浜町はまちょう)” の例文
旧字:濱町
まだ少し時間は早かったが日本橋通りをぶらぶらするのも劇場の中をぶらぶらするのも大した相違はないと思って浜町はまちょう行のバスを待受けた。
初冬の日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その時、彼等の自動車はまだ浜町はまちょう辺にさしかかったばかりであったが、国技館の丸屋根はどんな遠方からでも見通しだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
といったが、てんで耳もかさず、くらから毛利もうりの屋敷のほうへ曲り、横丁をまわりくねりしたすえ、浜町はまちょう二丁目の河岸っぷちに近いところへ出た。
讃州高松さんしゅうたかまつ、松平侯の世子せいしで、貞五郎ていごろうと云ふのが、近習きんじゅうたちと、浜町はまちょう矢の倉のやしきの庭で、たこを揚げて遊んで居た。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「それじゃ仕舞ッてからでいからネ、何時いつもの車屋へ往ッて一人乗一挺いっちょうあつらえて来ておくれ、浜町はまちょうまで上下じょうげ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
宝暦紀元辛未しんびの年二十四歳にして始て江戸に来り芝三島町に家塾を開いたが宝暦十年二月の大火にい、身を以て免れ日本橋浜町はまちょう山伏井戸の近くに移居した。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
浜町はまちょう。そりゃァこのあめに、大抵たいていじゃあるまい。おまえさんがわざわざかないでも、ちょいと一こといてれば、いつでもうちの小僧こぞういにやってあげたものを」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
西浦賀の蛇畠町じゃばたけまちの先浜町はまちょうの処をくと陣屋のある処、やがて案内を以て目通りを願いたいと云うと、其の頃のお奉行は容易に目通りは出来んが、むこうも血筋だからして
それは前年の夏、兄や賀古かこ氏が、小出こいで大口おおぐち、佐佐木氏等を浜町はまちょうの常磐にお招きして、時代に相応した歌学を研究するために一会を起そうという相談をしたのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
浜町はまちょう千歳座ちとせざで九蔵の藤十郎、菊五郎の富蔵という役割でしたが、その評判が大層いいので、わたくしも見物に行って、今更のように昔を思い出したことがありました。
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
浜町はまちょう蔵前くらまえあたりの川岸かわぎしで、火におわれて、いかだの上なぞへとびこんだ人々の中には、どおし火の風をあびつづけて、生きた思いもなく、こごまっていた人もあり
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
参観すべき場所と云う標題みだしのもとには、山城町やまぎちょうの大連医院だの、児玉町こだまちょうの従業員養成所だの近江町おうみちょうの合宿所だの、浜町はまちょうの発電所だの、何だのかだのみんなで十五六ほどある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それでは、私のとっさんは、すぐそこの浜町はまちょうに居ります。行って相談してみましょうか」
抽斎は衣服を取り繕うひまもなく、せて隠居信順のぶゆきを柳島の下屋敷に慰問し、次いで本所二つ目の上屋敷に往った。信順は柳島の第宅ていたくが破損したので、後に浜町はまちょうの中屋敷に移った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
勤めのようにしております。今は日本橋にほんばし浜町はまちょうの娘の所で、達者で安楽にしている
三日に揚げずに来るのに毎次いつでも下宿の不味いものでもあるまいと、何処かへ食べに行かないかと誘うと、鳥は浜町はまちょう筑紫つくしでなけりゃア喰えんの、天麩羅は横山町よこやまちょう丸新まるしんでなけりゃア駄目だのと
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
浜町はまちょう菖蒲河岸あやめがしの御船御殿というのは、将軍家ふねなりの節に、御台所みだいどころづき大奥の女中たちが、よそながら陪観ばいかんするお数寄屋であったが、いつからか、そこにあでやかな一人の貴婦人が棲むようになり
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「栄蔵か、此の蚊帳は返すよ。浜町はまちょうの親父が来て、吊って寝ると云って持ってったが、蚊帳の外へ、養老しぼりの浴衣を着た、二十位の女が来て中をのぞいたそうだ。金は要らないから持ってってくれ」
沼田の蚊帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
浜町はまちょう、日本橋倶楽部。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
浜町はまちょうまで五拾銭ごじっせんだと言って、それから男の人はわたしの耳に口を寄せて、「あなた、毎晩銀座を歩くのか」ッていうのさ。わたしのことを街娼ストリートだと思ったのよ。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そんな会話のあいだに、車はいつしか、劇場から程近い浜町はまちょうの、とある意気な門構えの家へ着いていた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
浜町はまちょう細川邸ほそかわてい裏門前うらもんまえを、みぎれて一ちょうあまり、かど紺屋こうやて、伊勢喜いせきいた質屋しちやよこについてまががった三軒目げんめ、おもてに一本柳ぽんやなぎながえだれたのが目印めじるし
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
吉原の小浜屋(引手茶屋)が、焼出されたあと、仲之町なかのちょうをよして、浜町はまちょうで鳥料理を
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある日、浜町はまちょうの明治座の屋上から上野公園を眺めていたとき妙な事実に気がついた。それは上野の科学博物館とその裏側にある帝国学士院とが意外に遠く離れて見えるということである。
観点と距離 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
まだつれの侍が一人居りまするから、段々見えがくれに付いて参ると、浜町はまちょうへ出まして、れから大橋を渡りますると、また一人の侍は挨拶をいたして別れ、御船蔵前おふなぐらまえへ掛って六間堀の方へ曲りますと
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
瓢亭ひょうていだの、西石垣さいせきのちもとだのと、このひとが案内をしてくれたのに対しても、山谷さんや浜町はまちょう、しかるべき料理屋へ、晩のご飯という懐中ふところはその時分なし、今もなし、は、は、は、笑ったって
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうね。ちょっと浜町はまちょうへ行こうかと思ってるのよ。そら、昨夜ゆうべ話をした銀座のお客さ。わたしをストリートだと思って、連れて行ったお客さ。その時今夜来てくれって、約束したから。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「おかあさんのくすりいに、浜町はまちょうまでまいりました。」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
長吉は浜町はまちょうの横町をば次第に道の行くままに大川端おおかわばたの方へと歩いて行った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)