石膏せっこう)” の例文
神山さんが、美術室へはいってみると、部屋のすみに立ててあったアドニスの石膏せっこう像が、まっぷたつにわれて、ころがっていたのです。
奇面城の秘密 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「やあ、しめたしめた」三吉は用意の石膏せっこうをとかして、手早くその靴の形を写しとった。それは真白の靴の底だけのようなものだった。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
昔板小屋の中でたくストーブの用をなしていた古い石膏せっこうの管が壁についていて、テナルディエの姿が見えるあたりまで上っていた。
石膏せっこうの胸像あるいは生きた人体を写生し、その形態、平面、立体、凸凹、明暗の調子等の有様を研究し表現する処の仕事をいうのである。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
あの村のマルタの妹のマリヤが、ナルドの香油を一ぱい満たして在る石膏せっこうの壺をかかえて饗宴の室にこっそり這入はいって来て、だしぬけに
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
その時あたかも牡丹の花生けの傍に置いてあつた石膏せっこうの肖像を取つてその裏に「みずからだいす。土一塊牡丹生けたるその下に。年月日」
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
石膏せっこう屋のおかみさんが歯朶子しだこに教えて呉れた。おかみさんは歯朶子に払う助手料を差引く代りに石膏置場の小屋を少し綺麗に掃除して呉れた。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
紅やとのこを塗るに随って、石膏せっこうの如く唯徒らに真っ白であった私の顔が、溌剌はつらつとした生色ある女の相に変って行く面白さ。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこには一軒の小屋があって、雪花石膏せっこうを焼くかまどの設備があり、そこで焼いた石をつくのであった。みなで三人の働手がそこへ出かけた。
七八寸位の小さなものであった。それを石膏せっこう型にとって岡野さんは帰朝される時持ちかえられたが、帰国後石膏に斑点はんてんが出たという通知があった。
自作肖像漫談 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
かわがわるさまざまの色の電光が射し込んで、床にかれた石膏せっこうぞうや黒い寝台しんだいや引っくりかえった卓子テーブルやらを照らしました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
顔半分の血と泥はすでに乾きかけてい、そのため石膏せっこうのように血のけのない顔が、ぞっとするほどすさまじくみえる。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
仮りに共鳴を起さぬように石膏せっこうのごとき練り物がよいとしても、材料そのものが音を吸収してしまって、うるおいもなく光もないふやけた音になってしまう。
銀で千鳥をところどころ縫い取った黒い地紋の羽織を着ていたので、顔の感じが一層石膏せっこう細工のようにかたかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして彼らの二人ともが、土に帰る前の一年間を横たわっていた、白い土の石膏せっこうの床からおろされたのである。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
下駄げたを買おうと思って、下駄屋をのぞきこんだら、白熱ガスの下に、まっ白に塗り立てた娘が、石膏せっこうの化物のようにすわっていたので、急にいやになってやめた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
珠運しゅうん命の有らん限りは及ばぬ力の及ぶケを尽してせめては我がすきの心に満足さすべく、かつ石膏せっこう細工の鼻高き唐人とうじんめに下目しためで見られし鬱憤うっぷんの幾分をらすべしと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
花田 死骸しがいになってここにはいる奴はこれだ。(といいながら、壁にかけられた石膏せっこう面を指さす)
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
看護婦が、平手で、石膏せっこうの型でも作るように、べたべた伸子の足いっぱい膏薬を塗りこんだ。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
にわか造りの銅像や、石膏せっこう細工の天才の前での演説が、これほど多い時代はかつて見られなかった。仲間の偉大なだれかへ周期的に、光栄の居候いそうろうどもが饗宴きょうえんをささげていた。
納屋の中にはストオヴが一つ、西洋風の机が一つ、それから頭や腕のない石膏せっこう女人像にょにんぞうが一つあった。殊にその女人像は一面にほこりにおおわれたまま、ストオヴの前に横になっていた。
悠々荘 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうして今度は、その出来たもとの形へ「石膏せっこう」という白粉おしろいのような粉を水に溶いたものをかぶせ掛けて型を取るのだそうな。だから非常に便利で、かつ原型そっくりのものが出来るということだ。
彼の鼻は石膏せっこう細工の鼻のように硬化したようだった。
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
軟い石膏せっこうでも練るような、へらの音が聞こえて来た。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それから、その書だなの四つのすみには、おとなほどの背の高さのいかめしい石膏せっこう像が、ニョキニョキとつっ立っているのです。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
モデルに石膏せっこうの彫像を据えて息子は研究所の夏休みの間、自宅で美術学校の受験準備の実技の練習を継続しているのであった。電灯をねって
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
其他演劇博物館にある石膏せっこうの首は幼穉ようちで話にならない。ラグーザの作というのはまだ見ないでいる。団十郎は決して力まない。力まないで大きい。
九代目団十郎の首 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
そして石膏せっこうで模型が作りあげられた。その結果、この怪物は土中から出てきたのではないことがあきらかとなった。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
先ず最初に石膏せっこう模型の人像によって、木炭の墨、一色の濃淡によってそれらの物の形と線と面と、光による明暗の差別、空間、調子、遠近、奥行き、容積
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
床の間には、もう北斗七星の掛軸がなくなっていて、高さが一尺くらいの石膏せっこうの胸像がひとつ置かれてあった。胸像のかたわらには、鶏頭けいとうの花が咲いていた。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
あの白堊はくあ、あの石灰、あの石膏せっこう、あの荒地や休耕地のきびしい単調さ、奥深い所に突然見えてくる農園の早生わせの植物、僻地へきちと都市との混合した景色、兵営の太鼓が騒々しく合奏して
私は「あした石膏せっこう用意よういして来よう」ともいました。けれどもそれよりいちばんいいことはやっぱりその足あとを切りって、そのまま学校へ持って行って標本ひょうほんにすることでした。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
深い眼睫まつげの奥から、ヴィーナスはけるばかりに見詰められている。ひややかなる石膏せっこうの暖まるほど、まろ乳首ちくびの、呼吸につれて、かすかに動くかとあやしまるるほど、女はひとみらしている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
○床の間に虞美人草ぐびじんそうを二輪けてその下に石膏せっこうの我小臥像しょうがぞうと一つの木彫の猫とが置いてある。この猫はうずくまつて居る形で、実物大に出来て居つて、さうして黄色のやうなペンキで塗つてある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
はりこの鳥居とりいだとか、石灯籠いしどうろうだとか、石膏せっこうでつくった銅像のようなもの、そのほか、いろいろのものが、雨ざらしになって、おいてあるのです。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
久しくやっている団十郎の首は、石膏せっこうでとるつもりで始めたが、今は石膏がないから泥で固めて了おうと思っている。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
びた朱いろの絨緞じゅうたんを敷きつめたところどころに、外国製らしい獣皮の剥製はくせいが置いてあり、石膏せっこうの女神像や銅像の武者像などが、規律よく並んでいる。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
怪塔王のつかっているガスは、QQキューキューガスという世界のどこにも知られていない強いガスです。これはうんと冷して、固めて石膏せっこうのようにし、缶づめにしてあります。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
法王に法王主義の不足を見いだし、国王に王権の不足を見いだし、夜に光の過多を見いだすことである。白色の名によって石膏せっこうや雪や白鳥や百合ゆりの花などに不満をいだくことである。
気取りを止めよ。私のことを「いやなポーズがあって、どうもいい点が見つからないね」とか言っていたが、それは、おまえの、もはや石膏せっこうのギブスみたいに固定している馬鹿なポーズのせいなのだ。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その光線の鬢は白くまばらなので石膏せっこう細工の女かと思われた。
ランプの影 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
鼻かけの乃木将軍にどれ程の値打があるのか、全く分らぬけれど、兎も角彼等の『品物』というのは、その乃木将軍の石膏せっこう像に違いないらしい。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
木彫の方は小使が皆石膏せっこうを扱うので、石膏屋さんとしては小沢という人がいたのを記憶する。石膏も初めは使用法を知らぬので沢山の無駄を出していた。
美術学校時代 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
一人一人特殊のあの甲羅こうらのような個性というものが無くなって大ぜい一緒に進んでいますと、石膏せっこう群像の上に五彩のサーチライトを映し動かしますときに緑になったり
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
大辻珍探偵は、岩の足跡から取った白い石膏せっこう靴型くつがたを、大事そうに礼拝らいはいした。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを石膏せっこうにとってそれから三本コムパスと針とで石などに移すというのが長沼先生のやり方であった。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
標本サンプルなども見てやってみましたが、白粉おしろい石膏せっこう漆喰しっくいと違いましてね、手におえません」
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あれは実物に石膏せっこうをぶっかけて、女型めがたをつくることが多いのですよ。そこへ蝋を流しこんで固め、彩色するのです。人間でも同じことです。ただ石膏がたくさんいるだけですよ
悪霊物語 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
畳屋のせがれ、電話のブローカー、石膏せっこう模型の技術家、児童用品の売込人、兎肉販売の勧誘員
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さて、刑事が勿体もったいぶって持出した所の証拠物件なるものは、第一に一足の短靴、第二に石膏せっこうで取った所の足跡の型、第三に数枚のしわになった反故紙ほごがみ一寸ちょっとロマンティックじゃないか。
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)