歌麿うたまろ)” の例文
どうでも今日は行かんすかの一句と、歌麿うたまろが『青楼年中行事』の一画面とを対照するものは、容易にわたくしの解説に左袒さたんするであろう。
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこで選択の自由のきく細い目のうちで、理想ができてしまったのが、歌麿うたまろになったり、祐信すけのぶになったりして珍重がられている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうすると、ちょうど荷物の包み紙になっていた反古ほご同様の歌麿うたまろ広重ひろしげが一躍高貴な美術品に変化したと同様の現象を呈するかもしれない。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
歌麿うたまろの『風俗三段娘』は、上品之部、中品之部、下品之部の三段に分れているが、当時の婦女風俗を上流、中流、下流の三に分って描いている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
その画がまがいもない歌麿うたまろの筆であったことは、その後見た同じ描者かきての手に成った画のしなやかな線や、落着きのいい色彩から推すことができた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
歌麿うたまろなぞいやですが、広重ひろしげの富士と海の色はすばらしい。そのあいのなかに、とけこむ、ぼくの文章も青いまでに美しい。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
歌麿うたまろがかったものにも色気を出す、大雅堂たいがどう竹田ちくでんばたけにもくわを入れたがる、運が好ければ韓幹かんかんの馬でも百円位で買おう気でおり、支那の笑話しょうわにある通り
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
或いは年中作り物のような複雑な頭をして、かさ手拭てぬぐいもかぶれなくしてしまったのは、歌麿うたまろ式か豊国とよくに式か、とにかくについこの頃からの世の好みであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
歌麿うたまろからずっと後になって江戸浮世絵の最も官能的描写に成功したあの一勇斎國芳いちゆうさいくによしの画いたアブナ絵が眼の前に生命を持って出現したかのような情景だった。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
* 浮世絵の哲学は或る頽廃たいはい的なる官能の世界に没落し、それと情死しようとするニヒリスティックなエロチシズムで、歌麿うたまろ春信はるのぶが最もよく代表している。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
小肥こぶとりに肥った、そのくせどこか神経質らしい歌麿うたまろは、黄八丈きはちじょうあわせの袖口を、この腕のところまでまくり上げると、五十を越した人とは思われない伝法でんぽうな調子で
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
春信はるのぶ春章しゅんしょう歌麿うたまろ国貞くにさだと、豊満な肉体、丸顔から、すらりとした姿、脚と腕の肉附きから腰の丸味——富士額ふじびたい——触覚からいえば柔らかい慈味じみのしたたる味から
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
日本人はいつでも外国人に率先される。写楽しゃらく歌麿うたまろ国政くにまさ春信はるのぶも外国人が買出してから騒ぎ出した。
蒼白くき通つた細面で、少し病的な感じではあるにしても、ローランサンの描く——いや/\後の世の浮世繪師うきよゑし喜多川歌麿うたまろが、古今の傑作『青樓せいろう十二時』に寫した、肉の倦怠けんたいと、歡樂の哀愁を
フランス王朝風、支那しな宮女風、カルメン風、歌麿うたまろ風など、あらゆる艶麗えんれいまたは優美の限りをつくした衣裳が、次々に舞台の上で、精妙な照明の変化のまにまに、静々しずしずと着用されてゆくのであつた。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
歌麿うたまろ遊女いうぢよえり小桜こざくらがわがからかさにとまり来にけり
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
まるで歌麿うたまろの女である。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
また歌麿うたまろの版画の
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
歌麿うたまろ
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
春章しゅんしょう写楽しゃらく豊国とよくには江戸盛時の演劇を眼前に髣髴ほうふつたらしめ、歌麿うたまろ栄之えいしは不夜城の歓楽に人をいざなひ、北斎ほくさい広重ひろしげは閑雅なる市中しちゅうの風景に遊ばしむ。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大昔から何度となく外国文化を模倣しのみにして来た日本にも、いつか一度は光琳こうりんが生まれ、芭蕉ばしょうが現われ、歌麿うたまろが出たことはたしかである。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
日本にラファエルとかヴェラスケスのような人間が出て、西洋に歌麿うたまろや北斎のごとき豪傑があらわれるでしょうか。ちと無理なようであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中には以前磯野から受け取った手紙を封じ込んだ背負しょげや、死んだ叔母から伝わった歌麿うたまろの絵本などがあった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
例えば歌麿うたまろの絵画をみて、彼のイデヤがエロチシズムへのなまめかしき没落であることを、明らかにはっきりと知り得るように、芸術の場合に於ては、表現のみが真実のイデヤを語る。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
国貞くにさだの女が清長きよなが歌麿うたまろから生れたのはこういう径路けいろを取っている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
春章しゅんしょう写楽しゃらく豊国とよくには江戸盛時の演劇を眼前に髣髴ほうふつたらしめ、歌麿うたまろ栄之えいし不夜城ふやじょうの歓楽に人をいざなひ、北斎広重は閑雅なる市中しちゅうの風景に遊ばしむ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
絵葉書ぐらいの大きさの厚紙の一面には、歌麿うたまろの美人が好い色に印刷されている。一面には中村是公同夫人連名で、夏目金之助を招待している。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これだけのわずかな要点を抽出して考えても歌麿うたまろ以前と以後の浮世絵人物画の区別はずいぶん顕著なものである。
浮世絵の曲線 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
歌麿うたまろや、広重ひろしげや——は、画家と言うよりはむしろ詩人に属している。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
歌麿うたまろも『婦女相学十躰ふじょそうがくじったい
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
北斎は初め勝川春章かつかわしゅんしょうにつきて浮世絵の描法を修むるのかたわら堤等琳つつみとうりんの門に入りて狩野かのうの古法をうかがひ、のちみずか歌麿うたまろの画風を迎へてよくこれを咀嚼そしゃく
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
例えば光琳こうりんの草木花卉かきに対するのでも、歌麿うたまろ写楽しゃらくの人物に対するのでもそうである。こういう点で自分が特に面白く思うのは古来の支那画家の絵である。
すると小宮君が歌麿うたまろ錦絵にしきえを葉書にったのを送ってくれた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兄エドモン・ド・ゴンクウルは弟ジュウルの歿後ぼつごそのよわいようやく六十に達せんとするの時、あらたに日本美術の研究に従事しまず歌麿うたまろ北斎ほくさい二家の詳伝を編纂へんさんせり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
われわれは広重ひろしげでも北斎ほくさいでも歌麿うたまろでもそれぞれに特有な取り合わせの手法を認めることができるであろう。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今にドイツとか米国とかでだれかが歌麿うたまろ北斎ほくさいを発見したように灸治法の発見をして大論文でも書くようになれば日本でも灸治研究が流行をきたすかもしれないと思われる。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼ら江戸の戯作者いくつになつても色つぽい事にかけては引けを取らず。浮世絵師について見るに歌麿うたまろ吉原青楼よしわらせいろう年中行事』二巻の板下絵はんしたえを描きしは五十前後即ち晩年の折なり。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あるいはまた歌麿うたまろの浮世絵から味うような甘い優しい情趣に酔わせるからであった。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
歌麿うたまろ以前の名家の絵をよくよく注意して見るとまげびんの輪郭の曲線がたいていの場合に眉毛まゆげと目の線に並行しあるいは対応している。くしの輪郭もやはり同じ基調のヴェリエーションを示している。
浮世絵の曲線 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自分は春信はるのぶ歌麿うたまろ春章しゆんしやうや其れよりくだつて国貞くにさだ芳年よしとしの絵などを見るにつけ、それ等と今日の清方きよかた夢二ゆめじなどの絵を比較するに、時代の推移は人間の生活と思想とを変化させるのみならず
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そういうわけで裾から上だけをかいた歌麿うたまろの女などが、こせつかない上品な美しさを感じさせるのではあるまいか。写楽しゃらくのごとき敏感な線の音楽家が特に半身像を選んだのも偶然でないと思われる。
浮世絵の曲線 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
広重ひろしげ歌麿うたまろが日本の風土と人間を描写したような独創的な見地から日本人とその生活にふさわしい映画の新天地を開拓し創造するような映画製作者の生まれるまでにはいったいまだどのくらいの歳月を
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
光琳こうりん歌麿うたまろ写楽しゃらくのごとき、また芭蕉ばしょう西鶴さいかく蕪村ぶそんのごときがそれである。彼らを昭和年代の今日に地下より呼び返してそれぞれ無声映画ならびに発声映画の脚色監督の任に当たらしめたならばどうであろう。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それは芭蕉翁ばしょうおう歌麿うたまろとである。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)