ふるい)” の例文
厳密に、史実として、ふるいにかけると、たとえ二天記や小倉碑文に書かれてある事項でも、どの程度の真実性があるかということになる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しばらく溜めて日に干しておくとカラカラになりますから擂鉢すりばちかあるいは石臼いしうすき砕いてふるい幾度いくども篩いますと立派なパン粉が出来ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
色々調べて行く中にスラッグ・ドルガンと君と、それから二、三の奴の名前に行き当ったが、更にふるいに掛けて遂に君とスラッグが残った。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
。お前の外套は、こういっちゃ失礼だが、まるでふるいだぜ、いけないねえ! そろそろ人並みのことをしていい時分らしいぜ
木のないところへ来ると、空は日が未だ高くて、ふるいをかけたように、青葉の上に金光をチラリと流して、木の下道にのみ、闇がさまよっている。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ドクタア・エルドリッジはこの建物と、壺、銅罐、小桶、ふるい、アルコール箱等の完全な設備を見て驚いていた。来週はドクタア・マレーが来る。
清潔にした室に藁のふるいを置き、その上に桑の葉を置く。そして幼虫は家の中で卵からかえる。桑は大きな木で、其の幼虫を養ふ目的で栽培するのだ。
それで最も目立つ色彩をしていながら無事に敵の襲撃を免れて生き遺ることのできるような優秀な個体のみが自然淘汰のふるいにかけられてり残され
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その時に、右の一枚石が与八の手にかかって、ほとんどふるいを廻すような軽みで左右に揺れ出したのには、一同が舌を捲かずにはおられませんでした。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だんだんと、ふるいをかけてきた結果、いよいよ真相を告げておよろしい頃合となったと思うが、わたくしは、人通りまばらなる舗道のうえを歩きだした。
第四次元の男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
みていた小さい太郎たろうは、縁側えんがわからとびおりました。そしてはだしのまま、ふるいをもって追っかけてゆきました。
小さい太郎の悲しみ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
米を苧糸おいとふるいでふるうときに出るものといっているが(飛州志)、そういう道具の普及せぬ頃にはユリという楕円だえん形の木の盆で、米と籾とをゆり分けたので
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
山羊やぎの乳をしぼれば、他の者がふるいをその下に差し出していると云う、そんなはかない生活くらしなので、躯工合でも悪くなると、あれこれと考えるのだが、まあ
生活 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
さればこそ彼等によりて一たびは真理と確定されたものでも時代のふるいに掛けられて、今では真理ならずとされたものが沢山たくさんあるゆえんである。それが進歩である。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
更にその青年や女性が自分たちの時代として経て来た歴史の性格などがそれとこれとをきりはなしてふるいにはかけられないような溶け合いかたで刻々に躍動している。
家庭創造の情熱 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
婆さんはその粉をふるいにかけてかすり、それがすむと人形をはじめ農具を箱の中へ入れてしまった。
蕎麦餅 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その次ぎに来た異人がまた、女の髪の毛を三本と言い出したから、今度はふるいの毛を三本抜いて与えた。驚くべきことには、そのふるいが天に登って、異国へ飛んでったともいう。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
方言では「おぼけ」とか(これは緒桶おおけのことであります)、「とす」とか(これはとおしの意でふるいのこと)、「かこべ」とか(これは葉籠はかごのこと)など色々面白い呼び方をするのも
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
古いものでは遠い昔のことでありますからふるいにかかって公平な値段がつけられておる。
ポアッソニエの大通グランブールヴァルはもう五色ごしきの光の槍襖やりぶすまを八方から突出つきだしていた。しかしそれにされ、あるいはそれをけて行く往来の人はまだふるいにかけられていなかった。ゴミが多かった。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
即ち玄人くろうとと素人、芸術と批評、実際と理想……と、そうした裏と表の両面からふるいにかけて選み出されたものはキット内容の充実した……舞台表現として成功した曲にきまっている。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
墜ちがけに、からかさのように拡がった隣りのトド松の枝をつき飛ばした。それは、ふるいのように揺すぶれ、弾力のあるかたい葉は顫動せんどうしつづける。雪はほこりのように降って来た。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
小屋に使ってある丸太はどす黒く古びており、多くの屋根はふるいのように穴だらけになっている。中には上に棟木むなぎと、その両側へ肋骨のように張り出した垂木たるきだけしか残っていないのもある。
折からさっと渡った風は、はじめ最も低く地上をすって、雪の上面うわづらでてあたかもふるいをかけたよう、一様にたいらにならして、人の歩行あるいた路ともなく、夜の色さえうずみ消したが、見る見る垣をわた
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人々が勇敢に征服していった泥土でいどの中には、至る所に、金銀細工物や宝石や貨幣などの貴重品が満ちていた。もし巨人があってその泥土をしたならば、ふるいの中に数世紀間の富が残ったに違いない。
ニュースの核心と最後的なふるいにかけられた粒選りの部分、落ちつくところに落ちついたもの、戦争と平和との見透し、この世界はまだ長もちがしそうかどうか、を聞いた上で、裏口から出してもらい
あのふるいはなんにするのだい。
節食はもちろん、喰えるものは喰い尽し、穀倉の中の土までふるいにかけてつないで来た奉行の苦心を聞くと、彼は、何もいえなくなった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると別な機械がふるいの上でそれを薄い板に引き伸ばして、水を搾りとつて了ふと、泡のやうな液体がフエルトになる。
玉子の泡がそれほどに固くなったら米利堅粉めりけんこの代りに小麦粉うどんこの上等を細かいふるいでふるわなければいけません。篩わないとダマが出来てよく混ざりません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
頭という名はよいけれども、何回も唐箕とうみ万石まんごくを通して、最後にふるいの上になる屑籾のことなのである。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「大丸木ぶち」「小丸木縁」(縁附丸笊ふちつきまるざる)「かこべ」(桑籠くわかご)「荒とす」(「とす」は「通す」の意でふるい)、「おぼけ」(緒桶おおけの意か)等色々に呼ぶ。その他最も多く作るのは行李こうりである。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
報告文学が、きびしい時間のふるいを忍ばなければならない機微がここにもある。
道ばたで薄ぎたないシナ人がおおぜい花崗石みかげいしを細かく砕いてふるいり分けている。雨が少し降って来た。柳のある土手へ白堊塗はくあぬりのそり橋がかかってその下に文人画の小船がもやっていた。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
五合ばかりの玄米くろごめを、徳利の中へ無造作に入れてかしの棒でコツコツくのであって搗き上がるとそれをふるいにかけその後で飯にかしぐのであった。彼は徳利搗きをやりながらも眼では本を読んでいた。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それだけ古書画としてふるいにかかった価値を有するものであるが、これを芸術的に見て、なにがそうさせたかをいうならば、相当の上品さを保ってその墨蹟が作者自己に生きているということである。
母は手拭を冠り、手甲てっこうを着けて、稲の穂をこいては前にあるの中へ落していた。そのかたわらには、父子おやこの叩いた籾をふるいにすくい入れて、腰を曲めながら働いている、黒い日に焼けた顔付の女もあった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この辺はもう本丸の玄関に近い前栽せんざいらしく、所々に、枝ぶりのよい男松が這っていてふるいにかけたような敷き砂が光っていた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家で碾かせますと一番先へ出た粉を極く細かいふるいにかけてそれを一番粉と申しますから色が白うございます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
むしろ進んで、暗合的なものと因果的なものとを含めた全体のものを取って、何かの合理的なふるいにかけて偶然的なものと必然的なものとをふるい分ける事に努力したほうが有利ではあるまいか。
何にかのふるいにでもかけられて来たやうに、粒になつて降つて来る。
そしてお可久様を張りに来ている連中も、だんだんふるいにかけられて、粘り強い者だけが、今では、碁盤の外の勝敗にしのぎを削っているのであった。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
パンの砂即ちブレッドサンドといってパン粉を拵える時ふるいの方へ残った荒いパンくずへ少し塩を混ぜてそれが大匙二杯あったらばバターを中匙一杯溶かしてパリパリするほどにり付けます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
すでに、誓紙の上で誓った者には、改めていう迄もないが、ふるいにかけて残った者へは、今始めてささやく大事なのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
階下したには、米搗臼こめつきうすだの、ふるいだの奥には又ぎっしりたわらが積み込んであるが、梯子を上ると、四坪ほどの床にむしろが敷いてあって、行燈もある、火鉢もある、茶も沸く。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、内蔵助が、念に念を入れた上の絹漉きぬごしでふるいにかけたような人々のみが、水もらさぬ用意のもとに、緻密ちみつな聯絡をとり合って、江戸表に深く脚を入れていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人々が何十年も、土足で踏みつけ踏みつけして、凹凸を作っている倉内の地面にも、掘れば、なお食するに足る物がしまわれていた。でより分け、ふるいにかけて、洗いあげる。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだとも。未練な弱兵はことごとく落ち失せて、ここに残った将士こそふるいにかけられた真の大丈夫ばかりである。一騎よく千騎に当る猛卒のみだ。兵力の寡少かしょうは問題でない」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
農倉のひえあわは云うまでもなく、畑の物も土をふるいにかけたように喰べ尽している。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)