気色きしょく)” の例文
旧字:氣色
其法は夜中を以て両炬りょうきょもやし、人の形状気色きしょくて、参するに生年月日げつじつを以てするに、百に一びょう無く、元末より既に名を天下にせたり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いま何処どこに隠れているのだろう。覆面探偵青竜王は戦慄せんりつすべき吸血鬼事件に対しいまや本格的に立ち向う気色きしょくをみせている。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
顔色がんしょく生けるが如くにみえたので、県令はさてこそという気色きしょくでいよいよ厳重に吟味したが、王はなかなか服罪しない。
女侠伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
したのと聞いたら、着るにも気色きしょくが悪いと云って、良人だって着やしないし、わたしの意気だって届かないじゃないか
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分はすぐに顔を洗いに行った。不相変あいかわらず雲のかぶさった、気色きしょくの悪い天気だった。風呂場ふろば手桶ておけには山百合やまゆりが二本、無造作むぞうさにただほうりこんであった。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私はこらえかねて、母親の方に向き直って言うと、生酔なまえいに酔っぱらった越前屋の婆さんは、眼と眼との間に顔中の皺を寄せて、さもさも気色きしょくの悪そう
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
れたふんどしをぶら下げて、暑い夕日の中を帰ってくる時の気色きしょくの悪さは、実に厭世えんせいの感を少年の心に目醒めざめさせた。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
気色きしょくのはりもゆるみ、こしのはりもゆるんで、たばこ入れに手がでる。ようやく腰をかけて時候じこうの話もでる。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「お上さん、おめいの深切ぶりはもうしてくんな。俺あ痛くもねえ腹探られて、気色きしょくが悪くてならねえ。」
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
先刻彼がそれを望んでいるのを見て私がひどく気色きしょくを害したあの刑を、そこに持ってこようとつとめた。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
こう腹をめて見ると、サアモウ一刻も居るのが厭になる、借住居かとおもえば子舎へやが気に喰わなくなる、我物でないかと思えばふちの欠けた火入まで気色きしょくに障わる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「なにも尻込みをすることはなかろう。……それとも、俺がいちゃ気色きしょくが悪くて話も出来ねえか」
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
子供が泣きやんで笑顔をつくると、呪わしかったお松の気色きしょくも、忘れたように笑顔になりました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
従順なる家妻は敢てその事に不服をも唱えず、それらしい様子も見せなかったが、しかもその気色きしょくは次第に悪くなった。限りなき笑声の中に限りなき不安の情が充ち渡った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
良ッちゃんが、あんな男の嫁さんになるかと、思うただけで、背中がゾコゾコッとするわ。蜈蚣むかでと、蚯蚓みみずと、毛虫とが、一緒に襟元に飛びこんだみたいよ。おう、気色きしょくる。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼女は真面目まじめに取り合う緒口いとくちをどこにも見出みいだす事ができないのみならず、長く同じ筋道を辿たどって行くうちには、自然気色きしょくを悪くした様子を外に現わさなければすまなくなった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鶴「お止しよ、酒を飲むと本当にひちっくどい、気色きしょくが悪いからいやだよ、ちっとお慎しみ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ああうれしい事をした。このラサという所ほど気色きしょくの悪い腹の立つ所はない。一体ラサという所は餓鬼がきの住む所だ。悪魔の住む所だ。おれはもうこんな所に来ないぞといって願いを
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
父はもう服を改め、顔を洗ったあとのさっぱりした気色きしょくで、母の肘掛椅子ひじかけいすのそばにこしを下ろして、持ち前のなだらかな響きのいい声で、『討論新聞ジュルナル・デ・デパ』の雑録欄ざつろくらんを読んでやっていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「うちらも自転車にのれたらええな。この道をすうっと走りる、気色きしょくがええじゃろ」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「それにしてもあのは、どうしてここに入って来たのでしょう。気色きしょくの悪い……」
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あけ放った窓から、涼しい風が吹きこんでくるが、早くも夏が来たような暑さだったから、汗ばんだ肌を海風はねばつかせて、気色きしょくが悪い。俺がいささか不機嫌だったせいもあろうか。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
その日は一日気色きしょくの悪い日で、店から来た束髪の女ともあまり口を利かなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一々お前にさからって済まねえが、——今朝っから気色きしょくの悪いことが続くんだよ、家主おおや親仁おやじがやって来て、立退く約束で家賃を棒引にした店子たなこが、此方の足元を見て、てこでも動かねえから
ジュリアはすこしあおざめただけだ。さして驚く気色きしょくもなく、化粧鏡をうしろにして、キッと痣蟹を見つめたが、朱唇しゅしんを開き
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
兄弟子が横眼でじろじろ視ているので、彼は気色きしょくのわるいのを我慢して冠蔵の師直と無事に打ち合わせをすませた。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
数右衛門はちょっと気色きしょくに障った。別れたら独りで何処どこかで飲もうと胸算むなざんしていた当てが外れたからである。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「変な気は変な気でげすよ、変った気色きしょくでげすな、いわば正しからざる気分でげしょう、正は変ならず、変は正ならず、変は通ずるの道なり、君子の正道じゃあがあせん」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし不思議な事に、この態度は、しかつめらしく彼の着席を待ち受ける座蒲団や、二人の間をくためにわざと真中に置かれたように見える角火鉢かくひばちほど彼の気色きしょくさわらなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仙「じゃア然う仕様が、何だか気色きしょくが悪くっていけねえから酒を買って来てくれ」
この時は僧侶にとってはラサ府に居って一番気色きしょくのよい時で、どこへ行っても美しい。平生へいぜいは僧侶でも婦人でもちょっとつくもって垂流たれながしをやるですが、この時はそういう訳に行かんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
父の信用を恢復とりかえせそうなのと、母親に鼻をあかさせるのが、気色きしょくが好かった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
横目の山村十郎右衛門はさすがに気色きしょくを損じ、苦い顔で帰って行った。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「あんなものを見たんで、すっかり気色きしょくがわるくなってしまったよ。」
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
涙を払ひて両袖をかき抱き、あはや海中に身を投ぜむ気色きしょくなり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
気色きしょくが悪いのじゃなくて。」
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
気色きしょくの悪い魔じゃ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
学者たちは、さきほどの気色きしょくもどこへやら、その場にはいまわる者もあり、あるいは階段をかけあがる者もあった。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いや、座中、ことごとくの顔が、あきらかに、はっと気色きしょくをなし、凝視ぎょうしを、越前守の身一つにあつめた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵馬を、さしまねいた仏頂寺弥助の気色きしょくなんとなく穏かならず、どういう料簡りょうけんか、近づく兵馬を尻目にかけて、腰なる刀を抜いて青眼に構えたのは、意外でもあり、物騒千万でもある。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
要するに女は先刻より大変若く見えたのである。切に何物かを待ち受けているその眼もその口も、ただ生々いきいきした一種はなやかな気色きしょくちて、それよりほかの表情はごうも見当らなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
年寄はこれだからいかぬと、内心はすこぶる不平であったが、滅多めったな抗議を申し込むとまた気色きしょくるくさせる危険がある。せっかく慰めに来ていつも失策をやるのは余り器量のない話だ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神尾主膳も一議に及ばず、びたの勧誘に応じて出動したくらいですから、最初のほどはかなり気をよくして、ブラブラ歩き出したものですが、そのうちに、またも気色きしょくを悪くしてしまいました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と博士たちがおどろけば、ロロー殿下は別におどろいた気色きしょくもなく
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
で、はなはだ、かれの気色きしょくがうるわしくない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
津田は少し悪い気色きしょくを外へ出した。小林は平気であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
相撲取が、急に気色きしょくを変えました。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
謎の女はいよいよ気色きしょくが悪くなった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)