小橋こばし)” の例文
る裏町にある小橋こばしの四方を雑多な形の旧いすゝばんだ家が囲んで、橋の欄干の上に十人ばかり腰を掛けて長い釣竿を差出した光景が面白かつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
とソッと忍んで關善の裏手へ出まして、叶屋のわきから小橋こばしを渡り、田村の下の小商人こあきんどの有ります所に蕎麦店そばやがございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二の橋の日向坂はその麓を流れる新堀川しんほりかわ濁水だくすいとそれにかかった小橋こばしと、ななめに坂を蔽う一株ひとかぶえのきとの配合がおのずから絵になるように甚だ面白く出来ている。
次の日は、夜にって、彼が月島の自宅から、銭湯せんとうに行ってのかえりに、小橋こばしたもとから、いきなり飛び出して来た。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やがて、まッくらな瀬田せた唐橋からはし小橋こばし三十六けん、大橋九十六けんを、粛々しゅくしゅくとわたってゆく一こう松明たいまつが、あたかも火の百足むかでがはってゆくかのごとくにみえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戀々れん/\として、彽徊ていくわいし、やうやくにしてさとくだれば、屋根やねひさし時雨しぐれ晴間はれまを、ちら/\とひるひともちひさむしあり、小橋こばし稚子等うなゐらうたふをけ。(おほわた)い、い、まゝはしよ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
幅の狭いアミアン川が市街にはひつて更に幾つとなく枝流しりうを作つて居るので石の小橋こばしが縦横に掛つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
町を流るゝ大川おおかわの、しも小橋こばしを、もつと此処ここは下流に成る。やがてかたへ落ちる川口かわぐちで、の田つゞきの小流こながれとのあいだには、一寸ちょっと高くきずいた塘堤どてがあるが、初夜しょや過ぎて町は遠し、村もしずまつた。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
海面より低いこの国は、何処どこへ行つても狭い運河カナルが縦横に通じて、小橋こばし色色いろいろに塗つた美しい船との多いのがに見られない景色である。建築は一体にひくい家ばかりで三がい以上の物はすくない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
の、いま、鎭守ちんじゆみやから——みちよこぎる、いはみづのせかるゝ、……おと溪河たにがはわかれおもはせる、ながれうへ小橋こばしわたると、次第しだい兩側りやうがはいへつゞく。——小屋こや藁屋わらや藁屋わらや茅屋かやや板廂いたびさし
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
庵室あんじつの客人が、唯今ただいま申す欄干らんかんに腰を掛けて、おくれ毛越げごしにはらはらとなびいて通る、雪のような襟脚えりあしを見送ると、今、小橋こばしを渡ったところで、中の十歳とお位のがじゃれて、その腰へき着いたので
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何心なにごころなく、背戸せど小橋こばしを、向こうのあしへ渡りかけて、思わず足をめた。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのふもとまで見通しの、小橋こばし彼方かなたは、一面の蘆で、出揃でそろってや乱れかかった穂が、霧のように群立むらだって、藁屋わらやを包み森をおおうて、何物にも目をさえぎらせず、山々のかやすすき一連ひとつらなびいて、風はないが
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)