きらめ)” の例文
むしろ貴族的な美しさと、年たつほど、みがかれてくる教養美とが、以前とはちがった光をもって、化粧や黒髪のほかにきらめいてきた。
が、二人はこれからあのさびしい夜道を……空に星がきらめいているとはいえ、あの淋しい山道を、二里半もどうやって帰って行くのでしょうか?
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
仰向あおむい蒼空あおぞらには、余残なごりの色も何時しか消えせて、今は一面の青海原、星さえ所斑ところまだらきらめでてんと交睫まばたきをするような真似まねをしている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あの湯治階級とったような、男も女も、大島のそろいか何かを着て、金や白金プラチナや宝石の装身具を身体からだのあらゆる部分に、きらめかしているような人達が
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
浮んだ雲のちぎれの白く薄いものは全く黄金色こがねいろきらめき、黒く長く棚曳くものは濃い紫色になつた。中には其の一面だけ薔薇色に染められたのもある。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
寄木細工モザイクの広い廻り階段を導かれて登り、一つの部屋に到ると、開かれたとびらから、その部屋のたぐいなき壮麗さが全くぎらぎらときらめいて突然眼前に現われ
瓦破がばった治部太夫は、身軽く躍りあがって槍をとった。槍ざやはケシ飛んで、蒼白いきらめきが穂先四寸に放たれた。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
雲一つない鋼鉄色はがねいろの空には、鎗の穂よりも鋭い星が無数にきらめいて、降つて来る光が、氷り果てた雪路の処々を、鏡の欠片かけらを散らかした様に照して居た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
つるぎのようなものも、何千何百となくきらめいて、そこからまるで大風おおかぜの海のような、凄じいもの音が、河原の石さえ走らせそうに、どっとき返って参りました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今日でも我らの身の近くに、最も浄らかな二つの炎、正義の炎と自由の炎とがきらめくのを我らは先頃見た——ピカール大佐と、そしてブール国民とがそれである。
隊商カラバンに加わりて砂漠の夜の旅を続けし時の如き、彼の心は天にきらめく星の神秘に強く打たれたことであろう。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
太陽があざやかに初秋の朝をきらめかし始めた。ドーヴィル市の屋根が並べた赤、緑、灰色のうろこを動かして来た。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
デモクラシーの名とともにきらめく富の力はそれらの青年たちのまるで身近くまでちかづいて、クライドのようにそのなかに入ったように見えるところまで来て、さていざとなると
今日もまた暑くなるのだと見えて、ようやく白んだばかりなのに、きらめくような陽の色。
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
二月の宵の星がきらめきだした。その夜は、静かな微風に梅花のほのにおう闇だった。内蔵助はどこかでほっとしたことであろう。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天心まで透き徹るかとばかり瑠璃るり色に冴えて……南極圏近くにありながら、陽光はそこからまぶしく亜熱帯地方のごとくにきらめいているのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
星がきらめき出した。其の光は鋭く其の形は大きくて、象徴的しやうちようてきな絵で見る如く正しく五つの角々かど/\があり得るやうに思はれる。空は澄んで暗碧あんぺきの色は飽くまで濃い。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
此処から川下を眺めると、バンドに沿うた往来に、点々と灯がきらめいている。蘇州河の口に渡された、昼は車馬の絶えた事のないガアドン・ブリッジは見えないかしら。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
郊外の田舎にしては立派な多那川橋がお秀の貸船屋の前の淵から少し上手にきらめいて架かっています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たちまち暗雲風に開けて雲間に星辰せいしんきらめくを見て、そこにかすかなる希望を起すが如き状態である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
若かった父と小さい娘は或夕方それを楽器屋の店内で見て、大して大きいとも思わなかった。ところが、いよいよ家へ運び込まれて見ると、その黒光りの立派さ! 黒光りの上にきらめく大蝋燭ろうそくの美しさ。
美わしき宮殿のとびらきらめけり。
ただ樹の間からす秋の陽に、よろいの金小貫や太刀金具が身をゆるがすたびにきらめくため、それが甚だしく人の眼を射る。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九時四十五分の下の関急行に乗って、発車するまでぼんやり窓から眺めていますと、議事堂の裏手から麹町赤坂辺と覚しい高台にも、燈光が夜空にきらめいていました。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その大きな高い白帆のかげに折々眺望をさえぎられる深川ふかがわの岸辺には、思切って海の方へ突出つきだして建てた大新地おおしんち小新地こしんちの楼閣に早くもきらめめる燈火ともしびの光と湧起る絃歌げんかの声。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
摩利信乃法師は、今日も例の通り、墨染の法衣ころもの肩へ長い髪を乱しながら、十文字の護符の黄金こがねを胸のあたりにきらめかせて、足さえ見るも寒そうな素跣足すはだしでございました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
神と彼とただ二人相対して前者の声はきらめく神秘の星を通じて後者に臨んだのである。これ彼の実験的にあじわいし聖境にての聖感であった。星を見るも何ら感ずる所なしという人もある。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
その漂白性の光はこの座敷を洞窟のように見せるばかりでなく、光は客がはしで口からしごくさかなの骨に当ると、それを白の枝珊瑚さんごに見せたり、うずたかい皿のねぎの白味に当ると玉質のものにきらめかしたりする。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わたしはきらめきの流れから
ゆふべあかるい星は五ツ六ツともうきらめめて居る。自分はぢつと其の美しい光を見詰めて居ると、何時か云はれぬ詩情が胸の底から湧起わきおこつて来て殆ど押へ切れぬやうな気がする。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
吉浜村よしはまむらへ出る谷間道をへだてて、平家方は、星山の峰つづき一帯を陣地として、翩翻へんぽんと、旌旗せいきをたてならべた。遠目にも白くきらめくのは、その間を歩く長刀なぎなたや太刀などであろう。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
瀟灑しょうしゃな服飾を整え、豪華な邸を構え、家具調度に贅を尽し、宝石をきらめかし、文学を持ち、書籍と芸術とを愛好し、音楽を好み、詩を愛し、極めて優れた造形美術と野外劇とを有し
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
常陸側の首脳部と、将門方の軍使とが、国庁の広庭で会見したのは、その日の昼で、冬の冴えきった空に、陽がらんとしてきらめき、双方、いかめしく、床几を並べて、対峙した。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しのぎをけずり合う太刀、槍のひかりが、吠え合う軍隊の波間に、さながら無数の魚がねているようにきらめくのみで、もう武者のいでたち、母衣ほろの色、旗の影、敵味方すらもともすれば分らなかった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)