父親おやぢ)” の例文
然し大抵ならの校長は此方こつちのいふ通りに都合してくれますよ。謂ツちや変だけれど、僕の父親おやぢとは金銭上の関係もあるもんですからね。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お妻の父親おやぢもわざわざやつて来て、炉辺ろばたでの昔語。すゝけた古壁に懸かる例の『山猫』を見るにつけても、くなつた老牧夫のうはさは尽きなかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お母さまは、君を居候ゐさふらふだと云つたよ。君にはちつともお金が無いんだ。君の父親おやぢは、何も君に殘して行かなかつたんだ。
ひよつくり変てこな夢何かを見てね、平常ふだん優しい事の一言も言つてくれる人が母親おふくろ父親おやぢあねさんやあにさんの様に思はれて、もう少し生てゐやうかしら
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ほんとに情無なさけねえよ。わしあ。くにには親兄弟おやけうだいもあるんだが、父親おやぢはもう年老としよりだつたから、んだかもれねえ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
りうとした扮裝いでたちだつたらどうだろう? あの別嬪がその時どんなをあげるだらうなあ? あの父親おやぢは、うちの局長は、いつたい何と言ふかしらん? なかなかどうして
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
安倍氏は亡くなつた父親おやぢの遺言にも、鬼の事は一向聞いて居なかつたので流石さすがに一寸驚いた。
滿谷の今朝けさ寝起ねおき姿を見ると僕も「この人はおれの父親おやぢだ」と一寸ちよつと言つて見たく成つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
葡萄畑に鍬を入れてゐた父親おやぢの耳にも、当然それがはひらないわけには行きません。
けむり(ラヂオ物語) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「あぶ、あぶ、あツぷう。」と、まるつらを、べろりといたいけなでて、あたまからびたしづくつたのは、五歳いつゝばかりの腕白わんぱくで、きよろりとしたでひよいとて、また父親おやぢ見向みむいた。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕はモウ父親おやぢの死んだ事も郷国くにの事も忘れて、コンナ人と一緒に居たいもんだと思ひました。然し天野君が云つて呉れるんです
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
父親おやぢだつても、矢張左様さうで、この六七年の間は一緒に長く居て見たことは有ません。いつでも親子はなれ/″\。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
母親おふくろ父親おやぢ乞食こじきかもれない、おもてとほ襤褸ぼろげたやつ矢張やつぱりれが親類しんるゐまきで毎朝まいあさきまつてもらひにびつこ隻眼めつかちのあのばゝなにかゞれのためなんあたるかれはしない
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
身分の高いあいつらの父親おやぢどもといへば、そろひもそろつて八方美人で、宮廷への出入りを狙ふ手合だが、あれでゐて自分免許に、愛國者だの何だのと納まりかへつてゐるものの
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
丁度自分の祖父ぢいさんか、父親おやぢかが、山を売りはたを売り、桐の木を売り、釣つた鯰を売つて儲けた金をそつくり大原氏に預けて置きでもしたやうに、お礼一つ言はないで、平気で貰つて帰る。
それに今朝父親おやぢさう言ツてましたから、先刻さつき話した校長の所へ、これから廻ツて見ようかとおもふんです。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
もしかすると左樣かも知れない、夫れなら己れは乞食の子だ、母親おふくろ父親おやぢも乞食かも知れない
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其晩はお妻の父親おやぢがやつて来て、遅くまで炉辺ろばたで話した。叔父は蓮太郎のことに就いて別に深く掘つて聞かうとも為なかつた。唯丑松が寝床の方へ行かうとした時、斯ういふ問を掛けた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「それに揃ひも揃つて父親おやぢ老年としよりなもんでございますから。」
然うだ、父親おやぢが酔払つて丼を投げた時、母は左の手で……血だらけになつた母の顔が目の前に……。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
母親おふくろ父親おやぢも乞食かも知れない、表を通る襤褸ぼろを下げた奴がやつぱり己れが親類まきで毎朝きまつてもらひに来る跣跋びつこ片眼めつかちのあのばばあ何かが己れの為の何に当るか知れはしない
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「随分長くある時計だよ——叔母さんと一緒に初めてうちを持つた時分から、あるんだからネ——阿部あべ老爺おぢいさん(叔母さんの父親おやぢ)がわざ/\買つて提げて来て呉れた時計なんだからネ——」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『それを今の郡視学の奴は、あれあ莫迦ですよ。何処の世に、父親おやぢのやうな老人としよりを捉へてからに何だのだの——あれあ余程莫迦な奴ですよ。莫迦でなけれあ人非人だ。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お京さん母親おふくろ父親おやぢからつきりあてが無いのだよ、親なしで産れて来る子があらうか、己れはどうしても不思議でならない、と焼あがりし餅を両手でたたきつついつも言ふなる心細さを繰返せば
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
気病きやみの後の様なたるんだ顔にまぶしい午後の日を受けて、物珍らし相にこの村を瞰下みおろしてゐると、不図、生村うまれむら父親おやぢの建てた会堂の丘から、その村を見渡した時の心地が胸に浮んだ。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ひよつくり變てこな夢何かを見てね、平常ふだん優しい事の一言も言つて呉れる人が母親おふくろ父親おやぢや姉さんや兄さんの樣に思はれて、もう少し生て居たら誰れか本當の事を話して呉れるかと樂しんでね
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
きやうさん母親おふくろ父親おやぢからつきりあていのだよ、おやなしでうまれてがあらうか、れはうしても不思議ふしぎでならない、とやきあがりしもち兩手りやうてでたゝきつゝいつもふなる心細こゝろぼそさを繰返くりかへせば
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)