歴々あり/\)” の例文
別れて帰る時に、丁寧に草津から伊香保の方へ出て行く路をその父親は教へて呉れたが、その親切は今だにKの頭に歴々あり/\と思ひ出されて来た。
田舎からの手紙 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
と云へる有様の歴々あり/\と目前に現はれ、しかもせふの位置に立ちて、の言葉を口にしようし、りようをしてつひ辟易へきえきせしめぬ。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
すると思ひがけなく、その切符には彼自身の切符と同じく、△△△から東京迄と云ふ字が、歴々あり/\と読まれたのである。
海の中にて (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
その地肌の上に歴々あり/\と大きな足袋裸足の跡と思われる型が、石子刑事を嘲けるように二つ並んでついていた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ゆきよりしろく、透通すきとほむねに、すや/\といきいた、はいなやむだ美女たをやめ臨終いまはさまが、歴々あり/\と、あはれ、くるしいむなさきの、ゑりみだれたのさへしのばるゝではないか。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なんだか、へだて或物あるものてつして、直接ぢかわたしせつしてやうとする様子やうすが、歴々あり/\素振そぶりえる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
犯人がわからないばかりでなく、何の目的で選り拔きの美しい娘ばかり殺すのか、皆暮かいくれ見當も付かないのです。その上死體は、洗ひ落してはあるが、歴々あり/\と全身に金箔きんぱくを置いたあとがあります。
ア見たまえそれ血の文字が歴々あり/\と残ッて居る
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
通つて来た長い間の人生のあとが、眉にも、額にも、髪にも、姿にも歴々あり/\とあらはれて見えた。私は悲しい気がした。
ある日 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
が、チラリと美奈子の顔を見た眼には美奈子の少女らしい優しい好意に対する感謝の情が、歴々あり/\と動いてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
現在げんざいるのに、看護婦かんごふさんにも、だれにもさへぎりません……うかすると、看護婦かんごふさんのしろ姿すがたが、まして、女性をんなの、衣服きものなか歴々あり/\けて歩行あるいたんです。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
取逃がした日の事が歴々あり/\と思い出されて、それからの苦しい四晩の徹夜、それから今日までの苦心の数々が、なんだか遠い昔から続いているように石子刑事に思われたのだった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
『うむ、ちよつとお詣して来た。もう度々来るには来たんだけども——』かう言つた正木の眼には、さつき汽船から上つてからのことが歴々あり/\と浮んで来た。
船路 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
所詮しよせんかうじて、眞暗まつくらがり。てのひらえいでも、歴々あり/\と、かげうつる、あかりしてもおなことで。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さう思ふと、信一郎の瞳にあざやかな夫人の姿が、歴々あり/\と浮かんで来た。彼は一刻も早く、夫人に逢ひたくなつた。其処へ、彼のさうした決心を促すやうに、九段両国行きの電車が、きしつて来た。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
下野國志に、室の八島の夕暮の炊煙に包まれたさまを描いた揷繪が一枚入つてあるが、それを見ると、昔の旅行のさまが歴々あり/\と私の眼の前に浮んで見えるやうな氣がした。
日光 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
して水上みなかみは、昨日きのふ孤家ひとつや婦人をんなみづびたところおもふと、せい女瀧めだきなかのやうな婦人をんな姿すがた歴々あり/\、といてると巻込まきこまれて、しづんだとおもふとまたいて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と絶叫した青年の面影が、又歴々あり/\と浮かんで来た。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
かの女の顔にも艱難を経て来たもののみが知ることの出来る恋の満足が歴々あり/\と覗かれた。
山間の旅舎 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
あでやかなかほ目前めさき歴々あり/\えて、ニツとわらすゞしの、うるんだつゆるばかり、らうする、となんにもない。たなそこさはつたのはさむあさひ光線くわうせんで、はほの/″\とけたのであつた。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
続いて停車場にかけてある大きな女の額が不思議にも私の眼に歴々あり/\と見えて来た。
百日紅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
なげきもがいた苦悶の子といふことが歴々あり/\と解る。
文壇一夕話 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)