栗毛くりげ)” の例文
最初のっけから四番目まで、湧くような歓呼のうちに勝負が定まって、さていよいよおはちが廻って来ると、源は栗毛くりげまたがって馬場へ出ました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
太郎は、そこを栗毛くりげの裸馬にまたがって、血にまみれた太刀たちを、口にくわえながら、両の手に手綱たづなをとって、あらしのように通りすぎた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
最新輸入の新しい型の自動車と交っては、昔ゆかしい定紋じょうもんの付いた箱馬車に、栗毛くりげ駿足しゅんそくを並べて、優雅に上品に、きしらせて来る堂上華族も見えた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その大将め、はるか対方むこう栗毛くりげの逸物にッてひかえてあったが、おれの働きを心にくく思いつろう、『あの武士さむらい、打ち取れ』と金切声立てておッた
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
明日あした、柵のうまや栗毛くりげを曳いて、横山ノ牧へ、行てくだされ。こちらの牝馬めすうまの栗毛へ、横山の名馬と評判のたかい牡馬おすうまのタネを、もろうて来るのじゃ。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
栗毛くりげこまたくましきを、かしらも胸もかわつつみて飾れるびょうの数はふるい落せし秋の夜の星宿せいしゅくを一度に集めたるが如き心地である。女は息を凝らして眼をえる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
栗毛くりげの馬の平原は狂人を載せてうねりながら、黒い地平線を造って、潮のように没落へとあふれていった。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
あゝ、ロバァト! 今日は。よく憶えてゐますよ。あなたはヂョウジアァナさんの栗毛くりげ仔馬こうまに時々私を
濃い栗毛くりげの髪を額に乱し、曇った色つやをし、眼の鋭い顔のやつれた、少しもきれいでない若い女が、なんの用かと彼に尋ねた。疑念をいだいてるらしい様子だった。
能登守が立って見ている馬は、今まで見て来た馬のうちでいちばん強そうな栗毛くりげの馬でありました。
第一番目の眼鏡をのぞくと、昔の鎧武者よろひむしや栗毛くりげの馬にまたがつてけてくるところが見えました。
のぞき眼鏡 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
緩端えんばた平伏へいふくしたる齋藤茂頼、齡七十に近けれども、猶ほ矍鑠くわくしやくとしてすこやかなる老武者おいむしや、右の鬢先より頬をかすめたる向疵むかふきずに、栗毛くりげ琵琶びはもゝ叩いて物語りし昔の武功忍ばれ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
たとえば年寄りの栗毛くりげなどは、馭者ぎょしゃのアントンのむちを横っ腹へ食らいはしまいかとたえずびくびくしながら、乾草の山をかき分けているのですが、これは馬のことですから
大坪流の古高新兵衛はたくましい黒鹿毛くろかげ、八条流の黒住団七は連銭葦毛れんせんあしげ、上田流の兵藤十兵衛は剽悍ひょうかんな三さい栗毛くりげ、最後に荒木流の江田島勘介は、ひと際逞しい鼻白鹿毛はなじろかげに打跨りつつ
山木が車赤坂氷川町ひかわちょうなる片岡中将の門を入れる時、あたかも英姿颯爽さっそうたる一将軍の栗毛くりげの馬にまたがりつつで来たれるが、車の駆け込みしおとにふと驚きて、馬は竿立さおだちになるを
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
平吾は栗毛くりげの馬に乗って、放牧場の枯草の中を一直線に駆けていった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
主の言葉にると、ゼーロンの最も寛大な愛撫者あいぶしゃであった私が村住いを棄てて都へ去ってから間もなく、この栗毛くりげ牡馬おすうまは図太い驢馬の性質に変り、打たなければ決して歩まぬ木馬の振りをしたり
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
みじかつた栗毛くりげ光沢つやから
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
どれも栗毛くりげの馬の顔である。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
栗毛くりげ仔馬こうま走らせし
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あき落葉おちば栗毛くりげ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
そのとたんに、太郎は、足をあげて、したたか栗毛くりげの腹をった。馬は、一声いななきながら、早くも尾を宙に振るう。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これより両家の間は長く中絶えて、ウィリアムの乗りれた栗毛くりげの馬は少しく肥えた様に見えた。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一頭の栗毛くりげむちが上った。馬は闇から闇へ二人を乗せて、奴国の宮を蹴り捨てた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
四白というのは、鹿毛かげ栗毛くりげをとわず、馬の四つ脚のひづめから脛に、そろって、白い毛なみを持っている特徴をいうのである。ごくまれにしかないが、あれば、不吉ふきつだと、むかしからいわれている。
そして、馬に鞍を置いてしまうと、正勝と平吾へいご松吉まつきちの三人の牧夫は銘々に輪になっている細引を肩から袈裟けさにかけた。そして、正勝は葦毛あしげの花房に、平吾は黒馬あおに、松吉は栗毛くりげにそれぞれまたがった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
するとある農家の前に栗毛くりげの馬が一匹つないである。それを見た半之丞はあとことわればいとでも思ったのでしょう。いきなりその馬にまたがって遮二無二しゃにむに街道を走り出しました。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いまはめたが、検非違使けびいしをしていたみなもと為義ためよし。知ってるだろう。大治たいじ五年、あの人が、延暦寺えんりゃくじ堂衆どうしゅうの鎮圧にのり出したとき、四白の栗毛くりげにのっていた。相模栗毛さがみくりげとよんで、人も知るかれの愛馬だ。
するといつか白ズボンの先には太い栗毛くりげの馬の脚が二本、ちゃんともうひづめを並べている。——
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、また雪のようなあわが、栗毛くりげの口にあふれて、ひづめは、砕けよとばかり、大地を打った。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼の脚は復活以来いつのにか馬の脚に変っていたのである。指の代りにひづめのついた栗毛くりげの馬の脚に変っていたのである。彼はこの脚を眺めるたびに何とも言われぬなさけなさを感じた。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
薄明うすあかりの中にも毛色の見える栗毛くりげの馬の脚をあらわしている。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)