生血なまち)” の例文
たとい深手ふかででないにしても、流れる生血なまちを鼻紙に染めることになったので、茶屋の女房は近所の薬屋へ血止めの薬を買いに行った。
恨みの蠑螺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私たちが生血なまちの出るようなまじめな努力をしてそれらを滅ぼそうとした後において初めて理解されることである。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
大杉の生涯は革命家の生血なまちしたたる戦闘であったが、同時に二人の女にもつれ合う恋のどもえの一代記でもあった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
梅林の奥、公園外の低い人家の屋根を越して西の大空一帯に濃い紺色の夕雲が物すごい壁のように棚曳たなびき、沈む夕日は生血なまちしたたる如くその間に燃えている。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
新刀ながら最近研師とぎしの手にかけたものだけに、どぎどぎしたその切尖きっさきから今にも生血なまちしたたりそうな気がして、われにもなく持っている手がぶるぶるとふるえた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
さみしさ凄さはこればかりでもなくて、曲りくねッたさも悪徒らしい古木の洞穴うろにはふくろがあのこわらしい両眼で月をにらみながら宿鳥ねとりを引き裂いて生血なまちをぽたぽた……
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
三分の一失うと昏睡こんすいするものだと聞いて、それにわれとも知らずさいの肩に吐きかけた生血なまち容積かさを想像の天秤てんびんに盛って、命の向う側におもりとして付け加えた時ですら
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しゅッと一せん、細身の銀蛇ぎんだが月光のもとに閃めき返るや一緒で、すでにもう怪しの男の頤先あごさきに、ぐいと短くえぐった刀疵が、たらたら生血なまちを噴きつつきざまれていたので
さあ柵を連れて来い! 島太夫、柵にこう云ってくれ。……戦いにきた宗介むねすけ生血なまちに倦きたこの俺が美しい許婚に邂逅ゆきあって恋の甘酒うまざけに酔いしれたくそれで帰って来たのだとな。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「やや、脱毛ぬけげからしたた生血なまちは」よろよろと起きあがって、「一念とおさでおくべきか」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
持っていた洋燈ランプ火屋ほやが、パチン微塵みじん真暗まっくらになったから、様子を見ていた裏長屋のかみさんが、何ですぜ、殺すのか、取って食うのか、生血なまちを吸うのかと思ったっていうんですぜ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私の心臓をギューギューと握り締めて、生血なまち生汗なまあせを絞りつくす程の苦しみを投げかけている……不可解の因縁を以て私に絡み付いて、不可思議の運命の渦に私を吸い込みつつある。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
月とよしを描いた衝立ついたての蔭から、よろよろと蹌踉よろめき上り、止めようとする宅悦の襟首えりがみをひっ掴んで、逆体さかていに引き据え、上になったお岩の生際はえぎわから一溜の生血なまち、どろどろと宅悦の顔にかかるのが
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
掛たら彼方はおどろききふ病人の診察みまひもどりと答へし形容ようす不審いぶかしく殊に衣類いるゐ生血なまちのしたゝり懸つて有故其の血しほは如何のわけやと再度ふたゝび問へば長庵愈々驚怖おどろき周章あわて嗚呼ああ殺生せつしやうはせぬ者なりえきなきことを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼女は洗面器の中の、すっぽんを視詰みつめながら、首を出すのを待った。すっぽんの生血なまちを取るのには、その首を出すのを待っていて、鋭利な刃物でそれを切るのだと教えられていたからであった。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「ところが、下水に生血なまちが流れて居るんです」
足音あしおとす、生血なまちした
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それがだんだんにこうじて来て、庄兵衛は袂に小さい壺を忍ばせていて、斬られた人の疵口から流れ出る生血なまちをそそぎ込んで来るようになった。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
物いへばくちびる寒きを知る国民たり。ヴェルハアレンを感奮せしめたる生血なまちしたたる羊の美肉びにく芳醇ほうじゅんの葡萄酒とたくましき婦女のも何かはせん。ああ余は浮世絵を愛す。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
生血なまちを塗ったような深紅の花弁は五寸の厚さを持っている。
物凄き人喰い花の怪 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ようように家へころげ込んで母や兄に見て貰うと、かれは頬や頸筋をめちゃくちゃに引っ掻かれて、その爪あとには、生血なまちがにじみ出していた。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
物いへばくちびる寒きを知る国民たり。ヴェルハアレンを感奮せしめたる生血なまちしたたる羊の美肉びにく芳醇ほうじゅん葡萄酒ぶどうしゅたくましき婦女のも何かはせん。ああ余は浮世絵を愛す。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ばかりかくれない斑々はんぱん生血なまちが諸所にしたたっている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
更によく見ると、その女の胸のあたりには温かい生血なまちが流れ出しているらしいので、二人はまた驚かされた。百助は後難を恐れて先ず逃げ出した。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
西洋の肉売る店の前を過ぎて見るから恐しい真赤まっか生血なまちしたたりにきもを消した私は、全くその反対、この冷い色のさめた魚肉が多数の国民の血を養う唯一の原料であるのかと思うと
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
生血なまちまみれているのである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
供の義助がようよう気がついて彼女を抱き留めた時、四郎兵衛はもう二つ三つの貝殻に顔をぶたれて、眉のはずれや下唇から生血なまちが流れ出していた。
恨みの蠑螺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
どろどろした生血なまちの雪に滴る有様。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
「と、生血なまちが流れ出る」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかも今度の石にかぎって、それが大きい切り石であったので、猪上の右の眉の上からは生血なまちがおびただしく流れ出した。人々は息をのんで眼を見あわせた。
父の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人間の腕一本を斬ったら、生血なまちがずいぶん出る筈だが、そこらに血の痕なんか碌々残っていやあしません
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
傷はまあ好いんですが、血暈という奴がまことに困るんです。なんでも鮫を突き殺した時に、その生血なまちが皮に沁み着くんだそうですが、これが幾ら洗っても磨いてもけないので困るんです。
半七捕物帳:04 湯屋の二階 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
薄暗いなかで透かしてみると、その人差指と中指とに生血なまちがにじみ出しているらしかった。木の枝にでも突っかけて怪我をしたのだろうと察したので、僕は袂をさぐって原稿紙の反古ほごを出した。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
暗い河原にひざまずいて、まだ温かい彼の生血なまちを吸う者があった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その腰から下は溢れるばかりの生血なまちにひたされていた。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「まだそればかりでなく、あの中間のかかえている風呂敷包みから生血なまちがしたたっているようにも見えたので、いよいよ不審と認めて詮議いたしたのでござるが、それも拙者の目違いで、近ごろ面目もござらぬ。」
西瓜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)