御仏みほとけ)” の例文
旧字:御佛
「ウム、御仏みほとけも、おれたちの奉仕をよみしてくださるだろう。——同時に、おれたちの生活も、今は、感謝と輝きに充ちきったものだ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お肚ではございませんが、これが私の持病でございまして、私はこれがあるばかりに、御仏みほとけにおすがりする気になったのでございます」
法華僧の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
御仏みほとけへのお祈りは始終いたしております。今になりましてはあなた様お一方のために幸福であれと念じ続けるばかりです。
源氏物語:50 早蕨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
けれどもお寺の中のいちばん高いところには、最高の御仏みほとけである仏陀ぶっだが聖なる絹の黄衣こういを身にまとって立っていました。
「昨夜わたしが山の下を通ると、仏のひかりを見た。日をさだめて精進潔斎しょうじんけっさいをして、尊い御仏みほとけを迎えることにしたい」
所詮人界しょせんにんがいが浄土になるには、御仏みほとけ御天下おんてんかを待つほかはあるまい。——おれはそう思っていたから、天下を計る心なぞは、微塵みじんも貯えてはいなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
岩角いはかどまつまつにはふぢき、巌膚いははだには、つゝじ、山吹やまぶきちりばめて、御仏みほとけ紫摩黄金しまわうごんおにした、またそう袈裟けさ、また将軍しやうぐん緋縅ひおどしごとく、ちら/\とみづうつつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
恋ごろもには、『御仏みほとけなれど』と改まれり。『金にはあれど』は、子供くさくして、露骨に失す。『御仏なれど』は、それよりは、よけれど、なほ野暮くさし。
鎌倉大仏論 (新字旧仮名) / 大町桂月(著)
われわれが巡礼しようとするのは「美術」に対してであって、衆生救済の御仏みほとけに対してではないのである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それがつまりそういうようになりまして、あらゆる人間が、人間ばかりでなく動物も植物も、如来である。ただ自分が如来であることに気がついたのが御仏みほとけであります。
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「このご相好、さながら御神みかみじゃ! ……いやさながら御仏みほとけじゃ! ……罪障消滅、無差別絶体! 自他の罪ことごとく許されたおん顔……笑っていられます、微笑ほほえんでいられます!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
御仏みほとけのりの護りと、ことよさし築かしし殿、星月夜ほしづくよ夜空のくまも、御庇みひさしのいや高々に、すずのいやさやさやに、いなのめの光ちかしと、横雲のさわたる雲を、ほのぼのと聳えしづもる。
(新字旧仮名) / 北原白秋(著)
やんごとなき御出身でありながら、八歳のお年より髪を卸して御仏みほとけに仕え奉る。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鎌倉や御仏みほとけなれど釈迦牟尼は美男びなんにおはす夏木立かな
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
御仏みほとけのひかり隠れし闇ながら
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
御仏みほとけと相合傘の時雨しぐれかな
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「おれたちは、信仰の子ではないか。御仏みほとけの心をもって信念とするからには、世俗の思わくなどを考えていては、何もできやしない」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝暮あけくれ仏勤めはしておいでになるようではあるが、確固とした信念がおありになるとは思えない女の悟りだけでは御仏みほとけの救いの手もおぼつかない
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
事によると今夜あたりは、琉球芋りゅうきゅういもを召し上りながら、御仏みほとけの事や天下の事を御考えになっているかも知れません。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さいわい近くにわしの住いがござる、荒屋あばらやではあれど、此処よりはましじゃ、それに君子は危きに近寄らず、増上慢ぞうじょうまんは、御仏みほとけもきつくおいましめのはずではござらぬか
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
御仏みほとけのそのおさなごをいだきたまえるもかくこそと嬉しきに、おちいて、心地すがすがしく胸のうち安く平らになりぬ。やがてぞ呪もはてたる。らいの音も遠ざかる。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしは御仏みほとけに仕えまする者。仏道と魔道とは相さること億万里、お前様のそばへは参られませぬ。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それはつまりあるがままのさながらの世界、みなさんが如来である、それに気がついたものが仏であるという、御仏みほとけとはどんなものであるかということをお話いたします。
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
御仏みほとけのみちびき給ふ旅なれば
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
のりの道場に呉越ごえつはない。一視いっしみな御仏みほとけの子じゃ。しかるに、そこもとたちがひきおこした戦争のために、殺された者はそのかずも知れん。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして二人して御仏みほとけに仕え、ますますこまやかな交情を作っていきたかった、とこんなことさえ思われる薫には、弁の尼姿さえうらやまれてきて
源氏物語:50 早蕨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その御仏みほとけの前の庭には、礼盤らいばんを中にはさみながら、見るもまばゆい宝蓋の下に、講師読師とくしの高座がございましたが、供養くようの式に連っている何十人かの僧どもも
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
御仏みほとけのそのをさなごをいだきたまへるもかくこそとうれしきに、おちゐて、心地ここちすがすがしく胸のうち安くたいらになりぬ。やがてぞじゆもはてたる。らいの音も遠ざかる。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
御仏みほとけのみちびき給ふ旅なれば
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「やはり地蔵尊かの。しかしお顔も衣紋えもんも、ひどく磨滅して貝殻なども附着しておる。察するに、地蔵は地蔵でも、海上がりの御仏みほとけだろ」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「では私がこちらへ来たついでにあなたの授戒を実行させることにして、それを私は御仏みほとけから義務の一つを果たしたことと見ていただくことにする」
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかし好みと云うものも、万代不変ばんだいふへんとは請合うけあわれぬ。その証拠には御寺みてら御寺の、御仏みほとけ御姿みすがたを拝むがい。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たとえ、嫉視しっし、迫害、排撃、あらゆるものがこの一身にあつまろうとも、範宴が講堂に立つからには御仏みほとけ偽瞞ぎまんきぬにつつむようなわざはできぬ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時から宮の外祖母の未亡人は落胆して更衣のいる世界へ行くことのほかには希望もないと言って一心に御仏みほとけ来迎らいごうを求めて、とうとうくなった。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
五位の入道 思はねば何も大声に、御仏みほとけの名なぞを呼びは致さぬ。身共の出家もその為でござるよ。
往生絵巻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それよりも、おぬしはもっと仏陀ぶっだ直参じきさんして、倖い、この沢庵をお取次に、真心の底を御仏みほとけに自首してみる心にはなれぬか
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後宮の生活をするうちに人を嫉妬しっとするような心を起こしてはならない、斎宮をお勤めになった間の罪を御仏みほとけに許していただけるだけの善根を必ずなさい
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
老いたる尼 さあ、それは不思議ですが、やはり御仏みほとけ御計おんはからひでせう。
往生絵巻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お地蔵さまという御仏みほとけは、五濁悪世ごじょくあくせいといわれる餓鬼がき、畜生、魔魅まみちまたには好んでおくだりある普化菩薩ふけぼさつだということです。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六条院は、ここ以外にはどんな御仏みほとけの国でもこうした日の遊び場所に適した所はないであろうと思われた。
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「そのやうな物にお恐れなさるな。御仏みほとけさへ念ずればよろしうござる。」
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
日常の品にも美しい好みをお忘れにならない方であるから、まして御仏みほとけのためにあそばされたことが人目を驚かすほどの物であったことはもっともなことである。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と、あきれていると、信長はずかずか、仏前へすすんで、立居のまま、抹香まっこうをつかんで、御仏みほとけへばらっと投げ懸けて、驚く人々をしり目にさっさと帰ってしまった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現に延喜えんぎ御門みかど御代みよには、五条あたりの柿の梢に、七日なのかの間天狗が御仏みほとけの形となって、白毫光びゃくごうこうを放ったとある。また仏眼寺ぶつげんじ仁照阿闍梨にんしょうあざりを日毎にりょうじに参ったのも、姿は女と見えたが実は天狗じゃ。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これを御仏みほとけへの結縁としてせめて愛する者二人が永久に導かれたい希望が御願文がんもんに述べられてあった。
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
御仏みほとけさえ知って行くすえおききとどけ給わるなら、としていた尊氏の願望だったにそういない。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天気もうららかで暖かい日なので、快くて御仏みほとけのおいでになる世界に近い感じもすることから、あさはかな人たちすらも思わず信仰にはいる機縁を得そうであった。
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「うれしや、神の御加護か、御仏みほとけのひきあわせか、ここで武蔵めに会うとは、よも凡事ただごとであろうはずはない。日頃の信心が通じて、婆の手で、神仏が仇を討たせてたもるのじゃ」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分は無慚むざんの僧で、御仏みほとけの戒めを知らず知らず破っていたことも多かったであろうが、女に関することだけではまだ人のそしりを受けず、みずから認める過失はなかった。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「この山のどこに、真の御仏みほとけの微光でもあるか。国家の鎮護ちんごたる大本があるか!」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)