すずし)” の例文
いつも御写真に向ひ候へば、何くれと当時の事憶出おもひだし候中に、うつつとも無く十年ぜんの心に返り候て、苦き胸もしばしすずしく相成申候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
……もう、清いすずしいお方だと思いましたものを、……女ばかり居る処で、宿貸せなぞと、そんな事、……もう、私は気味が悪い。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一、長閑のどかあたたかうららか日永ひながおぼろは春季と定め、短夜みじかよすずしあつしは夏季と定め、ひややかすさまじ朝寒あささむ夜寒よさむ坐寒そぞろさむ漸寒ややさむ肌寒はださむしむ夜長よながは秋季と定め、さむし、つめたしは冬季と定む。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
風の当る処は肉が乾燥しますから料理の時に削り取らなければなりません。なるたけ風に当てないようなすずしい処がいいのです。西洋人の家には肉を入れる戸棚が出来ています。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
さらぬだに燃ゆるばかりなる満開の石榴ざくろに四時過の西日のおびただしく輝けるを、彼はわづらはしと目を移して更に梧桐ごどうすずしき広葉を眺めたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お鶴はすずしい目を下ぶせに、真中まんなかにすらりと立って、牛頭馬頭ごずめずのような御前立おんまえだちを、心置なく瞰下みおろしながら、仇気あどけなく打傾いて
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼はつひに堪へかねたる気色けしきにて障子を推啓おしあくれば、すずしき空に懸れる片割月かたわれづき真向まむきに彼のおもてに照りて、彼の愁ふるまなこは又したたかにその光を望めり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と、櫛巻くしまきの其の水々みずみずとあるのを、がつくりとひたいゆるばかり、仰いで黒目勝くろめがちすずしひとみじっと、凝視みつめた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今はこうと、まだ消え果てぬ夫人にすがると、なびくや黒髪、ぱっと薫って、つめたく、すずしく、たらたらと腕にかかる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なわての松が高く、蔭が出来てすずしいから、洋傘こうもりを畳んでいて、立場たてばの方を振返ると、農家は、さすがに有りのままで、遠い青田に、俯向うつむいた菅笠すげがさもちらほらあるが、藁葺わらぶきの色とともに
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御堂おどうは申すまでもありません、下の仮庵室かりあんじつなども至極しごくそのすずしいので、ほんの草葺くさぶきでありますが、と御帰りがけにお立寄たちより、御休息なさいまし。木葉きのはくすべて渋茶しぶちゃでも献じましょう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あでやかな顔は目前めさき歴々ありありと見えて、ニッと笑うすずしい目の、うるんだつゆも手に取るばかり、手を取ろうする、と何にもない。たなそこさわったのは寒いあさひの光線で、夜はほのぼのと明けたのであった。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白い手飾カフスの、あの綺麗な手で扱われると、数千の操糸を掛けたより、もっと微妙な、繊細な、人間のこの、あらゆる神経が、右の、厳粛な、緻密ちみつな、雄大な、神聖な器械の種々から、清い、すずし
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御新姐ごしんぞが、礼心れいごころで顔だけ振向いて、肩へ、おとがいをつけるように、唇を少し曲げて、そのすずしい目で、じっとこちらを見返ったのが取違えたものらしい。わたくしとこの客人と、ぴったり出会ったでありましょう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桂木は何時いつかうつら/\して居たが、ぱつちりとすずしい目をけた。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
久しぶりのお天気だし、すずしいし、紋着もんつきで散歩もおかしなものだけれども、ちょうどい。なかまで歩行あるいて、とうちを出る時には思ったんだが、時間が遅れたから、茶屋の角で直ぐに腕車くるまをそう言ってね。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すずしい事はこの辺が一等でして。」
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「夏はさぞすずしいでしょう。」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)