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ここう
ふりがな文庫
“
糊口
(
ここう
)” の例文
わたくしは
夙
(
はや
)
くから文学は
糊口
(
ここう
)
の道でもなければ、また栄達の道でもないと思っていた。これは『小説作法』の中にもかいて置いた。
正宗谷崎両氏の批評に答う
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
が、文壇的活動は元来本志でなく、一時の方便として余儀なくされたのだから、その日その日を
糊口
(
ここう
)
する外には何の野心もなかった。
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
自分の職業とする仏師の仕事その物にも不安であると同時に、仏師の仕事によって
糊口
(
ここう
)
して行けるか否やについても不安である。
幕末維新懐古談:35 実物写生ということのはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
当市の監獄には、大阪のそれと
異
(
こと
)
なりて、女囚中無学無識の者多く、女監取締りの如きも大概は看守の
寡婦
(
かふ
)
などが
糊口
(
ここう
)
の勤めとなせるなりき。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
また二人以上の男子を持った親は、そのうちの一人を出家にすることは珍しくなかったのだが、これも一つには
糊口
(
ここう
)
の都合からしてのことらしい。
東山時代における一縉紳の生活
(新字新仮名)
/
原勝郎
(著)
▼ もっと見る
そこには
糊口
(
ここう
)
の
途
(
みち
)
を失った琴の師匠が恥も外聞も思っていられないように、大道に出て琴をひくものすらあった。
夜明け前:04 第二部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
しばしば人に咬み付く故十分愛翫するに
勝
(
た
)
えずとは争われぬが、パーキンスが述べたごとく、飼い主の
糊口
(
ここう
)
のために舞い踊りその留守中に煮焚きの世話をし
十二支考:07 猴に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
それで
糊口
(
ここう
)
のための奔走はもちろんの事、往来に落ちたばら
銭
(
せん
)
を
探
(
さが
)
して歩くような
長閑
(
のどか
)
な気分で、電車に乗って、漫然と人事上の探検を試みる勇気もなくなって
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
春代は流れ流れて大阪に来たが、
糊口
(
ここう
)
に窮して遂に初代を捨てた。それを木崎夫妻が拾ったのである。
孤島の鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
殊
(
こと
)
に政府の
新陳
(
しんちん
)
変更
(
へんこう
)
するに当りて、前政府の士人等が自立の
資
(
し
)
を失い、
糊口
(
ここう
)
の
為
(
た
)
めに新政府に職を
奉
(
ほう
)
ずるがごときは、世界
古今
(
ここん
)
普通の
談
(
だん
)
にして
毫
(
ごう
)
も
怪
(
あや
)
しむに足らず
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
俗宗匠が附点選抜を以て
糊口
(
ここう
)
となさんとするには、感化力を下等社会に及ぼすの必要あるかも知らず。
人々に答ふ
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
それも家族の
糊口
(
ここう
)
を
凌
(
しの
)
ぐ汗多き働きである。一人の作ではなく、一家の者たちは挙げて皆この仕事に当る。
晨
(
あした
)
も
夕
(
ゆうべ
)
も、暑き折も寒き折も、忙しい仕事に日は暮れる。
民芸四十年
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
保吉はたちまち熱心にいかに売文に
糊口
(
ここう
)
することの困難であるかを
弁
(
べん
)
じ出した。弁じ出したばかりではない。彼の
生来
(
せいらい
)
の詩的情熱は見る見るまたそれを誇張し出した。
十円札
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
彼はできるだけ早く、
糊口
(
ここう
)
の道を立てなければならなかった。もう五フランしか残っていなかった。
ジャン・クリストフ:07 第五巻 広場の市
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
流れ流れて日本の領土にまで移り住んで、そしてまだまだ住みついたというでもなく、言葉も通じなければ、かろうじてしか日常の
糊口
(
ここう
)
すら凌げないという一家である。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
やむなく
山案内
(
ガイド
)
を志願いたしまして、辛くも
糊口
(
ここう
)
を支えているような次第でございます。
ノンシャラン道中記:07 アルプスの潜水夫 ――モンブラン登山の巻
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
或は奥へ請ぜられて
加持祈祷
(
かじきとう
)
をし、日々僅かな
布施
(
ふせ
)
を得て
糊口
(
ここう
)
を
凌
(
しの
)
いでいたらしかったが、どうかすると、こんな工合にたった一人で河原や橋のあたりへ来てうろついていたり
聞書抄:第二盲目物語
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
よし渠は
糊口
(
ここう
)
に窮せざるも、月々十数円の
工面
(
くめん
)
は尋常手段の及ぶべきにあらざるなり。
義血侠血
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そして泊まり合わせた旅の手品師と同行して、いつのまにか手品を習い覚え、同じ旅の手品師としてわずかに
糊口
(
ここう
)
と
草鞋
(
わらじ
)
の
代
(
しろ
)
を得ながら、旅に旅を重ねてこんにちにいたったのだという。
巷説享保図絵
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
郷里
(
くに
)
に帰るといふ事と結婚といふ事件と共に、何の財産なき一家の
糊口
(
ここう
)
の責任といふものが一時に私の上に落ちて来た。さうして私は、其変動に対して何の方針も定める事が出来なかつた。
弓町より
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
小田原へ逃げのびてきて
糊口
(
ここう
)
をしのぎ、原稿をかいてどこかの部屋をかりる当がつくとサッサと飛びだすという習慣、恩愛の情など微塵もなく、ただもうヤッカイ千万な奴だと思っている。
オモチャ箱
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
必ず衣食住のほかに安心したいとの一念が、常に動き出して止めることがむずかしい。いかに貧困にして毎日の
糊口
(
ここう
)
に追わるるような身分でも、一日として安心を願わざる者はありませぬ。
おばけの正体
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
糊口
(
ここう
)
の労苦に追われて、クリストフのためには日に一時間しか
割
(
さ
)
けなかったし、それさえ無理なことがしばしばだった。しかしその十年間、一日としてクリストフに面接しない日はなかった。
ジャン・クリストフ:13 後記
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
、
ロマン・ロラン
(著)
開演しさえすればとの
儚
(
はか
)
ないたのみに無理算段を重ねていた一行は、直に
糊口
(
ここう
)
にも差支えるようになり、ホテルからも追出されるみじめさ、行きどころない身は公園のベンチに眠り、さまよい
マダム貞奴
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
今日はどん底まで
糊口
(
ここう
)
に窮して売淫する悲惨な女は
尠
(
すくな
)
い。
私娼の撲滅について
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
二葉亭が二度の文人生活を初めたのは全く
糊口
(
ここう
)
のためで文壇的野心が再燃したわけでなく、ドコまでもシロウトの内職の心持であった。
二葉亭追録
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
が、さればといって木彫りの注文はさらになく、注文がないといって坐って待ってもいられない。かくてはたちまち
糊口
(
ここう
)
に窮し、その日の
生計
(
くらし
)
も立っては行かぬ。
幕末維新懐古談:39 牙彫りを排し木彫りに固執したはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
あたかも郷里より
慕
(
した
)
い来りける門弟のありしを
対手
(
あいて
)
として日々髪結洗濯の
業
(
わざ
)
をいそしみ、
僅
(
わず
)
かに
糊口
(
ここう
)
を
凌
(
しの
)
ぎつつ、有志の間に運動して大いにそが信用を得たりき。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
それも家族の
糊口
(
ここう
)
を
凌
(
しの
)
ぐ汗多き働きである。一人の作ではなく、一家の者たちは挙げて皆この仕事に当る。晨も夕べも、暑き折も寒き折も、忙しい仕事に日は暮れる。
工芸の道
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
彼は生に立ち直ってからは、
糊口
(
ここう
)
の方法を安全にしなければならなかった。その町を去ることは彼にとって問題であり得なかった。スイスはもっとも安全な避難所だった。
ジャン・クリストフ:11 第九巻 燃ゆる荊
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
わずかに医学の初歩を学び得るときは、あるいは官途に奉職し、あるいは開業して病家に奔走し、奉職、開業、必ずしも医士の本意に非ざるも、
糊口
(
ここう
)
の道なきをいかんせん。
学問の独立
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
一歩進めていうと、あなたの地位、あなたの
糊口
(
ここう
)
の
資
(
し
)
、そんなものは私にとってまるで無意味なのでした。どうでも構わなかったのです。私はそれどころの騒ぎでなかったのです。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
右篠と申候は、百姓惣兵衛の三女に
有之
(
これあり
)
、十年以前与作方へ縁付き、里を
儲
(
まう
)
け候も、程なく夫に先立たれ、爾後再縁も仕らず、
機織
(
はたお
)
り
乃至
(
ないし
)
賃仕事など致し候うて、その日を
糊口
(
ここう
)
し居る者に御座候。
尾形了斎覚え書
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
それから全くの浪人となって
旦
(
あした
)
に暮を
料
(
はか
)
らずという体だったが、奇態に記憶のよい男で、見る見る会話が
巧
(
うま
)
くなり、古道具屋の
賽取
(
さいと
)
りしてどうやらこうやら
糊口
(
ここう
)
し得たところが生来の
疳癪
(
かんしゃく
)
持ちで
十二支考:10 猪に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
郷里
(
くに
)
に帰るということと結婚という事件とともに、何の財産なき一家の
糊口
(
ここう
)
の責任というものが一時に私の上に落ちてきた。そうして私は、その変動に対して何の方針もきめることができなかった。
弓町より
(新字新仮名)
/
石川啄木
(著)
忽
(
たちま
)
ちにして畑の
芋盗人
(
いもどろぼう
)
となり、奥方は賃仕事をして
糊口
(
ここう
)
をしのいだ。
旧聞日本橋:08 木魚の顔
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
この
寛闊
(
かんかつ
)
な気象は富有な旦那の時代が去って浅草生活をするようになってからも
失
(
う
)
せないで、画はやはり風流として
楽
(
たのし
)
んでいた、画を売って
糊口
(
ここう
)
する考は少しもなかった。
淡島椿岳:――過渡期の文化が産出した画界のハイブリッド――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
その時妾は母に向かいこれまでの養育の恩を謝して、さてその
御恵
(
おんめぐ
)
みによりてもはや自活の道を得たれば、
仮令
(
たとい
)
今よりこの家を
逐
(
お
)
わるるとも、
糊口
(
ここう
)
に事を欠くべしとは覚えず。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
もちろん天下の秀才が出るものと仮定しまして、そうしてその秀才が出てから何をしているかというと、何か
糊口
(
ここう
)
の口がないか何か生活の
手蔓
(
てづる
)
はないかと朝から晩まで捜して歩いている。
道楽と職業
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
傍らにまばらに置かれてある絵具皿や
硯
(
すずり
)
や筆を思えば、それが
糊口
(
ここう
)
をしのぐ貧しい業であったことが分る。丁度私たちの町々に、今も
傘屋
(
かさや
)
や
提灯屋
(
ちょうちんや
)
が店先で売りつつ仕事を急いでいるのと同じである。
民芸四十年
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
妻子を抱えているものは
勿論
(
もちろん
)
だが、独身者すらも
糊口
(
ここう
)
がし兼ねて社長の沼南に増給を哀願すると、「僕だって社からは十五円しか
貰
(
もら
)
わないよ」というのが
定
(
きま
)
った挨拶であった。
三十年前の島田沼南
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
“糊口”の意味
《名詞》
どうにかこうにか生計を立てること。
(出典:Wiktionary)
糊
漢検準1級
部首:⽶
15画
口
常用漢字
小1
部首:⼝
3画
“糊”で始まる語句
糊
糊塗
糊付
糊気
糊刷毛
糊紅
糊細工
糊精
糊附
糊屋