瞞着まんちゃく)” の例文
その人の内容だけの物しか狙い又掴みだすことができず、平時に瞞着まんちゃくし得た外見も、ここに至ってその真実を暴露せずにはいられない。
咢堂小論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その制度の中に瞞着まんちゃくされながら、現代における生活の必需品を最小限度に充用し得る程度の賃銀の支払を要求しているに過ぎないのです。
階級闘争の彼方へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
古来日本国の上流社会にもっとも重んずるところの一大主義を曖昧糢糊あいまいもこかん瞞着まんちゃくしたる者なりと評して、これに答うることばはなかるべし。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いや牝鶏めんどり瞞着まんちゃくするために瀬戸物で卵を作るそうでしな、なぜ瞞着せなければならぬかというとでし、牝鶏というやつは卵を産むと、——
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なんのために庭番を呼ぶ必要があるのだ? 自分で自分を告発するためとでもいうのかね? あるいは瞞着まんちゃく手段なのか? いや
と。この論はなはだ穏当着実もって俗人を瞞着まんちゃくするに足るといえども、静かに考うるときは実に一種の詭弁きべんといわざるべからず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
真面目ならば、こうまで言った話は解らんけりゃならん。私が一時を瞞着まんちゃくして、芳をよそかたづけるとか言うのやなら、それは不満足じゃろう。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
新聞でも見ながら「ミット」や「オーネ」のコーヒーをちびちびなめながら淡い郷愁を瞞着まんちゃくするのが常習になってしまった。
コーヒー哲学序説 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「ははあ、あなたもあの際に白髪染を怠らなかったとは、承わって敬服します。流石さすがに閑日月ありですな。人を瞞着まんちゃくすることは別問題として」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかし季因是はまるで知らなかったのだから、廷珸の言に瞞着まんちゃくされて、大名物を得る悦びに五百金という高慢税を払って、大ニコニコでいた。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかし同僚どうりょう瞞着まんちゃくするよりも常子の疑惑を避けることははるかに困難に富んでいたらしい。半三郎は彼の日記の中に絶えずこの困難を痛嘆している。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
娘の裸体はだか吟味 ところで今より十三年程以前にそのパルポ商人のある大きな店へラサ府の婦人が買物に行って珊瑚珠を一つ瞞着まんちゃくしたとかいうので
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
僕はそんなことに瞞着まんちゃくされはしません。僕が老人になり相当な地位に達した今となって、君は僕を利用して若い人たちを押しつぶそうとしています。
これに加うるに、宗教家中の山師連は、愚民瞞着まんちゃくの手段として天狗を利用し、ますます奇怪に奇怪をつけ加うることも、世間にありがちのことである。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それを昔から今日こんにちに至るまでのいっさいの日本人が、古い一人の学者にそう瞞着まんちゃくせられていたのは、そのおめでたさ加減かげん、マーなんということだろう。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
現に『日本新聞』では一ページ余にわたって、かれらの身許調べのような記事を掲げて、こんなまやかしものに瞞着まんちゃくされるなと警告したくらいであった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かく十日まえに世人のまなこを瞞着まんちゃくしながら、男と女を入れ替えて、夫婦の契りを結ばせたのでありました。
「すると、あいつ、何から何まで本当のことを云ったのだな。僕達を瞞着まんちゃくする夢物語ではなかったのだな」
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
申し合せてインスピレーション、インスピレーションとさも勿体もったいそうにとなえている。これは彼等が世間を瞞着まんちゃくするために製造した名でその実は正に逆上である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世の人心を瞞着まんちゃくすること、これにくものはない。何故か? 曰く、全快写真はほとんど八百長である。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
かくてメレートスやアヌトスなどの詐言さげんのために、とやかくといろいろ瞞着まんちゃくされた結果、種々の裁判の末に、我大聖ソクラテスは遂に死刑を宣告せられることとなった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
「……これが、我々に信じ得られるとお思いでしょうか? 疑いもなく××です。殿下もシャアも! 見て下さい! 我々を瞞着まんちゃくするために大使館が寄越したこの電報を!」
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
テナルディエは特に瞞着まんちゃく者で落ち着いた男であって、まあ穏やかな方の悪党であった。けれどもそれは最も性質たちのよくないやつである、なぜなら偽善が交じってくるからである。
あるいは人によりては、これはずるい方法で、猫をかぶるとか、猫なで声で人を瞞着まんちゃくするとか、西洋でいうひつじの毛をかぶおおかみのごとく、偽善の最もはなはだしきもののように思うものもある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それさえない一片の紙をどうして外国のものが信ずることができるか、君らは自分を瞞着まんちゃくするために来たのであろう、自分はこれから艦長に言い付けてすぐさま京都に行くであろう
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ただ人間は nicety の仮面の下に自分自らを瞞着まんちゃくしようとしているのだ。そして人間はたしかにこの偽瞞の天罰を被っている。それは野獣にはない、人間にのみ見る偽善の出現だ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
色恋が年と共に薄れ行くと思うのは、それは現実を瞞着まんちゃくした旧思想に過ぎず、事実は生活力が衰退して、異性との交渉が少くなるにつれて、若かりし日の記憶は強烈に鮮明に働き出すのです。
ことさらに無心な顔を作り、思慮の無いことを云い、互に瞞着まんちゃくしようとつとめあうものの、しかし、双方共力は牛角ごかくのしたたかものゆえ、まさりもせず、おとりもせず、いどみ疲れて今はすこし睨合にらみあいの姿となった。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
もう僕は、だまされない。叔父さんは、僕たちの疑惑の眼を避けたいばかりに、ポローニヤスと相談して、僕たちを瞞着まんちゃくする目的で、あんな不愉快千万の仕組みを案出したのだ。馬鹿にしていやがる。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
文明の学者士君子にして、腐儒の袖の下に隠れ儒説に保護せられて、由て以て文明社会を瞞着まんちゃくせんとする者と言う可し。其窮唯憐む可きのみ。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それが幸福の追求である場合には、もっとも愚かなもっとも瞞着まんちゃく的なものとなる……。ジャックリーヌは愛以外に生の目的を考えることができなかった。
「小説にもないだろう。親父が生きている間息子が余り白くなっちゃ死に急がせると思って染めていたのさ。諸君を瞞着まんちゃくした形はあるが、事情止むを得ない」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また、利欲心より愚民を瞞着まんちゃくして、金銭を得んとて偽造せることもたくさんある。またはなんらの利益なきも、一種の好奇心もしくは悪戯より妖怪を製造する人もある。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
人を籠絡ろうらく瞞着まんちゃくしてこられた、だが私はもうだまされはせぬ、盲人は顔色音声によって真偽をくらまされることはない、貴方がいつかここへ来られることもわかっていたし
つまり瞞着まんちゃくしようと思って悪企みをしてやがるのだ、あの男の眼はけっして見るのじゃないぞ、あいつの眼では何もわかりゃせんぞ、悪党だからな——つまり髯さえ見ていればいいのさ
於戯ああ実に慨嘆の至に堪えんではない乎! 高尚なることかしわの木の如き諸君よ、諸君は何故彼如き陋劣漢ろうれつかんを地上より埋没せしめんと願わざる乎。彼は鬘を以てその禿頭を瞞着まんちゃくせんとするのである。
風博士 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
世間を瞞着まんちゃくしていた熊芸人の正体を看破した以上は、自然そこに居合わした遊芸人たちも四散するだろうと思いましたので、伝六以下の三人を従えて拍手賞賛の間をゆうゆう引き揚げようとすると
どうしても完璧の瞞着まんちゃくが出来なかった。しっぽが出ていた。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
以て冥々めいめいの間に自家の醜を瞞着まんちゃくせんとするが如き工風くふうめぐらすも、到底とうてい我輩の筆鋒をのがるるにみちなきものと知るべし。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それから彼は家に帰ると、住居は無趣味で悪臭がしており、妻は騒々しい平凡な女で、彼にたいして少しも理解がなく、彼は瞞着まんちゃく者かもしくは狂人だと見なしていた。
深く秘して官を瞞着まんちゃくし、不法に貢税をのがれ賦役を逃げて、ひとり王侯の富を蔵するに至った
愚民瞞着まんちゃくもここに至りて極まれりといわねばならぬ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
みだりに嫉妬なる文字を濫用して巧に之を説き、又しても例の婦人の嫉妬など唱えて以て世間を瞞着まんちゃくせんとするも、人生の権利は到底無視す可らざるものなり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そうして、その三枚めも剥がれて、つまり七十六日めの夜になったとき、ゆい子がやはり夜具のまわりに砂垣を作るのを見て、五郎さんは瞞着まんちゃくされたような気持におそわれた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なおかつ一世を瞞着まんちゃくして得々とくとく横行すべきほどの、この有力なる開進風潮の中にいながら、学校教育の一局部を変革して、もって現在の世態せいたいを左右せんと欲するが如きは
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そうして、その三枚めもがれて、つまり七十六日めの夜になったとき、ゆい子がやはり夜具のまわりに砂垣を作るのを見て、五郎さんは瞞着まんちゃくされたような気持におそわれた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
して外国の書をよん欧羅巴ヨーロッパの制度文物をれと論ずるような者は、どうも彼輩あいつ不埒ふらちな奴じゃ、畢竟ひっきょう彼奴等あいつら虚言うそついて世の中を瞞着まんちゃくする売国奴ばいこくどだと云うような評判がソロ/\おこなわれて来て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
三人は夢中になって徳利のかけらにとびかかり、一つ一つ手に取って念入りに調べた、だがそれらはいささかの瞞着まんちゃく機関からくりもない単なる徳利のかけらで、妖異よういを証明するなにものも存在しなかった。
以てその不品行を瞞着まんちゃくするの口実に用いんとする者なきにあらず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あるいは人々を瞞着まんちゃくしてうまうま出世したかも知れぬ。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)