどころはたをたてならべ、満帆まんぱんに風をはらんで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼方此方かなたこなたに響く鑿金槌のみかなづちの音につれて新しい材木のやににおいが鋭く人の鼻をつく中をば、引越の荷車は幾輛いくりょうとなく三升みますたちばな銀杏いちょうの葉などの紋所もんどころをつけた葛籠つづらを運んで来る。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
制しながら來るに程なく正使せいし御目付代御使番高二千石松平縫殿頭殿先箱さきばこ赤熊しやくま二本道具徒士かち小姓こしやう馬廻り持槍は片鎌の黒羅紗長柄ながえ簑箱みのばこ對箱つゐばこ草履取引馬鞍覆くらおひは黒羅紗丸につた紋所もんどころ引續いて公用人給人其外上下七八十人萬石以上の格式かくしきなり副使ふくしは御勘定梶川庄右衞門殿槍挾箱長柄其外引揃へ行列正しく通行あるに藤八は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かつては六尺町ろくしゃくまちの横町から流派りゅうは紋所もんどころをつけた柿色の包みを抱えて出て来た稽古通いの娘の姿を今は何処いずこに求めようか。久堅町ひさかたまちから編笠あみがさかぶって出て来る鳥追とりおいの三味線を何処に聞こうか。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)