小蔭こかげ)” の例文
母は自分を小蔭こかげへ呼んで、「二郎お前どうするつもりだい」と聞いた。自分は自分の留守中に兄が万事を母に打ち明けたのかと思った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余りの不思議さに自分は様子を見てやる気になって、ある小蔭こかげに枯草を敷ていつくばい、ほんを見ながら、折々頭を挙げての男をうかがってた。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ときがつかなかつたが、ときかへりがけに案山子かゝし歩行あるうしろからると、途中とちゆう一里塚いちりづかのやうな小蔭こかげがあつて、まつ其処そこに、こずえひくえだれた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
近づいて這入はいりでもするかと思われたのに、三人はそこの小蔭こかげたたずむと、遠くから客の在否を窺った。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
此のとき河内介輝勝も則重の近習きんじゅうとして従っていたが、八月十日の合戦の最中に、則重が城の大手おゝてから十五六丁離れた森の小蔭こかげに馬を立てゝ軍勢を指揮していると
気性きしょうったははは、くちしてはべつなんとももうしませんでしたが、それでもおんな矢張やはおんな小蔭こかげへまわってそっとなみだぬぐいて長太息といきらしているのでございました。
進め居たりしが今老人の突出つきいだされしを見て餘りのいたはしさの儘彼の老人を小蔭こかげ指招さしまね其許おまへ先刻さつき豐島屋にて酒を飮歸りし跡に何かは知ず木綿もめんの財布らしき物落て有しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ははあ、また出て来て、庭で方々へすわりました。あのアポルロの石像のある処の腰掛に腰を掛ける奴もあり、井戸のわき小蔭こかげしゃがむ奴もあり、一人はあのスフィンクスの像に腰を掛けました。
とただ一言我知らず云い出したるぎり挨拶あいさつさえどぎまぎして急には二の句の出ざるうち、すすけし紙に針のあな、油染みなんど多き行燈あんどん小蔭こかげ悄然しょんぼりと坐り込める十兵衛を見かけて源太にずっと通られ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
森の小蔭こかげ
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
たゞ左右さいう斷崕だんがい其間そのあひだ迂回うねながるゝ溪水たにがはばかりである。辿たどつておくおくへとのぼるにれて、此處彼處こゝかしこ舊遊きういうよどみ小蔭こかげにはボズさんの菅笠すげがさえるやうである。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
その折そっと母を小蔭こかげに呼んで、兄の様子を聞いて見たら「近頃は少し好いようだよ。時々裏へ出て芳江をブランコに載せて、押してやったりしているからね。……」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一寸ちよつとと云て小蔭こかげまねき今日は何樣どうとも都合つがふなし是非若旦那へ此文を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
見ればはれ渡りたる北斗のひかり晃々ぴか/\として襟元えりもとへ落る木滴きしづくに心付見ればをけそばに打返して有しにぞ彌々いよ/\不審ふしんに思ひ彼方此方かなたこなたと見廻す中彼の重五郎は柳の小蔭こかげよりと立出小聲にてアヽもし安五郎樣私は白妙樣しろたへさまにはのがれぬ縁の有者此の處にての長談ながばなしは無益なり少しも早く鞠子まりこの奧の柴屋寺しばやでらへ御出成れて御待あれ委細ゐさい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)