くわん)” の例文
くわんの上に刻まれたその小さな王子と王女との寝像ねざうの痛いけなのに晶子は東京に残して来た子供等を思ひうかべて目を潤ませて居るらしい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
伊勢屋新兵衞の顏には、一しゆん躊躇ちうちよの色が浮びましたが、思ひ定めた樣子でくわんの側に近づくと、暫く物も言はずに突つ立つて居りました。
その雪途ゆきみちもやゝ半にいたりし時猛風まうふうにはかにおこり、黒雲こくうんそら布満しきみち闇夜あんやのごとく、いづくともなく火の玉飛来りくわんの上におほひかゝりし。
其後そのご雲飛うんぴ壮健さうけんにして八十九歳にたつした。我が死期しききたれりと自分で葬儀さうぎ仕度したくなどをとゝの遺言ゆゐごんして石をくわんおさむることをめいじた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
くわんがゲィツヘッド教會の地下室の納棺所にはこばれたその日から、私達はお互にまるで知らない人同志だつたやうに離れ/″\になるのです。
くわんを求める事すら出来なくなつてゐる、自分達の落ちぶれを厭なものに思つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
魂祭たまゝつぎて幾日いくじつ、まだ盆提燈ぼんぢようちんのかげ薄淋うすさびしきころ新開しんかいまちいでくわん二つあり、一つはかごにて一つはさしかつぎにて、かごきく隱居處いんきよじよよりしのびやかにいでぬ、大路おほぢひとのひそめくをけば
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
くわんわづかひとはうむられた。それでも白提灯しろぢやうちん二張ふたはりかざされた。だけ格子かうしんでいゝ加減かげんおほきさにるとぐるりと四はうを一つにまとめてくゝつた花籠はなかごも二つかざされた。れも青竹あをだけけられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
生木なまきくわん裂罅ひびる夏の空気のなやましさ。
心の姿の研究 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
もうくわんの前でごたごただ。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
火の中に尾はふたまたなる稀有けうの大ねこきばをならしはなをふきくわんを目がけてとらんとす。人々これを見て棺をすて、こけつまろびつにげまどふ。
離屋の中に入つて、嚴重に雨戸を締めさせた平次は、暫くは、物音一つ立てずに、くわんの中に入つた佛樣のやうに、全く靜まり返りました。
リード氏がくなつてから九年になる。彼はこの室で息を引き取つた。こゝに、彼は安置され、こゝから、彼のくわんは葬儀屋の手によつて運び出された。
三四年前反対派の大騒ぎがあつて改葬されたゾラのくわんはユウゴオと同じがんの中にむかひ合せに据ゑられて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
はかは府にちかき四ツ辻といふ所に定め、 御くわんをいだしけるに途中とちうにとゞまりてうごかず、すなはちその所に葬り奉る、今の 神庿しんべう是なり。
曲者がくわんへ脇差を突つ込んで、逃げ出したとすれば、三百人の客の中へ——幕の端からパツと出て飛び込むか、彌太郎父子や番頭達の居るところへ、極めて自然に
一室にルイ十一世の夭折した二人の子を合葬した大理石のくわんが据ゑてあつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その雪途ゆきみちもやゝ半にいたりし時猛風まうふうにはかにおこり、黒雲こくうんそら布満しきみち闇夜あんやのごとく、いづくともなく火の玉飛来りくわんの上におほひかゝりし。
それは兎も角として、先刻さつきまで紋附姿で多勢の客に愛嬌を振り撒いて居た主人の藤屋彌太郎は、この時麻裃あさがみしもに着換へて、正面壇上に据ゑた、ひのきくわんの中に納まりました。
火の中に尾はふたまたなる稀有けうの大ねこきばをならしはなをふきくわんを目がけてとらんとす。人々これを見て棺をすて、こけつまろびつにげまどふ。
「小判のやうだね、いくら佛樣の大好物でも、おくわんの前に小判を飾るのは變だね」
はかは府にちかき四ツ辻といふ所に定め、 御くわんをいだしけるに途中とちうにとゞまりてうごかず、すなはちその所に葬り奉る、今の 神庿しんべう是なり。
まだくわんにも納めず、煎餅せんべい布團の上へ北枕に寢かし、二枚折屏風びやうぶを逆樣に、手習机を据ゑて駄線香をフンダンにいぶし乍ら、松五郎はその前に神妙に膝小僧を揃へ、ポロポロと涙をこぼしては
隱居勘兵衞のくわんを据ゑて、型の如く飾つた奧の八疊の隣、納戸代りに使つて居る長四疊には、當主勘五郎の伜勘太郎、たつた十歳とうなつたばかりの一粒種が、無慙むざんな死骸になつて横たはつて居たのです。
娘の死骸は、檢屍が濟んで、くわんの中に納めてありますが、一度覗いて、平次もゾツと身體を顫はせました。鈍器どんきで頭を打ち割られた美女の死體は、此上もなく、平次の感じ易い心持を暗くしたのです。
井筒屋に關係した男女全部を主人のくわんの前に集めました。