かか)” の例文
しかなおこれは真直まっすぐに真四角にきったもので、およそかかかくの材木を得ようというには、そまが八人五日あまりも懸らねばならぬと聞く。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かかる田舎の習慣ならはしで、若い男は、忍んで行く女の数の多いのを誇りにし、娘共も亦、口に出していふ事は無いけれ共、通つて来る男の多きを喜ぶ。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かかる処へ、左右の小笹哦嗟々々がさがさと音して、立出たちいずるものありけり。「さてはいよいよ猟師かりうどよ」ト、見やればこれ人間ひとならず、いとたくましき二匹の犬なり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
わが興邦おきくにはなほ乳臭ちのか机心つくえごころ失せず。かつ武芸を好める本性なればかか幇助たすけになるべくもあらず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
このゆえに写生文家は地団太じだんだを踏む熱烈な調子を避ける。かかる狂的の人間を写すのを避けるのではない。写生文家自身までが写さるる狂的な人間と同一になるを避けるのである。避けるのではない。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かかりしは 黄金こがねの 天津横木あまつよこぎ
かかる折から、地方巡業の新劇団、女優をしゅとした帝都の有名なる大一座おおいちざが、此の土地に七日間なのかかんの興行して、全市の湧くが如き人気を博した。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かかる処へ文角の来らんとは、思ひ設けぬ事なれば、黄金丸驚くこと大方ならず。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
神職 そ、その媛神におかせられては、ぐなること、正しきこと、明かに清らけきことをこそおつかさどり遊ばさるれ、かかる、よこしまに汚れたる……
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かかる時桂木の身はあやふしとこそ予言したれ、さいわいに怪しき敵の見出みいだぬは、よしありげな媼が、身を以て桂木をかば所為せいであらう。桂木はほツと一息ひといき
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
神職 退さがれ、棚村。かかる場合に、身らが、その名を聞き知っても、わざわいは幾分か、その呪詛のろわれた当人に及ぶと言う。聞くな。聞けば聞くほど、何が聞くほどの事もない。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前途ゆくて金色こんじきの日の輝く思ひの、都をさしての旅ながら、かか山家やまが初旅はつたびで、旅籠屋はたごやへあらはれる按摩の事は、古い物語で読んだばかりの沢は、つく/″\ともののあわれを感じた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
人に血を吸われたあわれな者の、まさに死なんとする耳に、与吉は福音ふくいんを伝えたのである、この与吉のようなものでなければ、実際またかかる福音は伝えられなかったのであろう。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世を果敢はかなんで居るうちは、我々の自由であるが、一度ひとたび心を入交いれかへて、かかところへ来るなどといふ、無分別むふんべつさへ出さぬに於ては、神仏しんぶつおはします、父君ちちぎみ母君ははぎみおはします洛陽らくようの貴公子
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
よこしまな心があつて、ためにはばかられたのではないが、一足ひとあしづゝ、みし/\ぎち/\と響く……あらしふき添ふえんの音は、かか山家やまがに、おのれと成つて、歯をいて、人をおどすが如く思はれたので
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かか田舎いなかも、文明にれて、近頃は……余分には蝋燭の用意もないのである。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
桂木は伸びて手首をおおはんとする、襯衣しゃつそでき上げたが、手も白く、たたかいいどむやうではないおとなしやかなものであつた、けれども、世に力あるは、かえつてかかる少年の意を決した時であらう。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
拝見の博士はかせの手前——まで射損いそんじて、殿、怫然ふつぜんとしたところを、(やあ、飛鳥ひちょう走獣そうじゅうこそ遊ばされい。かか死的しにまと、殿には弓矢の御恥辱おんちじょく。)と呼ばはつて、ばら/\と、散る返咲かえりざきの桜とともに
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、耳もきばもない、毛坊主けぼうず円頂まるあたまを、水へさかさま真俯向まうつむけに成つて、あさ法衣ころものもろはだ脱いだ両手両脇へ、ざぶ/\と水を掛ける。——かか霜夜しもよに、掻乱かきみだす水は、氷の上を稲妻いなずまが走るかと疑はれる。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すなわち人と家とは、栄えるので、かかる景色のおもかげがなくなろうとする、その末路を示して、滅亡の兆を表わすので、せんずるに、へびは進んでころもを脱ぎ、せみは栄えてからてる、人と家とが、皆の光栄あり
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思ひけず、かかところ行逢ゆきおうた、たがい便宜べんぎぢや。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)