最中さなか)” の例文
僕達は寒い最中さなかに上野を立った。僕達は皆んな炭坑労務者の記号のついた腕章を巻いていたが、誰もが気恥ずかしそうにしていた。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
ロレ さうした過激くわげき歡樂くわんらくは、とかく過激くわげきをはりぐる。煙硝えんせうとが抱合だきあへばたちま爆發ばくはつするがやうに、勝誇かちほこ最中さなかにでもほろせる。
昨夜の睡眠不足や今日釣臺に跟いて暑い最中さなかを氣を遣ひながら歩いた其等の疲勞がだん/\と出て來るやうに覺えた。今朝家を出掛ける時
村の人々の頭に喚起よびおこされたが、その最中さなかに突然、一知青年が自宅から本署へ拘引されて行ったので、村の人々は青天の霹靂へきれきのように仰天した。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
したが、はゞかりながら、当時敵味方乱軍の最中さなかでござりまして、わたくしの外には誰一人もそれを知っている者はござりませぬ
時はもう冬の最中さなかで故郷に近づくに従って天気は小闇おぐらくなり、身を切るような風が船室に吹き込んでびゅうびゅうと鳴る。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
おそらく大革命の騒ぎの最中さなかでも、世界大戦の混乱と動揺どうようの中でも、食事の時だけはこういう態度を持ち続けたであろう。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こういう混雑の最中さなかですから随分喧嘩けんかが起らなくてはならんはずですが、奇態きたいにこの場合には喧嘩をしない。表面うわべだけは誠におとなしくやって居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
丁度自分が、お祖父樣ぢいさま父樣とうさま母樣かあさま姉樣ねえさま一所いつしよに、夕餐ゆうげ團欒まどゐ最中さなかに、此の聲が起るのだからたまらない。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
まさに、あれやこれの、最中さなかなのである。ご焦慮しょうりょもいちばいだった。ついに、右大弁うだいべん宰相さいしょう清忠を召されて
同行の麗水れいすい秋皐しゅうこう両君と一緒に、見物人を掻き分けて臆面もなしに前へ出ると、神楽は今や最中さなかであった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ちょうど神意審問の会が始まっている最中さなかだったそうですが、その時易介が裏玄関の石畳の上に立っていると、ふと二階の中央で彼の眼に映ったものがありました。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その忙しい最中さなかに、屋台のおやじは小皿に汁を取って味見をしている。幾分わざとらしい感じもするその手付に、私たちはなんとなく眼をやっていた。やがてドサ貫が
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
私達が友達同士でざるを持つて「野のひろ」つみ芹摘せりつみに來られるやうになつた頃は、シラチブチは眞ん中だけ殘してかわいてゐた。どんな土用の最中さなかにも淺いけれど水は有つた。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
忘れもしねえ、暑い土用の最中さなかに、ひもじい腹かかえて、神田から鉄砲洲まで急ぎの客人を載せって、やれやれと思って棍棒を卸すてえとぐらぐらと目がまわって其処へ打倒ぶったおれた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
恐らく此の女は、男湯の騒ぎの最中さなかに殺されたものであろう。そう想う人々の面に、何がなし深い恐怖と不安がただよい初めたのを、赤羽主任も一通り看取かんしゅする余裕を持っていた。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「今を何時だと思ってるんだろう。闘牛季節トロスシーズンの忙しい最中さなかに、貧乏たらしい風彩みなりをして、泊めてくれとはく云えたものだ。俺が慈善家でなかったなら一も二も無くことわったのだ」
闘牛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
部分は部分において一になり、全体は全体において一とならんとする大渦小渦鳴戸なるとのそれもただならぬ波瀾の最中さなかに我らは立っているのである。この大回転大軋轢あつれきは無際限であろうか。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
鶫を射止めるということはたとえ油囀りの最中さなかの動かぬ姿勢であったにせよ、細かくふるえるはしばみの枝の中では、枝をくぐってひとなみの技では容易に射止められるものではなかった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
駄夫は往来へ突つ立つて、白い光の敷き詰めた路の最中さなかに踊るやうな様をしながら、二階の窓際に佇んで彼を見送る与里を見上げ、真上に拡がる莫大な渺茫びょうぼうとした蒼空を指し示してみせた。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
子供達のよろこんでいる最中さなかに出て行って、その会の主人公であるセエラに、お前はもう乞食になり下ったのだ、父の喪のためちんちくりんの黒い服に着かえなければいけない、というのは
ほそくのみ月の見え來る短夜みじかよをまだ最中さなかなり落ちしきるもの
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
冬の最中さなかであった故
胚胎 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
パリス かういふ愁傷なげき最中さなかには祝言しうげんはなし出來できまい。おうちかた、おさらばでござる。娘御むすめごによろしうつたへてくだされ。
夏の最中さなかのこととて彼は裸でいるので、その見苦しさは覆うところなく人目を寒気立した。痛みが襲って来ると彼はその姿でベッドの上でもがき苦しむ。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
とはいえ、その道誉、その高時、側臣すべてが、昼からの深酒で、泥の如くみな大酔していた最中さなかの出来事だったのだ。いわば誰ひとり正気なわけではない。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「みんながうまそうに食べている最中さなかに、こんな話は禁物だ。また今度話すことにしよう。」
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そうしたら「そうだね、それはやがて一週間程すると僕の四十九日が来るから、その時に一つ出して貰いたい」こういう話でした。ところが一週間後の四十九日という日は、八月の最中さなかです。
その翌る朝のまだ薄暗いうちの事だ。ポートサイドで札ビラを切っている夢か何か見ている最中さなかに、今の推進機スクリュウの中軸になっている、一番デッカイ長い円棒シャフトが、中途からポッキリと折れたもんだ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いそがしいそれ等の人々の手に、色々の仕事を供給している最中さなかであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ほそくのみ月の見え来る短夜みじかよをまだ最中さなかなり落ちしきるもの
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「わしのかえるころはもう夏の最中さなかであろう。」
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
宋江は無事一ト足先に着いていたし、ほかの幕僚なかまも、続々、たどりついて来つつある最中さなからしい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時は冬の最中さなかで、気候も甚だ寒かったので、今ごろ蛇の出る筈はないと、書生はかずにその沼へさしかかった。行くこと二十里余、たちまち大蛇があらわれて書生のあとを追って来た。
ところがその最中さなかにも、その私の空っぽのあたまを決定的に支配し指導しつつ、絶えず重大な暗示を与え続けていた、神秘的なあるものがあった。そのあるものの洞察力は透徹そのものであった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まだ事変の最中さなかに、博多はかた宗湛そうたんとともに、京都を立ち、その宗湛と、よどの船つき場でわかれて、さかいへ急いでいた茶屋四郎次郎は、りつける田舎いなか道の炎天を枚方ひらかたから二里ほども来ると
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旧暦に依るこの土地では、正月はあたかも大雪の最中さなかである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
尊氏もまだそこへ床几しょうぎをさだめたばかりの混雑最中さなか
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)